古来、田んぼには神様が宿るとされ、南九州の「田の神さぁ」をはじめ、全国各地には田んぼの守り神にまつわる民俗行事などが受け継がれています。
田んぼや農地に祠(ほこら)を建立するケースもあり、田んぼにポツンと存在する風景は一種独特の雰囲気。そんな神社や祠を「ポツ神(じん)」と呼び、各地を巡っている「えぬびい」さん。ポツ神について、話をうかがってみました。
田んぼの中に、鳥居とともに建立されている「ポツ神」。多くは小規模な祠で、稲荷や愛宕など祭神もまちまち。祭神が定かでないものも少なくありません。
田んぼの中には、その所有者先祖代々の墓地が設けられていることもあり、ご先祖が田んぼを見守ってくれる、というのと同じように、家で崇敬する神々を田んぼの守り神としてお迎えしているケースもあるようです。
そんな謎の多い「ポツ神」に、えぬびいさんが心惹かれるようになったきっかけは、今から1年ほど前。地図上に偶然見つけたポツ神だったといいます。「当時は鳥居の連なる稲荷神社などをよく撮影していて、それらを探している時に偶然見つけました」。
地図上では、水田を示す記号の中に突如として現れる「神社」を示す鳥居の記号。一体どういうたたずまいなのか、実際に現地へ行ってみることに。
視界に入ってきた途端「田んぼにポツンと存在する神社が発する神秘的な雰囲気に心奪われました……!」と、初ポツ神体験を語ってくれたえぬびいさん。これを機に、田んぼにポツンと存在する神社や祠を「ポツ神」というひとつのジャンルとして追いかけるようになったんだとか。
えぬびいさんはポツ神を「田んぼや畑に四方を囲まれ、ポツンと存在する孤立無縁一騎当千の神社」と評します。けして田んぼや畑の中に取り残されているのではなく、守り神として存在し続ける強い意志を感じているようです。
撮影、巡礼に力を入れはじめて日が浅いこともあり、現在のところは関東圏の20〜30程度までしか巡れていないとのこと。その魅力を「1番はその奇特なビジュアルです。現実感が希薄でありながら、なぜか懐かしい気持ちが心にじんわり沁みてくる、この不可思議さがとても愛らしく思います」と語ります。
田んぼの真ん中にいる場合、田植えの時期になれば周囲に水が満たされ、さながら浮島のような姿になるのもポツ神の特徴。「ユラユラと田んぼの中を旅していそうな可愛い小舟感がいいですね」との言葉で紹介してもらった例には参道がなく、田んぼに足を踏み入れる耕作者のみが参拝できるようになっています。
また、何枚かの田んぼに囲まれた例も。あぜ道の幅が広がったような山道には花が咲き、チョウも舞っていたそうで「ピクニックしたい気分にさせられます」とえぬびいさん。直線でなく、軽くカーブしているのもいい雰囲気ですね。
ポツ神は稲田に囲まれたものだけとは限りません。ハス田の中に存在を主張するポツ神には、また異なる雰囲気を感じます。ハスは仏教で仏の悟りを示す花(蓮華)として重んじられていることから、花開く季節にはより神秘的な風景となるのかもしれません。
えぬびいさんは、ほかにも廃墟や秘境など、人々から忘れられたかのような存在を探訪しています。これについては「人がなるべくいないところが好きで、そこで誰にも邪魔されず未踏を堪能する……つまり、ワクワクする冒険ができるところを常に探し求めているんです」と語ってくれました。
もし、えぬびいさんのツイートを参考に「ポツ神」巡りをしてみたい、という方がいるかもしれません。探す時のコツとして「とにかく田んぼの周りを注意深く走り回るか、地図の衛星写真と睨めっこして、気合いで見つけるしかありません。見つけた際は『ポツ神、ゲットだぜ!』と叫ぶとなおよろしいかと思います」とのアドバイスもいただきました。
これら「ポツ神」は、ほとんどが小さな祠であり、地図に神社として記載されていないケースも多々あります。古くからの田園地帯など、衛星写真で田んぼの中にこんもりとした木立などがあるのを目印に探してみるといいかもしれませんね。
なお、現地に行った時のマナーですが、当然のように「ポツ神」は田んぼの所有者が建立したものが多く、周囲の田んぼや畑を含めて私有地である場合がほとんど。立ち入らずに、遠くからそっと眺めて写真を撮影するぐらいにとどめた方が無難です。
「田んぼの真ん中ポツンと神社」のことを「ポツ神(じん)」と称し最近熱心に写真撮影している。今はポツ神のベストシーズン。田んぼに張られた水に空の青色が写り込む。上も下も青空に包まれて、天空に浮かぶ小さな島を訪れたかのような気分を味わえる。 pic.twitter.com/EWL99PI2xo
— えぬびい (@enuenuenubi) May 25, 2022
<記事化協力>
えぬびいさん(@enuenuenubi)
(咲村珠樹/宮崎県民俗学会員)