艦船模型を作る方の中には、実在する艦船をアレンジし、オリジナルの「架空艦」を楽しむ方がいます。多くの場合、水上部分の艤装にオリジナリティを発揮しているのですが、中には船体から丸ごとフルスクラッチで作る方も。

 艦船モデラーのAbrams1991さんは、全体をまん丸の球状にしたオリジナルの艦船模型を制作。船としては異形のフォルムながら、どこか愛らしさも感じさせる作品です。

 特撮に登場する戦車や飛行機から、ミリタリー模型に興味を持ったというAbrams1991さん。艦船模型デビューは小学生の頃、ニチモの「30cmシリーズ」を皮切りに、艦船、陸上兵器、航空機問わず色々な模型を作ってきたといいます。

 数ある兵器の中でも、Abrams1991さんが魅かれたのは試作兵器や珍兵器といった、構想・開発されたはいいものの弱点があり、実戦に出る前に終わった兵器たち。SNSで「どうしてこうなった」的な面白おかしい兵器のイラストを発表しているうち、誕生したのがまん丸な艦船たち。

 「『これ単純な形状で作るの簡単そうだし、立体化したら面白いんじゃないか』と思い、模型で作り出したのが2020年ごろです」

 そこから2年あまりのうちに、まん丸な艦船とサイコロ状の四角い艦船が、合わせて15隻誕生しました。これらを総称する名前は特に考えていないそうですが、仲間内などで話に出す時は「丸」一言で通じるようになっているのだとか。

勢揃いした球状艦船模型(Abrams1991さん提供)

 現実の船とは似ても似つかないフォルムのため、船体のベースはちょうどよさそうな丸いものを使っているとのこと。カプセルトイの空きカプセルが一番多いそうですが、最近は完全な球体にすることができ、船底まで作り込むフルハルモデルが作りやすい、オーナメントボールを使うことが増えているといいます。

ベースとなるカプセルトイの空きカプセル(Abrams1991さん提供)

 パテで表面を平滑にしつつ、鋼板が重なり合う様子や継ぎ目の模様は、マスキングテープを瞬間接着剤で固定。そこにスジ彫りを加えていきます。ブリッジの窓など、船体のディティールが出来上がっていきますが、この時点ではスターウォーズに出てくる宇宙要塞デス・スターにも雰囲気が似ていますね。

鋼板の合わせ目はマスキングテープで(Abrams1991さん提供)

ディティールをスジ彫り(Abrams1991さん提供)

 船体のモデリングが終わると、上構部のディティールを艤装していきます。ここは船の性格を決める重要な部分。プラ材からスクラッチしたり、既存の艦船模型のジャンクパーツをアレンジして取り付けていくとのこと。塗装とウェザリングをして完成です。

艤装中(Abrams1991さん提供)

 一見まん丸で前後左右がないように見えますが、実際の船と同じように船首部分には錨が装備されており、船首から船尾にかけて平板キールを装備して前後方向が分かるように。またブリッジは水捌け対策の反りがあり、周囲にはもやい綱をかけるポラードも。船っぽさを演出しています。

 軍艦の場合は、モチーフになった艦に準じたマストや煙突といった艤装を施しているそうで、モデルを想像させる雰囲気が残されています。設定はゆるい、とAbrams1991さんは語りますが、これらの艦船は太陽を船体に描いたフェリー会社をパロディ化した「商船丸井」とそれに連なる造船所で作られたことになっているんだとか。

 船体が球体で安定が悪いため、どうしても水面上の姿をモデル化したウォーターラインモデルが多くなってしまったそうですが、お気に入りの作品をいくつか挙げてもらうと、最初に特設給水船「第二茶柱」の名が挙がりました。

特設給水船「第二茶柱」(Abrams1991さん提供)

 急須の注ぎ口みたいに後方へ突き出しているのは煙突。金属供出で集まった壊れたヤカンを原材料に作られた船だそうで、その経緯や姿から「急須い船」や「ヤ艦」などと呼ばれているんだとか。

 また、3連砲塔が勇ましい「真丸(まんまる)」は、商船に偽装した特設砲艦(Qシップ)。民間船と見間違えて浮上してくる潜水艦を誘い寄せ、強力な砲で撃沈を狙います。その姿と任務を合わせ、便宜上「球シップ」と呼ばれているそうです。

特設砲艦「真丸」(Abrams1991さん提供)

 唯一のフルハル(船底まで作られた)モデルの「丸丸(まるまる)」。元々商船を徴発して軍属になっており、フルハルモデルということもあって球体の愛らしい姿が堪能できます。台座に載せられていると、打ち上げ花火の玉みたいですね。

唯一のフルハルモデル「丸丸」(Abrams1991さん提供)

 オーナメントボールを使って作られており、船底の左右にはローリング(船首から船尾への線を軸とした回転揺れ)を抑えるビルジキールが装着されています。半球形の船底は、どの方向に対しても揺れが生じやすいので、実際に航海するとしたら重要な装備といえます。

 窓が並ぶブリッジの左右には、小さいながらもウイング部分を設置。上構部は煙突のほか、信号旗を掲揚するマストが存在感を示しています。

正面から見た「丸丸」(Abrams1991さん提供)

 球体の素材はカプセルトイの空きカプセルを分けてもらえるため、今後もまん丸な船たちを作っていきたいとAbrams1991さんは語ってくれました。

まん丸艦隊(Abrams1991さん提供)

 模型を活用したジオラマでは、丸丸を建造する船台を作ってみたいのだそう。ただ気掛かりは、進水式の際「滑り降りるというより、転がり落ちる感じになりそうですが……」と心配する言葉も聞かれました。

 現在Abrams1991さんは、まん丸な船を気軽に作ってみませんか?という「2022夏丸建造祭り」を8月10日〜10月31日の期間、Twitter上で開催しています。参加したい方、作品を楽しみたい方はハッシュタグ「2022夏丸祭り」を注意して見ておくといいですよ。

<記事化協力>
Abrams1991さん(@Abrams335)

(咲村珠樹)