パナソニックが主催する、スポーツの新しい楽しみ方を競う国際学生コンペ「SPORTS CHANGE MAKERS」で、2021年8月の最終プレゼンテーションを前に、都内でプレイベントを開催。参加学生のスピーチや、小谷実可子さんらによるパネルディスカッションが行われ、この模様は会場だけでなく、ネットを通じたバーチャル空間でも楽しめました。
テクノロジーを活用し、スポーツをより障害のない形で楽しめるようなアイデアを競う国際学生コンペ「SPORTS CHANGE MAKERS」。学生たちが感じる課題(バリア)に対し、スポーツとテクノロジーを活用して解決できるようなアイデアをプレゼンテーションするという大会です。
本来ならば、オリンピック・パラリンピックの開催される2020年夏に最終プレゼンテーションが実施される予定でしたが、新型コロナウイルス禍により1年順延。2021年8月23日に開催されることとなりました。
最終プレゼンテーションに進んだのは、中国・ヨーロッパ・アメリカ・日本の地域を代表する計4チーム。それぞれ「バリア」となる課題と「ターゲット」となる人々を設定し、それをテクノロジーとスポーツによって克服するアイデアをプレゼンテーションすることになります。
この取り組みにはIOC(国際オリンピック委員会)やIPC(国際パラリンピック委員会)も注目。プレイベントには、IOCテレビ&マーケティング部門マネージングディレクターのティモ・ルメ氏、IPCチーフブランド&コミュニケーションオフィサーのクレイグ・スペンス氏からビデオメッセージが寄せられました。
今回のプレイベントは、実際の会場だけでなくインターネットを通じたバーチャル空間でも、アバターを介して参加することが可能。リアル世界とバーチャル空間「Mirror Field」とが相互乗り入れするような形になっており、その概要についてSPORTS CHANGE MAKERSテクニカルディレクターの北島ハリー氏から説明がありました。
会場には密を避けるため、限られた人しか入ることができませんが、大型モニタに映し出されたバーチャル空間「Mirror Field」には、多くのアバターが。物理的に密を避けつつ、ネットを通じて多くの人が同じように参加できるというのは、これからの社会で重要なものとなりそうです。
パネルディスカッションでは、ITジャーナリストの林信行さんをモデレータに、東京2020組織委員会スポーツディレクターの小谷実可子さん、東京2020組織委員会アドバイザーの澤邊芳明さん、SPORTS CHANGE MAKERS日本代表で京都工芸繊維大学の横瀬健斗さん、パナソニックのGame Changer Catapultの川合悠加さんが参加。「スポーツ×テクノロジーでバリアを越えることはできるのか」をテーマに進行されました。
小谷実可子さんは、アーティスティックスイミング(シンクロナイズドスイミング)の武者修行のため、自身がアメリカに留学した際の体験を披露。言葉の壁ももちろんのこと、採点競技ということもあり、審判の先入観によって得点が変わってしまうことを挙げ、実力を正当に評価してもらうための努力について語ってくれました。
澤邊さんは横瀬さんと同じ京都工芸繊維大学の学生だった時、バイク事故によって頚髄を損傷し、車いす生活となりました。体が不自由になるというバリアがありますが、会社を設立して事業を行っています。
新型コロナウイルス禍の現在、リモートワークが推奨されていますが、体の不自由な側からすると、移動にともなうバリアがない分ありがたい面もあるんだとか。しかし、パラリンピックを目指すアスリートにとっては、チームスポーツの練習ができないといったバリアがあり、いかに克服するかという課題も挙げていました。
このパネルディスカッションの様子も、ネットを通じてバーチャル空間「Mirror Field」と共有されています。実際の会場にいる場合、ちょっと気が引けて最前列に行きたがらない……といった場合もありますが、Mirror Fieldでアバターとなると意識が違ってくるのか、前の方にやってくる人も多く、リアルとバーチャルの違いを感じる場面も。
小谷さんはMirror Fieldが気に入った様子で、何度かタブレット端末を手にバーチャル世界の様子を観察。ネットを通じた反応を楽しんでいました。
パネルディスカッションに続いては、最終プレゼンテーションに参加する学生たちのスピーチが行われました。移動が制限される現在の状況を鑑み、海外のチームはビデオメッセージによる参加です。
中国代表は、ニューヨーク大学の修士課程に通う1人と、北京工商大学4年生2人で構成される3人のチーム。バリアに設定したのは「異文化コミュニケーションの不足」で、ターゲットとしているのは「開催国の人と交流し文化を経験したい旅行客」や「海外の人々と交流をしたい開催国の人々」。
オリンピック・パラリンピックのような大規模な国際大会では、様々な国から多くの人がやってくるので、異文化コミュニケーションのチャンスといえます。筆者も実際にオリンピックで外国チームのコーチと一緒に競技を観戦した経験があり、興味深く思いました。
ヨーロッパ代表は、イギリスのハル大学に通う学生3人によるチーム。バリアに設定したのは「視聴者・観客が競技の理解不足により視聴数やエンゲージメントが不足すること」。ターゲットとするのは「デジタルやストリーミングでスポーツを観戦するものの、ルールなどの知識が乏しいため深く楽しめない」人々です。
オリンピックやパラリンピックといった総合的なスポーツ大会の場合、あまり馴染みのない競技を見るチャンスでもあります。しかし競技について知識がないと、その面白さをつかむのが難しく、深く楽しめないというのはよくあること。それをどう克服するかが楽しみです。
アメリカ代表は、ロサンゼルスに住む学生3人によるチーム。「耳の不自由な人々」をターゲットに、耳が不自由であるために「スポーツ観戦に抵抗を感じている」というバリアをクリアするアイデアをプレゼンテーションするとのことです。
実はパラリンピックは障がい者の競技大会ですが、聴覚障がい者の場合はパラリンピックではなく「デフリンピック」という世界大会が1924年から開催されています。また、スポーツ観戦はアナウンスや声援など音による情報が多く、耳が不自由な場合、その盛り上がりを感じにくいという側面が。このバリアをどのように越えていくのか、楽しみですね。
日本代表は、京都工芸繊維大学の横瀬健斗さん1人によるもの。「子どもたち」をターゲットに、克服すべきバリアは「目で見るだけでなく体験することで、よりスポーツのすばらしさを感じることができる」と設定しています。
スピーチで横瀬さんは、自身が子どもの頃から打ち込んできたサッカーを例に、体験することで得られる喜びや美しさを分かち合いたいと語りました。ただのスポーツ観戦を超えた先にある、感情の動きをどのような手法で感じさせてくれるのでしょうか。
プレイベント終了後、筆者もバーチャル空間「Mirror Field」を体験してみました。タブレット端末を手に周囲を見渡してみると、現実の空間にアバターが立っている様子が映し出されます。
ここに映っているアバターは、ネットを通じて「Mirror Field」に入っているユーザー。現時点では人形のような姿ですが、今後自分らしくアバターをカスタマイズできたり、自身の姿をスキャンしてアバターにしたりできるようにしたいとのこと。
この「Mirror Field」はプラットフォームなので、たとえば配信ライブなどで使うこともできます。VR機器を使用すれば、より没入感が高くなり、ライブ会場にいる感覚を味わえそうです。
8月23日の「SPORTS CHANGE MAKERS」最終プレゼンテーションでも、Mirror Fieldによるバーチャル参加が可能になります。スタッフの方は「外国の代表チームですと、離れた場所にいるご家族が、Mirror Field越しに応援するということも実現したいですね」と語ってくれました。
取材協力:パナソニック株式会社
(取材・撮影:咲村珠樹)