うつ病や発達障害による二次的な症状は数多く、日ごろから悩まされている人も少なくありません。しかし、見た目では分からないものなので、健康な人はなかなか理解しにくいところがあります。そんな中、突然の過呼吸に見舞われた女性を介抱した男子学生らに称賛の声が集まっています。
電車で過呼吸になった時、倒れそうだった私を助けてくれた学生の男の子達。
あなた達がお茶をくれたり背中を摩ってくれたからパニックにならずに済みました。
「ヘルプマークは見たら助けろって母さん言ってた」
素敵な子に育ててくれてありがとうご両親
素敵な息子さんです
この感謝の気持ちをツイッターに投稿したのは、自身が抱える発達障害とともに生きるウェブライターのむーこさん。このとき、たまたま居合わせた高校生から大学生くらいの男の子数人が助けてくれたと言います。今回投稿したのはその時、伝えきれなかった感謝の言葉。投稿には「#拡散希望」のハッシュタグが添えられ、お礼の気持ちが託されました。
発達障害の人の場合、外見では障害をもっていることがわかりません。しかし、普通に生活していてもちょっとしたことで今回のように体に症状がでてくることがあります。こんな時に役立つのが、「ヘルプマーク」。見えないところに障害があります。ということを周囲にしらせてくれるアイコンです。
今回の場合は、ヘルプマークを身につけていたことにより、電車内に居合わせた男の子たちがむーこさんの様子をみて、すぐさま行動に移すきっかけとなったようです。ちなみにヘルプマークは、発達障害の方以外にも、見た目で判断できない義足や人工関節をつけている人、内臓疾患を持っている人に妊婦さんまで幅広くつけることが可能です。
https://twitter.com/muukookazaki/status/1206086370667589632
■ 発達障害持ちは普通に見えてても常に疲れやすい
むーこさんは広汎性発達障害(ASD)と、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の特性持ち。しばしばこの特性はどちらか一方だけではなくよく混ざり込んでいることが多いのですが、いわゆる平均的な脳(平凡な人)と違って、感覚が鋭い一方で対人面的な雰囲気などを苦手とする人が多く、得意と苦手の差が大きいことが特徴。
むーこさんも、空気が読めない・コミュニケーションが苦手・聴覚過敏・嗅覚過敏・衝動性の特性持ち。空気が読めないのとコミュニケーションが苦手なのはしばしばASDの特性として当てはまる傾向が強く、衝動性の強さはADHDの多動性による特性。聴覚や嗅覚、混雑や閉所への過敏性や、肌に触るものに対して平凡な人なら何ともなくても、ちょっとしたチクチク感やゴワゴワ感がダメで衣類を選ばざるを得ない、という人もいますが、ASDにもADHDにも当てはまりやすい傾向があります。
こうした過敏は他の人にはなかなか理解しづらいものがありますが、微細な音を聞き分けたり、香りや味の繊細な部分に気が付くことができるなど、過敏な部分を逆手に取ることで「その人にしかできない仕事」を身に着ける人もしばしばいます。しかし、そうした繊細な部分のオン・オフが自在に操ることができないと、常に様々な雑音に晒されっ放し状態になったり、街中などで入り混じってくるニオイで気分が悪くなるなど、とても疲れやすい状態になりがち。
むーこさんも、「パニックは体力的に疲れていると出やすく、大勢のいる場所、密閉した空間だと出ることが多い」とのこと。そして聴覚過敏にありがちな、大勢が話していると全てが同じ音量で聞こえてくるためそれで体力的に疲れる、ということも。これは、自分にとって必要な音声を脳が自動判別して必要な音だけを拾うという、平均的な人間の脳が持ち得ているはずの自動判別機能が弱いために起こりやすく、聴覚検査をしても問題ないのにざわざわした中で特定の音声処理が行うことが困難である「聴覚情報処理障害」とも断定されることがあります。
このため、聴覚過敏から身を守るためにイヤーマフを装着する、デジタル耳栓などで雑音をシャットアウトすることが過剰な疲労感を軽減できるのですが、場合によってはなかなか上手くいかないもの。むーこさんの今回の過呼吸も、想定外の混雑状況に普段の防御態勢では身を守り切れなかったそうです。
むーこさんを助けてくれた男の子のなかには、もしかしたらこうした特性持ちの家族や仲間がいたのかもしれません。何にも知識がないと、背中をさすって飲み物を飲ませて落ち着かせたりするような行動をサッと取ることって、なかなか難しいことだと思います。
ヘルプマークを持つ意味を正しく教えることができる男の子の母も、正しい理解者の一人。そして仲間とともに適切な処置を行った男の子たちも正しい理解者たち。「マークは見たことあるけど意味までは分からない」という人が多い中、このような適切な処置をスマートに行うことができる人は少ないのではと思います。
■ 誰が、どんな症状を、どんな時に発生するかなんて誰にも分からない
電車の優先席付近の窓やバス車内、コンコースなどにヘルプマークについての掲示が貼り出されていますが、まじまじと読んだ事がある人はどのくらいいるでしょうか?
そして目に見えない想像もつかないつらさを抱えている人がどこにどれだけいるのかも、誰にも分かりません。だから、調子が悪い状態の時は助けて欲しい、という願いを込めて、発達障害者や内部疾患がある人、今や誰がなってもおかしくないうつ病持ちの人が、自分の状況を知らせるためのお守りとしてヘルプマークを持つのです。
そしてさらに、聴覚過敏で大きなヘッドフォンみたいな形をした聴覚保護具(イヤーマフ)を付けさせていないとパニックになる子どもや、社会生活を送る時に身を守る必要な道具に付けるマークとして「聴覚保護マーク」や、唐突に不特定多数がいる公共の場で起こるぜん息発作による咳がある場合に周りに知らせるための「ぜん息マーク」など、自分の状態をさらに分かりやすく示すマークが有志によって作られています。
思いやりと勇気を持った男の子たちは、今後、様々な人を助け、「知らない」を「行動によって知ってもらう」ことが自然とできるようになるであろうと信じています。
<記事化協力>
むーこ|元障害者雇用枠OLの娘さん(@muukookazaki)
(梓川みいな/正看護師)