本物そっくりの中に、日常とは違う「異形」を感じさせる特殊造形。CGが発達してもなお、形を持つ「実物」ゆえの存在感は欠かせないものです。
そんな特殊造形作品「覚醒」が完成するまでの様子を、作者である女性特殊造形作家、万凛(まりん)さんがTwitterに公開。原型から徐々に生命が吹き込まれるような工程に、目を奪われてしまいます。
特殊造形の世界は男性作家が多く「よく、おじさんかと思った、とお会いした方々に言われることがあります」という、女性造形作家の万凛さん。元々特殊メイクをしていて、その技術を生かして造形に取り組んでいるそうです。
今回、Twitterで制作過程が公開された「覚醒」は、2021年の作品。初めて血の味を覚え、自分が「鬼」であると目覚めた瞬間を表現しています。大きさは高さ300mm、幅200mm、奥行き170mmと、実際の人間を基準にすると半くらいの大きさ。
まずは粘土の塑像で原型を作ります。素材は、本場ロサンゼルスでも特殊造形やメイク造形に使われている「NSP」というワックスクレイ(ワックスベースの粘土)。NSPはグリーンとブラウンなどの色がありますが、この作品では肌にブラウン、角にグリーンのものが使われています。
細かな表現が可能なNSPを使い、形だけでなく肌の質感までも造形し、これをシリコンで型取り。作品の素材となるクリアポリアステル樹脂をシリコン型に入れ、硬化したのちに型抜きします。
基本となる肌の色合いをエアブラシや筆で彩色していきます。場所ごとに異なる血色や肌のくすみ、透けて見える血管まで表現することで、表情はより生気に満ちたものに。
目も同じクリアポリエステル樹脂で作られます。虹彩はもちろん、充血している毛細血管の表現がリアルです。
さらに白粉や、血のにじむ目元周りのメイク。万凛さんは「目力と口元の表現は、一番物を言うパーツだと思っているので、いつも大切にしています」と語ります。
まつ毛は1本ずつ貼り付けられており、口の部分は血が少し残っている様子で、血の味を初めて知った驚きの感情が透けて見えます。
毛髪もレースを土台に、1本ずつ毛を編み込んだ特製のウィッグ。これを頭部に貼り付け、ヘアスタイルを整えます。
鬼を象徴する角は、皮膚を突き破って生えてきたという形。このため根元の方には血がにじみ、鬼としての覚醒にともなう痛々しさをも感じさせる仕上がりとなっています。
かなり急いでいたので、制作期間は1か月ないくらい、という「覚醒」。血の味を知り、隠れていた自身の「鬼」に目覚めた驚きと、成長の痛々しさが同居し、どこか切なさも感じさせる作品です。
作品制作では物語を考え、その中のある一瞬を切り抜いて立体化しているという万凛さん。その作品は、東京・東日本橋のアートギャラリー、モノガタリモノリスで2022年1月30日まで開催されている展覧会「怪のモノリス展」でも目にすることができます。
粘土彫刻から完成までの画像✨
2021年作【覚醒】💀#妖怪 #鬼 #vampire pic.twitter.com/OgAdEPBujk
— 万凛 Marin【特殊造形作家】 (@lab_mari) January 9, 2022
<記事化協力>
万凛さん(@lab_mari)
(咲村珠樹)