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尻から紐……? 知らないうちにお腹で寄生虫を飼い続けた人に話を聞いてみた

 ある日、トイレでお尻を拭いたらひも状のものが出てきた……。皆さんは想像できますか?これ、寄生虫に感染するとこんな事が起きるんです。そして、こんな事が実際に起きてしまった人の、発見から駆虫に至るまでの経過を追ってみました。

※注意:「おたくま経済新聞」に掲載したオリジナル記事の末尾には、洗浄したあとのサナダムシの写真を掲載しています。閲覧は各自判断で行ってください。

  •  サナダムシ、という寄生虫の名前を聞いたことがある人はいると思います。その中の、「日本海裂頭条虫」と言う名のサナダムシが今回の駆除対象。これは日本のサケやマスを生で食べた人に、たまに付いてくる事がある寄生虫。国立感染症研究所の調査によると、年平均で40匹例前後、しかし実際の発生数はその数倍と推定されるそう。

     今回、このサナダムシに寄生されたのは、毎年のようにインドへ渡航しているという、インドが大好きなスネアちゃん127さん(以下スネアちゃん)。

    ■ お尻から出てきたのは、腸ではなく虫だった

     感染していた事に気が付いたのは、9月5日の朝の事。トイレでお尻を拭いていたところ……手にぺちっと当たる何かが?

     「え?腸が出た?」びっくりして119で救急車を呼ぶも、救助隊員も前例がなかった様でパニック状態。とりあえず受け入れてくれるという救急外来に運ばれ、問題のブツを医師に診てもらい、出てきているソレをナースが力いっぱい引っこ抜いてみようと試みたところ……ぶっちーん!数センチのところでちぎれてしまったのでした。もちろん、痛い!!そして腸の中でどうなっているかをみるため、お腹のCTを撮影。

     運ばれた病院ではサナダムシに関する専門医がいない、この虫がどういう物かが特定できない、ということで、大きい医療センターに紹介状を書いてもらい、標本にされたサナダムシのちぎれたものとCT画像とともに、その足で受診へ。

     医療センターではサナダムシが尻から出たまま約2時間待たされました。やっと診察室に入ってみると、白衣をまとった40代くらいの爽やか医師が登場。その道のプロで博士でもある医師に対し、持参したサナダムシを早速みせてみると?

     「うわ!これは!寄生虫だね!日本じゃないね?インド!インド行っていたのか!おー、これは珍しい」と大興奮。

     ということで、スネアちゃんはインドでの食事や飲み水などについて事情聴取を受けることに。スネアちゃんご自身、インドの生水や生の食べ物は危険であることは重々承知していたので、特に思い当たる節がなかった……いや、じつはあったんです。

     前回インドに行った時に、列車内で熱中症で意識もうろうとしていたスネアちゃん、自力での水分摂取もままならなかったのですが、その場にいたインド人の皆さんが寄ってたかって水分を飲ませてくれたのだそう。もしかしたら、これが原因……???

     日本に生息している日本海裂頭条虫とインドのそれは、若干違う部分がある様で、他の医師たちも滅多に見る機会がないということでわいわいキャッキャの鑑賞会に。そして博士から入院を告げられたのでした。

     病院のベッドの空き具合と、博士が新鮮なサナダムシを直接見たいということもあり、入院は9月の17日~18日に決定。10日間以上、サナダムシを引き続き飼い続けることになってしまったスネアちゃん……。

     でも、ブツを見てしまった以上はやはり心配に。博士の説明によると、インドにはこのサナダムシ以外にも、人間の体内をあちこち移動して、胸膜炎や脳に移行して最悪死亡させる寄生虫もいるとのことですが、サナダムシ自体は腸に生息する寄生虫。これまでにもずっとお腹の中で悪さをせずに来ているので問題ない、との事で、スネアちゃんは帰宅。

     しかしやはり不安も……さらにはネタとして面白いという気持ちも……。数日後に、これまでの顛末をツイッターに投稿してみました。もちろんネットは騒然。そんな騒動もありつつ、お腹の子?との決別を果たすべく、スネアちゃんは9月17日入院したのでした。

    ■ いよいよ対面の時へ……

     入院すると早速、今後食べることになる「低残渣食」という食べかすや繊維質の少ない食事についての説明を受けたそうです。その時、メニューを選べたそうですが「私は病院が、勧めてきた麺類を選びました」とのこと。この選択が後に、ちょっとした後悔をうむことに……。

     それから、腸の中を極力カラにすべく、2種類の下剤を寝る前に内服。そして翌日、朝ご飯は絶食のまま、虫下し用の薬を内服。さらに虫が出やすくなるように大量の下剤を飲み、排出へという流れなのですが、スネアちゃん曰く「下剤飲んで便意を1.5時間我慢が1番辛かったです…人間の尊厳失うところでした」と、その時の様子を回顧。まだ個室で専用のポータブル便器があったのは救いだったのかも……。

