ボーイングは2020年12月21日(現地時間)、F/A-18スーパーホーネットがスキージャンプ勾配を使用しての短距離離陸に成功したと発表しました。スキージャンプ勾配への対応を証明したことで、スキージャンプ勾配を持つインド海軍空母での次期艦載機候補争いに、F/A-18で参入する方針をボーイングは明らかにしています。

 空母艦載機として設計されているF/A-18E/Fスーパーホーネットは、基本的にはカタパルト発艦・拘束着艦(CATOBAR)方式を前提としています。しかしカタパルト式の発艦装置を有しているのは、アメリカ海軍以外ではフランス海軍の空母シャルル・ド・ゴールのみ。多くの空母では運用できません。

 アメリカ、フランス以外の空母で多く採用されているのは、艦首に向かって飛行甲板が登り勾配となり、短距離で離陸するための高度をかせぐという方式。その形態がノルディックスキーのジャンプ競技に使われるジャンプ台のようなので、俗に「スキージャンプ」と呼ばれています。

 アメリカでも古くから、艦載機の機体規模が大きくなり、カタパルトの能力が不足することを見越して、F-14やF/A-18(レガシー)ホーネットでのスキージャンプ運用試験を実施してきました。しかし、現在のところカタパルトが能力不足になる見込みがないため、スーパーホーネットでは実施してこなかったのです。

 ここにきて、スーパーホーネットのスキージャンプ試験を実施した背景には、インド海軍の空母艦載機採用計画があります。中国より早く空母でジェット機を運用しているインド海軍では、運用中の空母ヴィクラマーディティヤ(R33)が14.3度のスキージャンプ勾配を持つ飛行甲板となっており、建造中の国産空母ヴィクラント級(3隻建造予定)でも同じく、飛行甲板にスキージャンプ勾配を採用しました。

 現在、空母ヴィクラマーディティヤで運用しているのは、ロシア製の艦上戦闘機MiG-29K/KUBなのですが、将来の国産空母ヴィクラント級3隻の就役に向け、新たな空母艦載機調達を模索中。この候補機として参入するため、今回のスキージャンプ試験が実施されたのです。

 試験はメリーランド州のパタクセントリバー海軍航空基地で行われました。テストパイロットが操縦するF/A-18Eスーパーホーネットは、設置されたスキージャンプ勾配を利用し、離陸に成功しました。

 試験の成功を受け、ボーイングでインド向け戦闘機営業チームを率いるアンクル・カナグレカー氏は「初めてF/A-18スーパーホーネットがスキージャンプによる離陸を成功させたことにより、インド海軍の空母における運用可能性を検証するプロセスに移行できます。F/A-18スーパーホーネット・ブロックIIIは、インド海軍に優れた戦闘能力を提供するだけでなく、アメリカ・インド両国間の海軍航空における協力の機会を生み出します」とコメント。これを足掛かりに、インドへF/A-18スーパーホーネットの売り込みを図る姿勢を明らかにしています。

 ボーイングは近年インドとの協力関係を深めており、ヘリコプターのCH-47やAH-64などはインド軍向けに現地生産をしています。インド海軍から新空母艦載機採用に向けての正式な採用コンペの実施はアナウンスされていませんが、ボーイングはこれに備えるため、F/A-18スーパーホーネットでの試験を進めることとしています。

<出典・引用>
ボーイング ニュースリリース
Image:Boeing/U.S.Navy

(咲村珠樹)