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Netflix「地獄が呼んでいる」が描いた新たな脅威(深水英一郎氏寄稿)

 【注意】このテキストはNetflixドラマ「地獄が呼んでいる」とそのコミック版「地獄」のネタバレを含む内容となっていますので、まだご覧になっていない方はブックマークして後で読むことをおすすめします。

  • ■ 「地獄が呼んでいる」が面白い

     Netflixで11月19日に公開されたヨン・サンホ監督の「地獄が呼んでいる」(全6話)が面白すぎて既に3回観てコミック版も買って読んでしまいました。ちなみにNetflixでの年齢制限は「大人向け」。

     何が面白いのか。

     面白さの理由のひとつに、あまりとりあげられないテーマを扱っている、ということがあります。そのテーマは「理解不能で抗えない困難に直面したとき、人々はどうなってしまうのか」というもの。

     このテーマに沿って想像力豊かに、緻密に描いているドラマです。なので、アクション満載の冒険譚だろうと思って観たら「えっ?」となってしまいます。愛とか恋とかもまったくありません。このドラマの舞台は2022年ですから、ほんとにすぐ先の未来を描いており、今のわたしたちの生活と地続きになっている物語でそのあたりも「リアルさ」に繋がっています。

     もともとこのストーリーはヨン・サンホ監督原作のウェブトゥーン(スクロール形式で読む韓国のWeb漫画)として発表され、その後Netflixで映像化されたもの。時間をかけて丁寧に作られている作品です。

    【おたくま経済新聞編集部より:執筆者についての説明】
    本稿は、メールマガジンサービス「まぐまぐ」の開発・発案者で「メルマガの父」と呼ばれ、未来検索ブラジル元代表、ニュースサイト「ガジェット通信」の立ち上げ等もおこなった深水英一郎氏からの寄稿記事です。

    ■ 理解不可能で抗えない困難に直面すると、人はどうなるのか

     このドラマの中で理解不能なことが起き、それに対して「神の意図である」という説明が提示されると、人々はいとも簡単に信じてしまいました。理解不可能で抗えない困難に直面すると、人々は「わかりやすい説明」に飛びついてしまうのです。

     劇中、新興宗教の幹部は「罪」の設定を誰でも理解できるようなシンプルなものにすることに腐心していました。超自然的に起きた「死」に対して、「罪があったから」というできるだけ簡単な説明をこじつけているだけなんです。この作品が面白いのは、「それでいいんですか?」というところまで踏み込んでいる点だと思います。

     世の中ますます混沌として複雑かつ予測不能になっている昨今、すべてありのまま理解するのは難しいですから、シンプルに捉え直さなきゃやってられない、ってのもわかります。ですが、人の死という重大事まで、わかりやすくしちゃっていいのでしょうか?

     監督からのメッセージも作中に散りばめられていますが、観る側も、いろいろ考えさせられ、面白いのです。

    ■ 予告される理不尽な死

     「理解不可能で抗えない困難」として、この作品では「予告される理不尽な死」が出てきます。この設定が荒唐無稽だとして怒ってる人も結構いるようですが、この記事をお読みの方はみなさんご存知かと思うので改めておさらいすると

     「天使が突然現れて、その人がいつ死ぬか告知。日時になったら真っ黒な怪物が現れリンチをした上で焼き尽くし、その後怪物は虚空に消える」というものです。

     これは現実にはありえない出来事です。でも、ありえない出来事でなくてはならないんです。なぜなら、ここで起きることは人間には理解不可能なことでなくてはいけないからです。

     人間に理解不能で抗えないもの。それに直面したら人々はどうなるのか、ということがテーマなので、理解できるようなことが起きちゃだめなんです。なので、「こんなこと起きるわけがない」と怒っている方は一旦怒りをおさめていただき、「よくわからないけど、そういうものがあったとして」から始まる物語として楽しんでいただければと思います。

    ■ リンチ=私刑という脅威

     預言された人に死をもたらすものは「実行者」と呼ばれる3人組の怪物として描かれています。ヨン・サンホ監督は集団リンチの恐怖を描くために3人組にした、と会見で述べています。集団と感じさせる最低人数は3人だと考え、怪物を3人組にしたそうです。

     理解不能ながら恐怖を感じさせるにはその元となるものが必要で、今回描かれる脅威は「集団リンチ」だということがわかります。3人の怪物が被害者を焼き尽くすまぶしい光はフレーミング(炎上)を想像させます。そして人を殺した後、3人組の怪物は虚空に消えますが、これはネットリンチが不特定多数によっておこなわれることを彷彿とさせます。

     劇中登場する新興宗教団体「新真理会」の初代議長がはじめて「実行者」に殺される人を見たのが20年前とされ、これは、ネットの普及が加速した時期と重なります。2000年代初頭といえば、ネットリンチが問題となりだした時期です。

     リンチとは法によらない勝手な残虐行為であり、社会の陰に隠れておこなわれたり、ネット上で不特定多数によりおこなわれています。現代社会の大きな問題のひとつであり、人間のもたらす脅威としてネットリンチを捉え、それを3人の真っ黒な怪物としてビジュアル化した、というのもこの作品の新しく、興味深いところです。

     「ゾンビ」はその時代に社会的に問題となっているさまざまな脅威を映像作品の中でビジュアル化したものですが、この作品で描かれた圧倒的な力をもつ3人の怪物は、ゾンビとはまた全く異なった新しい表現でした。「リンチの脅威」をビジュアル化したものとして、今後さまざまな映像作品に影響を与えていく可能性もあるんじゃないかと思います。

     公開とともに記録的な視聴時間を打ち出している本作品。シーズン2も計画されているようなので、このシリーズから今後どのような新たな表現が出てくるかも楽しみです。

    (執筆:深水英一郎 / https://nitsuite.jp/fukamie

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