     そして……

     人間の尊厳を失うことなく、排出に成功!!どばーんと出てきたサナダムシとご対面。したのはともかく、低残渣食ということで選んだのは、麺類……。そして、昼食ですよーと運ばれてきたのは、そうめん……。一瞬思うこともあったようですが、なんだかんだ美味しくいただいたそうです。

    ■ ついにサナダムシの素顔、明らかに

     医師らによって洗浄されたサナダムシ。途中でこんがらがって、広げるのに2~3時間もかかったのだそう。そして入れ代わり立ち代わり、サナダムシを見学に来る医師たち。そりゃ、滅多にない症例なので医師としては見ておきたいところ。

     広げて伸ばしてみた結果……体長は何と6m!!長い……!!せいぜい平均値である2~3m程度かと思われていたところのこの長さ!その場にいた医師らは大盛り上がりとなったそうです。しかし、博士はこのサナダムシが日本のものであるのか、インドから来たモノであるのかまでは不明ということで、スネアちゃんによると若干がっかり感も漂わせていたとのこと。できればインド固有のものや新種を見てみたかった、と思っていたのかもしれませんね。

     そんなことはさておき、取り出して洗浄した後のサナダムシをほぐしている間、医師らは大いに盛り上がりながら、ワイワイと作業をしていたのだそう。

     その間、7人ほどが入れ替わり立ち代わりしつつ医師が見学に。博士がスネアちゃんに語った説明によれば「やはり珍しいのは珍しいので、生で見れる時に研修医などに見せて、これからもし同じようなことが起きた時のために経験させたい」という目的もあったそう。

     確かに、サナダムシ自体に寄生されることも減ってきた昨今、ここまでの大物を見る機会もそう滅多にないものです。予防接種で一時期はしかや風疹が沈静化していたので、最近になって感染が再燃した時にも、症例を直接診察した経験のない医師が症状を見落としていた、ということもありましたし、百聞は一見に如かず、です。

     出てきたサナダムシは、半透明の薄黄色のもの。食べ物に例えたくなりますが、これを言ってしまうと食べられなくなってしまう人もいるかと思います。

     なお、スネアちゃんから画像を提供してもらいましたので、今後誰かの参考になるかも……という思いもあり、あえてモザイクをかけない状態で記事末尾に掲載します。閲覧は各自判断で行ってください。※外部に配信した一部の記事では表示されません。

     ちなみにこれを見た正看護師でもある筆者、あまりの長さに大爆笑。見事に美しく整列させたなぁ……と感心していました。看護師やっていても、なかなかお目にかかれないので、しばしまじまじと見てしまっていました。これは貴重な標本になりそうです。

    ■ サナダムシのその後

     このサナダムシ、さすがに記念に持ち帰るという訳にはいきません。サナダムシを広げて整列させている間、博士が漫画が好きということもあり、サナダムシを見て、jojoのスタンドならジョリンのかなーなどと盛り上がっていたそう。

     そしてスネアちゃん。記念にというワケではないのですが、「何かに残したいなーということでステッカーにすることにしました」と、この同棲相手との思い出をステッカーという形で残すことにしたそうです。また、サナダムシの行方については「ホルマリン漬けはされずに焼却されたと思います!火葬です!」と教えてくれました。

     今や日本ではすっかり影を潜めつつある寄生虫。ちょっと前までには小学生の肛門にぺたりと貼り付ける蟯虫(ぎょうちゅう)検査も廃止され、生のサバやイカでアニサキスに食いつかれる人が時々発生する程度になりました。

     しかし、意外と気が付かないまま寄生虫が何か月もお腹の中にいることも実はまだあります。スネアちゃんの場合も、誰にも気づかれずにひっそりと腸の中で暮らしていましたが、特に激しく痩せたりということはなかったのだそう。

     いずれにせよ、寄生虫自体が専門家ではないとどのようなものか断定できない上、衛生面的に危険な地域ではまだ様々な寄生虫や感染症にかかる場合もあります。海外、特に衛生状態の発達していない地域に出かける時は、渡航前に、渡航先で流行している感染症がないかチェックし、生のものは絶対に口にしないよう心がけてくださいね。海外でサラダを食べて、危うく死にかけたという人もいるくらいですから。

     さて、6mにもなるサナダムシをお腹で飼っていたスネアちゃん。今回の出来事を振り返り、最後にこんなことを語っています。

     「お医者様たちに感謝です!」と、担当した医療関係者への感謝の言葉を述べつつ、「“また帰国して何かあったら来てね”と言われたので、主治医ができた感じがして嬉しかったです。これでまた海外にいけます!次は2月にまたインド行くので次こそ新種やどしてきます!」なんて冗談も。

     実はこの冗談にはわけがあり、「インドが怖いと思ってもらいたくないので、また元気に私は行くんだよーという感じのことが伝わったらいいなと思います!」という思いを教えてくれました。次の旅は来年2月。冗談は置いておくとして、今度こそ水や食べ物には注意してくださいね!

    <引用・参考>
    国立感染症研究所 わが国における条虫症の発生状況

    <記事化協力>
    スネアちゃん127さん(@fine3souseiji)


    (梓川みいな/正看護師)

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