30年以上、子どもから高齢者まで幅広い層を対象に熱中症対策の啓発を続けている大塚製薬。
夏本番を目前に控えた5月16日、体温と体液について専門に研究されている早稲田大学教授の永島計さんを講師に招き、メディア向けに「灼熱化する日本の新常識!現代人のための熱中症対策セミナー」を開催しました。
世界的に気候変動が進む中、日本では平均気温の上昇にともなって熱中症による事故が増加中。気象庁もエルニーニョ現象の影響で、2024年の夏も記録的な高温になる見通しを発表し、早めの熱中症対策を呼びかけています。
永島さんによると、熱中症対策のポイントは3つ。
暑さに強い体を作っていく「暑熱順化」と、脱水状態にならないようにする「水分補給」。さらに体温が上がってしまった時の「身体冷却」です。
■ 「暑熱順化」で体を暑さに慣らす
最近、注目されている「暑熱順化」。暑さに強い体を作るために有効なこととしてウォーキングやジョギングなどがあげられます。ウォーキングなら1日30分を週5回程度おこなうと良いそうです。
暑い状態に耐性ができて「暑熱順化」により暑さに強い体になると、体温が上がりにくくなったり、汗の中に出る塩分(ナトリウム)が減ったりするのだとか。そのため熱中症になりにくくなるといいます。
■ 「体水分保持力」を高めることが重要
ただし、「暑熱順化」をいくらしても体水分がなくなり脱水になっては意味がありません。脱水をして体水分を維持できなかったら暑熱順化ができていても、発汗できないため体温調節機能が働かなくなり熱中症になりやすくなります。運動をしながらの、こまめな水分補給が重要です。
人間は体温を調節する際に発汗して体内の熱を放散しているそうです。この発汗により、水分と一緒にナトリウムも失われるといいます。さらに水分は、尿や皮膚・呼吸などからも失われ、合わせて約2.5リットルの水分が1日に体から出ているのだとか。
「我々の体の約60%は水分でできている」と永島さん。この水分は筋肉細胞などの細胞内液に40%、細胞の間をうめるような液体(細胞内液)に20%あり、筋肉は水分のリザーバー(貯水槽)ともいえます。
ちなみに暑熱順化の際に、運動と栄養補給を意識すると体水分を貯蔵しておく筋肉量の増加に繋がり、体水分のリザーバーを大きくすることが期待できるそうです。
熱中症を防ぐためには、この体水分のリザーバーを大きくして、そこに水分を常にキープしておき、そのうえで暑熱順化を行うことが大事とのこと。
脱水症状の目安として、体重の3%の水分が失われると口渇や唇が乾燥します。4%で皮膚の紅潮や尿量の減少と濃縮、5%で頭痛や体のほてりなどの症状が起きてくるそうです。
そのため「体の水分を常に保つ意識を持つことが重要」とのこと。さらに水分補給には自発的脱水を防ぐために電解質や糖質が含まれた飲料が有効。「水分」+「塩分(電解質)」+「糖質」による水分補給が、水分の体内吸収をはやめ、「体水分保持力」を高めると語ります。
これまでの説明をまとめると、熱中症を防ぐには体に水分を常にキープ(体水分保持)し、そのうえで暑熱順化(運動など)を行うことが重要と訴えます。
■ 「身体冷却」で直接アプローチ
それでも体温が急激に上昇してしまった場合に大切なことが、体温に直接アプローチする「身体冷却」。これには「外部冷却」と「内部冷却」があります。
「外部冷却」で非常に有効な例として挙げられたのが「アイスバス」。氷水を浮かばせたお風呂の中に入ることです。もちろん意識が混濁している場合はサポートすることが重要。他にも手軽に携帯できる方法としてアイスタオルやアイスベストなどが挙げられます。
「内部冷却」の例として挙げられたのは「アイススラリー」。これは水分中に微細な氷が含まれている飲料。液体だけのものよりも冷却効果があるといわれているそうです。
最後に永島さんが強調したことが「脱水予防」。重症な熱中症にならないために水をこまめに飲んだり、「暑熱順化」により体を暑さに慣らしたりすることが非常に大切。当たり前のことだと前置きしつつも、「これらを世の中に啓蒙していきたい」と語っていました。
取材協力:大塚製薬株式会社
(取材・撮影:佐藤圭亮)