おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

おでんの餅巾着が1.5倍 親子の愛ゆえに起こった「善意の交差点での接触事故」

 老いゆく親の姿を心配する子、老いても子のことをいつも想う老親。そんな親子の心配と善意が交差した結果、思わぬ事態になってしまったという状態に「親子愛ゆえのいい話」とツイッターで話題になっています。

  • ■ 善意のすれ違いが起こしたこと

    “ここ数年、実家滞在中におでんが出た時は、しれっと餅巾着を食べ尽くすようにしてた。

    両親共に高齢だから、餅が何となく心配で…

    んで今日の実家の夕食はおでん。
    そこには目測で例年の1.5倍の餅巾着。

    「あんたコレ好きみたいやけん多めに入れた」と母。

    善意の交差点は、時々接触事故が起きる。”

     と、帰省時の出来事をツイッターに投稿したのは、千葉のプロレス団体・2AW所属プロレスラーの旭志織さん。旭さんの両親は福岡、旭さん自身は千葉在住ということで、帰省もそう頻繁にはできない距離。そして、旭さんのお父様は79歳、お母様は77歳と、高齢者ならではの事故が起きやすくなるお年頃。

     高齢の両親がお餅を食べることに心配した旭さんは、好物を作って迎えてくれる両親のことを思い、おでんの時は餅巾着を両親が食べる前に、何気なくさりげなく鍋の中から消し去っていってました。

     が、母の息子に対する観察眼は年をとっても衰えません。旭さんの親思いの行動が、「餅巾着は息子の好物」だと思ったようで、いつもよりも多めに入れてしまったという事態に。言葉を添えずに起こした善意が、思わぬ形となって返ってきてしまいました。

     ツイートを目にした人たちからは、「いい話だなぁ……」「やっぱり母は子供をよくみてますね」「愛の誤解あるある(笑)」と、ほほえましく思った様子。一方で、「気恥ずかしくても本音をちゃんと伝えて置かないと痛い目にあうという教訓ですね」「もう口に出してはっきり言うしかないですね」と、言葉で伝えることは大事、というコメントも。

    ■ 老親への思いと心配

     旭さん自身「もともと、あまり年寄り扱いされることを好まない両親なので、直接言葉で伝えるのではなく、物理的に危険のあるものを無くしてしまえば!という思いでの行動だったのですが…逆効果でした」と振り返っています。

     旭さんに話を聞いてみたところ、ご両親とも、昭和10年代生まれ。昔気質で頑固な所も多いのですが、性格は基本的に温厚で、たまに帰省すると旭さんの好きなものを作ってくれたり買い置きしてくれてたりと、体を張って頑張っている息子さんを大事に思っている様子。

     元警察官のお父様は、数年前に脳出血で倒れて以来、右半身に麻痺がある状態。家屋内はバリアフリー改修したものの、片麻痺により何とか自力での歩行は可能なものの、やはり介助が必要な部分もあり、食事中にむせて咳き込んでしまうことも多いのだそう。

     片麻痺により、顔の半分や嚥下(えんげ:飲み下す)機能の片側半分が麻痺してしまうと、食べたものを上手く飲み込みにくくなり、食道に行かずに気道の方へ流れ込んでしまうため、むせてしまうことも増えます。その結果、誤嚥性肺炎という厄介なことにつながったり、餅による窒息もあり得ます。旭さんが心配なのはその辺り。

     幸い、お母様は年齢相応に健康ではありますが、年とともに咀嚼(そしゃく:もぐもぐする)機能の衰えや、嚥下機能は意識しないとどんどん衰えていってしまう世代。年より扱いされたくない両親を思って、高齢者に起きやすい事故の話をあまりしにくい部分もあったのかもしれません。

    ■ 年齢と衰えを自覚してもらう難しさ

     70代は、自身の衰えを実感しつつも、まだ受容できない人が多い世代。電車やバスで席を譲ろうとしたら、「人を年より扱いするな!」と怒ってしまうのもこの世代が多いものです。そして、脳出血という大病の後に残る後遺症は、自分の体が今まで通りに動かないというショックと、今まで通りに動かないことに対して受容しきれない部分も多く、リハビリが上手くいかなかったり、自暴自棄になってしまうことも多くみられます。

     旭さんのお父様は、大病後に自宅を改修したり、リハビリを行うことで自力での歩行ができるまでにはなったものの、昔気質で頑固な性格ゆえに、物理的に危険と思われることを無くしていく方向でと旭さんは行動していた様ですが、結局は逆効果となってしまっています。

