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「聴覚過敏マークをもっと知って欲しい!」一人のクリエイターが目指すもの

 発達障害の認識が少しずつ浸透していっている現在。しかし、ざっくりと発達障害と一括りにしても、一人ひとりがそれぞれ様々な困りごとを抱えており、診断されたそれぞれが凹凸の大きな個性によって生き辛さを感じています。

 その中でも、特に誤解されがちな「聴覚過敏」。発達障害によくある「感覚過敏」の中のひとつですが、目に見えず他の人には感覚的に分かりにくい上に、騒音対策として使っている補助具を耳に付けるために、音楽を聴いていると誤解されやすいのが多くの聴覚過敏者の困りごと。そんな困りごとを抱えた一人のクリエイターが、啓発用グッズを作ることで周知を広めたい、と活動しています。

  • ■ 聴覚過敏当事者が始めた活動

     発達障害による聴覚過敏を抱えているmicoさん。micoさんは、聴覚過敏以外にもさまざまな生き辛さを抱えながら、聴覚過敏マークを広めるための活動を行っています。

     そのきっかけとなったのが、同じ辛さを抱えている人をツイッターで探していた時に目に入った、「聴覚過敏マーク」。2018年の1月に出会い、以降このマークを私生活に、そして周知用にとグッズを作っています。

    ■ 聴覚過敏マークが生まれてから今まで

     以前から、聴覚過敏についての記事を幾つか執筆している筆者ですが、その記事を書く際に「株式会社石井マーク」の社長に話を振ったことが発端となって出来上がったのが、この「聴覚過敏マーク」の絵記号です。

     絵記号が誕生してから2年。石井社長は聴覚過敏マークをより使いやすく、見やすく、分かりやすくと試行錯誤を続け、「マークは困っている人に広く使って欲しい」と、個人・商用問わず無償開放している図案として2017年10月より専用ページにて公開、そして聴覚過敏で困っている人たちの、いわば「お守り」的なシンボルマークとして少しずつ浸透していきました。

     このマークを見せることで周りからの理解を得られた、という声がネット上のあちこちから聞こえてくるなか、未だ発達障害と感覚過敏や聴覚過敏についての無理解、偏見もあまりネットを見ない層を中心に強く残っています。

     ラジオ番組での石井社長インタビューの他、新聞やマスコミ関係のメディアにも紹介されていますが、石井社長は、「このマークを作った経緯を善意や美談に仕立て上げて欲しくない」と度々ツイッターでつぶやいています。

     「公共デザインにも関わるマーク屋としてお題を振られたから作っただけであり、それはただ自分に課した役割に過ぎない」。石井社長は筆者の質問にこのような回答をされています。しかし、micoさんの様に個人で啓発を頑張っている人に向けて「フリー素材を使って金を儲けるのか」といった内容を見かけるにつけ、石井社長は強い憤りを感じています。

     本来、困っている人たちがより使いやすいように広く浸透して欲しい、そのためには個人・商用問わず、本来の目的に合わないような改ざんさえなければ誰でも使って欲しいし、むしろこのマークを使ってどこかの企業が売り出すことも何ら問題ではない、としています。例えを言うなら、100均で売られているような、障害者が乗っていることを示す車用ステッカーと同じくらいどこでも手に入る。そのくらいまで広まって欲しい……。

     石井社長の想いを継いで、ひとり奮闘しているのが、先にご紹介したmicoさん。石井社長が公開しているデータを元に、缶バッジやキーホルダーなどを制作し、個人出品ができる販売サイトで販売を続けています。

    ■ ひとりだけでの活動に心折れそうなこと、そしてデータを作った側、グッズを作る側、周知活動を進めるそれぞれの共通認識

     しかし、micoさんの活動を妨害するような人が出てきています。「フリーのデータで金儲けをしているのか」「先に自分が聴覚過敏マークのバッジを作ったのだから販売をやめろ」……そんな心無い言葉に何度もmicoさんは傷つけられ、心が折れかけたことも度々。

