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あの有名な写真を立体化 作業中の雰囲気あふれる「艤装中の戦艦大和」ジオラマ

 艦船好きならば一度は目にしたことのある、建造中の戦艦大和を写した写真。呉の岸壁で砲などの装備を取り付ける艤装(ぎそう)作業を行う様子を立体化したジオラマ作品がTwitterに発表されました。250分の1スケールというビッグサイズで、足場や内装を含めた各部が細かく再現されています。

  •  このジオラマを作ったのは、モデラーの近藤靖さん。Twitterでは車のエンジン名にちなんだ「4G63」の名前で活動しています。

     これまでにも様々なジオラマ作品を作ってきた近藤さん。悲劇的な結末を迎えた大和だけに、模型を作る際は努めて明るい作品にしたい気持ちがあり、あの有名な写真に写っている「世界一のフネ」を作る意欲と明るさに満ちた情景を再現したいと思ったのだそう。

    上甲板レベルで見ると巨大さが際立つ(近藤靖さん提供)

     目指すイメージは、よく知られている「昭和16年9月20日1號艦」の表記が焼き付けられた写真。これを立体化し、色々な角度から見られるようにすることでした。細かな作り込みができるように、マイクロエースから出ている大和の250分の1スケールキットを素材に使用しています。

     250分の1スケールとなると、フルサイズでは1mを超えてしまう大和。さすがに大きすぎるので、ジオラマでは写真で確認できる部分のみに限定し、写っていない艦橋構造物から先の艦首部分と手前の艦尾部分をカットし、長さ50cm×幅30cmのサイズで作ることにしたといいます。

     艦尾部分は写真のアングルに合わせ、斜めにカット。これにより、資料写真と見比べながらの制作がしやすくなったのだとか。また、カットした部分や写真に写っていない右舷部分は内部構造を再現し、違った楽しみ方ができるようにしています。

    1mを超える船体をカットし、50cm×30cmのサイズに(近藤靖さん提供)

     断面から見える内部構造は、2004年と2005年に食玩で発売された700分の1スケール「連斬模型シリーズ」大和を徹底的にディティールアップし、大きなサイズで自作しても面白い、という発想から再現されたものだそう。力を入れた部分ということもあり、数多くの資料を収集し、一部想像で補いながら作り込まれています。

    内部構造の参考にした「連斬模型シリーズ」大和(近藤靖さん提供)

     中央部、船底に大きなスペースを占めているのは、縦4列に12基(罐)が並ぶ大和の動力源「ロ号艦本式ボイラ」。呉市の大和ミュージアムに展示されている原型となったヤーロー式ボイラ(改装前の戦艦金剛に搭載されていた実物)や各種資料を参照し、細かい部分までプラ板を加工して丁寧に作り上げられています。

    自作したロ号艦本式ボイラ(近藤靖さん提供)

     そしてその上の断面部は、映画のシーンで出てくる椅子がたくさん並んでいる会議室を中心に長官公室、私室などが再現され、映画では分からない艦橋からの動線もイメージできます。

    右舷を切り開き内部構造を作り込んだ(近藤靖さん提供)

     元にしたキットは最終時の姿になっているので、艦橋構造物周辺の造作などがずいぶん異なります。竣工時で特徴的な舷側の副砲塔を補い、高角砲や対空機銃なども資料に基づいて修正。また作業中の足場も写真から位置を割り出し、数多く設置されました。細い手すりやハシゴ(ラッタル)まで丁寧に作り込まれているのが分かります。

    舷側の副砲塔を補うなど建造時のディティールを再現(近藤靖さん提供)

     存在感のある第3主砲塔には、角の部分に施された防水シーリングを再現。完成すると塗装されて確認できなくなるので、建造中ならではの特徴です。砲塔横に積み上げられているのは塗料の一斗缶。

    第3主砲塔のシーリングや積み上げられた塗料缶を再現(近藤靖さん提供)

     工事中ということもあり、甲板には作業小屋や資材箱、棚といったものも数多く、この雑然とした雰囲気も写真をつぶさに見て、再現に力を入れた部分とのこと。配置された人物たちの会話が聞こえてくるようです。

    作業小屋など建造中ならではの雑然とした雰囲気(近藤靖さん提供)

     大和が係留されている浮桟橋は、実物を目にしたことのある元自衛官からアドバイスを受け、内部構造を再現したカットモデルに。ジブクレーンが移動するレールや、艦内に電気や水を供給する管は、写真を最大限拡大して本数と位置を割り出し、配置しています。

    浮桟橋の構造も再現(近藤靖さん提供)

     電線は甲板に仮設された配電盤を通じ、艦内や艦上の各所に引き込まれている様子も再現。いかにも工事現場という雰囲気が出ていますね。

     完成までの期間をうかがうと、構想から完成まで1年半を要したそうです。作業時間のほとんどは内部を含めた大和本体に費やされ1年以上、そして周辺のストラクチャーに3か月ほどかかったのだとか。

     Twitterに作品の画像を投稿したところ、細密に再現されたジオラマに多くの反響が寄せられました。近藤さんは寄せられたリプライにはすべて返信しているといい、重ねて次のように語ってくれました。

     「今回は完成記念にTwitterに投稿してみようと気楽な思いで投稿したのですが、思いの外の反響で皆さんの関心が想像以上に高いことが分かりました。そしてあの写真は軍艦に興味がある人はかなりの人が知っているのだと改めて感じました」

     近藤さんは艦船模型だけでなく、様々なジャンルの作品を作っています。現在ホットなのは映画「トップガン マーヴェリック」だそうで、地面スレスレを高速で飛行するF/A-18Eの姿もジオラマで再現。迫力が伝わってきますね。

    映画「トップガン マーヴェリック」のジオラマ(近藤靖さん提供)

     今回の「艤装中の大和」ジオラマは、モデルアート社の「艦船模型スペシャル」No.86の巻頭を飾る作品としても掲載されています。立体化されたことで、写真にはなかった息遣いも感じられるジオラマならではの表現は、見飽きることがありませんね。

    <記事化協力>
    近藤靖(4G63)さん(@makuharinoyasu)

    (咲村珠樹)

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