     親を思うあまり、逆に上手く伝えられなかったり、衰えを指摘するのに躊躇してしまうという話は、実はどこの家庭でもありがち。結局は、衰えている本人が自身の老いを自覚しないと、思わぬ事故につながってしまうことにもなりかねないのです。

    ■ 年齢を普段の会話に出して老いを少しずつ認識してもらう

     「お母さんさ、60代の頃に比べて70代の今ってしんどいやら疲れたやらって言葉が増えたよね」実際にこんな言葉を出すと、「えぇー?そうだったかしら?」となるのは大体どこの家でもありがちな会話。「最近血圧が前よりも高いって健診で言われちゃって……」とか、「骨粗しょう症だから転ばないように言われたわ」などという言葉がでてきたらしめたものです。

     年を取るにつれ、何かしらのちょっとした症状は出やすくなるもの。ちょっとでも「腰が痛い、膝が痛い」という言葉が出るようなら、「年が年だからしょうがないけど、整形外科で湿布もらってきたら?」と、年齢と出ている症状、健診などで医師から言われた言葉などを絡めて衰えを少しずつ指摘していくことで、年相応の老いを認識してもらう、この繰り返しをさりげなくちょくちょく話すことで、徐々に「この年だから仕方ないのか……」と受け入れられるようになってきます。

     また、老親と同世代の人が実際に遭遇した話をそれとなくしても効果があるかもしれません。「うちの近所で良くしてくれてるお母さんと年が近いおばちゃん、この前転んで腕の骨折って大変なことになってたよ」とか、「高血圧を自営業だから忙しいって放っておいた人、結局脳出血になっちゃって3日3晩、ICUで生死をさまよっていたの」という話は、実は筆者も割と使いがち。

     筆者は看護師として呼吸器と整形外科の病棟、内科外来、老人施設と渡ってきましたが、なまじ自分が見てきただけに、その話を聞いていた筆者の親は、70代に上がったあたりで老い支度を始めるようになりました。よほど生々しく聞こえていたのもありそうですが……。長距離運転が好きな実父(71)も、その母親(=筆者の祖母)の法事に車で長距離移動をするのをラストランと決めたようで、以降は3ナンバーセダンから軽自動車に乗り換えて、免許の返納も考え始めているようです。

    ■ 普段からの親子の会話がカギとなる

     これから老いていく親を前に、どう話を切り出せばいいか分からない人もきっと多くいると思います。特に大病を患ったことがない人ほど、こういった話はなかなか切り出しにくいもの。面と向かって「もう年だから終活考えないとだね」と言うのは結構な高さのハードルです。

     しかし、年を取るにつれていつ何が起きてもおかしくないのは事実。なので、近所の噂から新聞などに載っている高齢者の事故を引合いに、話を広げていくというのは子どもができる親孝行のひとつかもしれません。普段から親の体調をそれとなく聞き、「そりゃ年だから」という言葉をさりげなく交えつつ気遣う、という姿勢で会話を広げることで、親からしてみても「この子は自分のことを大事に考えてくれている」ということが伝わりやすくなるかもしれませんよ。

     特にこれからの季節、お餅を食べる機会も増えてきます。「まだ年なりだけどしっかりしているし」と思っていたら、のどに詰まらせたという事例は毎年起こっています。毎年起こる窒息事故を自分の親が起こさないようにするためにも、「70過ぎたらお餅は丸ごと入れないで切って使うと、のどに詰まりにくくなるから安全が増すんだって」なんて話を普段からしておきたいですね。

    <記事化協力>
    旭志織さん(@gokigenYo_asahi)

    (梓川みいな)