     そうした状況を憂いた石井社長は、
    「そもそも弊社としては、件のシンボルマークをグッズ(ハード)として製作・販売して下さる皆様には充分な『利益』が得られるよう価格設定をして頂くべきだと思っています」
    「要は『マーク屋がマークを用意した』に過ぎないのです。残る仕事は、これを普及して下さる方にまで余計なツッコミをかける輩に助走付きフライングクロスチョップを浴びせる事です」

    とツイッター上でコメント。

     石井社長がデータを用意し、クリエイターや企業などがそのデータを使ってグッズを作り販売、そしてそれを我々メディアが「聴覚過敏マーク」をもっと知ってもらうべく情報をまとめて広く知られる手段としてネットニュースなどにする。こうした役割分担をそれぞれが行い、続けていきたいというのが、石井社長とクリエイターの皆さん、そして筆者を含む社長の意図を正しく解釈したメディアの共通認識です。「善意」や「美談」という形でまとめらるのではなく、それぞれがそれぞれの役割を果たしている、ただそれだけなのです。

    ■ なかなか伝わらない、自分だけが感じる感覚と周りの無理解

     micoさんは、これまでの生活の中で、聴覚過敏含む感覚過敏は、ただの「神経質」「大袈裟」と捉えられることが本当に多く、理解が得られないことにより、何度も辛い思いをしてきました。「やっとの思いで周りに症状を伝えられても否定的な言葉で傷つけられたことも少なくありません。そして、イヤーマフや聴覚過敏マークをつけてお出かけした時には歌を聴いてると思われて嫌味を言われたり、笑われたり、『恥ずかしい』とまで言われたこともありました。そういったことは本当に辛いです」と。

     これは多くの発達障害を持つ人たちが共通して感じる辛さです。特に子どもで自分の感じていることが上手に言葉として伝えることが出来ない場合、この様な特性で辛く感じていることに対してパニック状態に陥り、暴れたり奇声を発するなどということにも繋がります。

     しかし、自分自身の特性を成長とともに理解し、同じ仲間や理解者を得られることで、自身の特性にどう対処していけばよいかを様々なところから情報を得て、学び、状況に見合った対策を行えるようになります。micoさんの場合も、ノイズキャンセル機能つきヘッドホン、耳栓、イヤーマフをその時の環境や自分の状態に合わせて使い分けています。

     そして、症状がどのような時に強くなるかを把握し、体調管理をしていく、無理をせず休息をとりながら、疲れがひどくならないようにする、などといったことも意識しているそうです。外出時には、不特定多数に対しても周知してもらえるように、聴覚過敏マークを見えるように身につけるといったこともされています。

     自分の持つ感覚を周りになかなか理解してもらえない……そんな辛さに対し、micoさんは、「SNSでたくさんの同じ悩みの方と繋がることが出来たり、情報を交換、共有出来たことです。『周囲から理解されない』という辛い気持ちをかなり和らげることが出来ました」と、ネットを介して自分だけではない、という辛い気持ちから少しずつ解放され、自分に出来ることを、と周知活動に力を入れるようになりました。

    ■とにかく多くの人に知ってもらいたい、そのために……

     まずは知ってもらうこと。マークが誕生して2年。SNSを介して発達障害を抱える子の保護者から大人の当事者まで、発達障害界隈で広がりつつありますが、それ以外の層にはまだ周知はほど遠い状態。ネット上にある自分の知りたい情報、ニュースサイトでトピックスとしてあげられているものには目を通すが、それ以外の情報までは読まない、という人も数多いのが現状です。

     その状況から1歩前に進むためにも、今後もmicoさんはグッズ制作と周知活動を続けていきたい、そう話しています。micoさんの他にもこのマークを使ってハンドメイドマーケットに出品している人は他にもいます。今後、micoさん以外にも多くの人が関心を持ち、同じ志を持つ人たちがグッズ制作や何かしらの周知活動を行ってくれることを、筆者自身も期待し続けています。

    <記事化協力>
    micoさん(@ENI3435)
    株式会社石井マークさん(@ishiimark_sign)

    (梓川みいな)

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    一般内科、呼吸器科、整形外科、老年科、発達障害などを得意とする。医療・介護福祉等に高反応。雑多なネタも紹介していきます。
    娘二人(ともに発達障害あり)とネコ二匹の母。シングル。

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