    あわせて読みたい関連記事
  • 逆、逆〜!晴れた日の公園で遊ぶ父と息子の"逆転現象”が微笑ましくなる
    インターネット, おもしろ

    逆、逆〜!晴れた日の公園で遊ぶ父と息子の”逆転現象”が微笑ましくなる…

  • 好物×好物=大好物?焼きそばとケーキが好きな母に贈られた“完璧”なプレゼント
    インターネット, おもしろ

    好物×好物=大好物?焼きそばとケーキが好きな母に贈られた“完璧”なプレゼント

  • 画像提供:ありす@10mさん(@Alice_lgst)
    インターネット, びっくり・驚き

    浴室ドアに現れた子どもの顔に驚愕!ママが体験したホラー映画のような瞬間

  • 「笑顔あふれる東京に……」 関根勤と麻里の願いも込めて多くのランタンが東京の空へ
    イベント・キャンペーン, 経済

    「笑顔あふれる東京に……」 関根勤と麻里の願いと共に多くのランタンが東京の空へ

  • あせろらさん(@aserora_null)
    インターネット, おもしろ

    将来有望!娘の体幹の強さに母も「えぐない?」とビックリ

  • 画像提供:JK(ジャンカー)固ツイかなり有益さん(@i9_15900ks)
    インターネット, おもしろ

    お母さん、ありがとう!高校生活最後のお弁当に入っていたのは「うなぎ」

  • 画像提供:akiさん(@aki_goodspeed)
    インターネット, おもしろ

    落ち葉でピカチュウゲットだぜ!親子の力作に約20万いいね

  • 画像提供:とっとさん(@totto_ikukyu)
    インターネット, おもしろ

    浴室に現れた「血文字」の正体は…9歳娘が入浴剤で書いた愛のメッセージ

  • 家事中のおかんとセッション?! シュールすぎるギター演奏動画
    インターネット, おもしろ

    家事中のおかんと熱いセッション!? シュールすぎるエレキギター演奏動画

  • 画像提供:ダンボールビーダマンさん(@dandanb_dama)
    インターネット, おもしろ

    誰でも簡単にホールインワン!2歳の息子発案「1ヤードゴルフ」に父も夢中

  • 梓川みいな看護師(正看護師有資格者)

    記事一覧

    一般内科、呼吸器科、整形外科、老年科、発達障害などを得意とする。医療・介護福祉等に高反応。雑多なネタも紹介していきます。
    娘二人(ともに発達障害あり)とネコ二匹の母。シングル。

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと
    社会, 雑学

    災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと

  • お餅での事故を防ぐ ここがポイント!(出典:政府広報オンライン)
    社会, 雑学

    お餅での事故を防ぐ 3つのサインと3つのポイント!

  • 【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?
    ライフ, 雑学

    【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?

  • みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?
    ライフ, 雑学

    みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?

  • 【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし
    ライフ, 雑学

    【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし

  • エクストリーム! 全自動マーブルチョコの色分けが装置爆誕
    インターネット, おもしろ

    エクストリーム! 全自動マーブルチョコの色分け装置が爆誕

  • トピックス

    1. 丼にサンマが丸ごと横たわる衝撃 牛角の「秋刀魚ラーメン」実食レポ

      丼にサンマが丸ごと横たわる衝撃 牛角の「秋刀魚ラーメン」実食レポ

      焼き肉チェーンの牛角は9月4日より、サンマを丸ごと一尾のせた「牛角流秋刀魚ラーメン」を販売しています…
    2. 伝説のカンフー映画「酔拳」吹替版、YouTubeで1か月限定無料配信

      伝説のカンフー映画「酔拳」吹替版、YouTubeで1か月限定無料配信

      ジャッキー・チェン主演の名作アクション映画「酔拳(吹替版)」が、Prime Videoの「シネフィル…
    3. 小学生の耳からシャーペン消しゴム 耳鼻科で無事摘出

      小学生の耳からシャーペン消しゴム 耳鼻科で無事摘出

      小学6年生の男児が耳の痛みを訴え受診したところ、耳の奥からシャープペンシルの消しゴムが摘出されました…

    編集部おすすめ

    1. 松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え

      松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え

      エイベックスの松浦勝人会長は9月4日、自身のX(旧Twitter)で新たに「松浦顧問制度 シーズン1」を立ち上げたことを報告した。内容は「月…
    2. 「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる……」Xで飼い主さんにこうつぶやかれたのは、4羽の白文鳥さんたち。添えられた写真には、4羽が棚の上に連なって集まり、まるで連…
    3. 法事でオリジナルTシャツ!?音楽フェスのような斬新な引き出物が話題

      法事で配られた家紋&没年入りTシャツが話題 “フェス感”漂うセンスに爆笑

      法事の引き出物(お返し)といえばお菓子やカタログギフトが王道ではないでしょうか。しかしときには予想だにしない品をもらうこともあるようで……。…
    4. 災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      フィリップ モリス ジャパン(PMJ)が、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)と共同で、避難生活に特化した支援ネットワーク…
    5. 「週刊文春」2025年9月4日号(8月28日発売)

      週刊文春、最新号表紙は「白紙」 48年続いた和田誠さんの表紙絵に幕

      総合週刊誌「週刊文春」は、2025年8月28日発売の9月4日号で48年間にわたり表紙を飾り続けたイラストレーター・和田誠さんの絵を終了し、大…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト