おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

釣ったカサゴのお腹から人魚—幻想と不気味が交錯する立体アート

 釣り上げたカサゴのお腹をさばいたら、なんと人魚が出てきた……。

 ……というイメージで制作された立体アート作品がXで注目を集めています。ガレージキット(少数生産のプラモデルのようなもの)制作を趣味とするH.Yamamoto2023さんが投稿した“カサゴ”は、一見すると本物にしか見えません。

  • ■ 2人のクリエイターが生み出した、虚実が曖昧になる幻想的なアート作品

     釣り上げた直後のように口を大きく開き、ぷっくりとお腹を膨れさせた1匹のカサゴ。

    お腹が膨らんだカサゴ、中には……(画像:H.Yamamoto2023さん)

     本物そっくりのオレンジ色の魚体をひっくり返してみると、そこには目を閉じた小さな緑色の人魚が静かにおさまっていました。その姿は、まるで物語の一場面から抜け出したかのように幻想的です。

    カサゴのお腹側

     「魚に喰われた人魚」と題されたこの立体アート作品は、造形作家の芹川潤也さんが制作・販売していたガレージキットに、H.Yamamoto2023さんが色付けをしたもの。

     カサゴは色がつく前の白の段階から細部まで作り込まれていますが、H.Yamamoto2023さんの塗装が加わることで、まるで本物のような見た目に仕上がっています。

     釣り場でこれを目の前に持ってこられたら「すごいの釣れましたね!!!」と素で驚くこと間違いなしです。

     2人のクリエイターの素晴らしい技術が合わさることで生み出された1つの作品。それぞれにお話をうかがってみました。

    ■ 原型を制作した芹川さん、着想のきっかけは「ちょっとグロテスクですが……」

     最初にお話をうかがうのは「魚に喰われた人魚」のアイデアを生み出し、原型を作った造形作家の芹川さんです。

     -- 普段の活動内容などについて簡単にお聞かせください

     活動内容は、造形作家として活動しております。オリジナルのクリーチャーなどの制作販売と制作依頼の受注などを行なっております。

     --オリジナルのクリーチャー……興奮しますね。「魚に喰われた人魚」というアイデアはどのように生まれたのでしょうか?

     ちょっとグロテスクですが、釣り上げられた魚のお腹を開腹したら中から色んな小魚が出てくるという動画を見て着想を得ました。人魚はもともと好きなモチーフだったので小魚を人魚にしたという形になります。

     --ああ、そういう動画ありますよね。しかしそれを人魚に置き換える……とは。まさにプロのクリエイター。作品はどのように制作しているのでしょう?

     スカルピーという、焼くと固まる粘土で造形します。それをシリコンで型取りしてウレタンレジンを流して複製したものです。

     だいたい1日くらいで原型を制作し、複製に2日くらいかかったので、制作には全部で3日ほどかかっています。

    着色前のカサゴ(画像:H.Yamamoto2023さん)

     --なんと、原型だけなら1日で作れてしまうんですね。今回の作品で特にこだわった部分、注目してほしい部分をお聞かせください

     こだわった部分は、魚の腹部から覗く人魚の生々しい気持ち悪さと美しさのバランスを意識した部分だと思います。

     --気持ち悪さと美しさ……たしかにどっちも感じられて、引き込まれます。

    ■ “趣味”でこのクオリティ!?「じっくり見なくていい、一瞬の不思議な感覚を味わって」

     続いては芹川さんのカサゴに色をつけ、より強く命を吹き込んだH.Yamamoto2023さんにお話をうかがいます。

     --活動内容などについて簡単にお聞かせください

     1年半ほど前から、趣味で怪獣・クリーチャー中心にガレージキットの制作を行なっております。

     まだ初心者の域を出ず、上手な方から助言をいただきながら作成しています(助言をくださる皆様ありがとうございます)。

     --え、“趣味”でこのクオリティ……?すごすぎです。芹川さんの手掛けた今回の作品、どんなところに心を惹かれましたか?

     心惹かれた理由はなんとなくとしか言えませんが、あえて言うならクリーチャーが好きだからでしょうか。

     --そうですよね、こういうのはただただ「好き!」と惹かれるものですよね…。今回、塗りの工程にはどれくらいの時間がかかったのでしょう?

     純粋に「塗り」だけだと1時間くらい(乾くのを待つ時間は別)、斑点模様を再現するためのマスキングテープの貼り付けが30分くらいだったと思います。

     ただ、ガレージキットは気泡や欠けがあることが一般的であり、本キットも例外ではありませんでした。

     そのため、その処理(デザインナイフで不要な箇所を除去し、気泡や欠けを接着剤やパテで埋める)に数時間かかっています。

     --特にこだわった部分、見てほしい部分についてお聞かせください

     存在しない生物の標本や、怪獣の特撮等、虚構と現実が混じる感覚が好きです。

     そのため、リアルな塗装を目指し、キャプションも上記を意識したものとしました。じっくり見ていただく必要はないので(むしろ塗装の粗が見えてしまう)、見た瞬間に不思議な感覚を味わっていただけると嬉しいです。

     --まさに初めて見た瞬間は「どういうこと?本物?作り物?」と心地いい困惑に包まれました!

     なお、造形がいいクリーチャー系のガレージキットは、塗装がイマイチでもある程度の見栄えになるので、本作品が評価いただけたとしたら、原型の造形美による部分が大きいものと考えております。

     --原型も塗りも、両方の良さが詰まった作品だと思います。

    * * *

     この作品は、不気味さと幻想が絶妙に絡み合い、強烈な引力を持つ独自の世界観を作り上げています。

     人魚は生きているのか、死んでいるのか。カサゴはなぜ人魚を飲み込んだのか。人魚はこのまま消化を待つしかないのか――。

     その問いは、想像の枠を超え、無限に膨らんでいきます。

    <記事化協力>
    「H.Yamamoto2023」さん(@HYamamoto2023)
    「芹川潤也」さん(@junya_serikawa)

    (ヨシクラミク)

    あわせて読みたい関連記事
  • 見える見える……木目に現れた“ひろゆき”に本人も反応「気付いてしまいましたか」
    インターネット, おもしろ

    見える見える……木目に現れた“ひろゆき”に本人も反応「気付いてしまいましたか」

  • 「見ざる・言わざる・聞かざる」を物理的に再現!1人で3猿をこなせるマスク
    インターネット, おもしろ

    「見ざる・言わざる・聞かざる」を物理的に再現!1人で3猿をこなせるマスク

  • もしも「食べられるガラス」があったら? アクリル製のリアルな“試作品”
    インターネット, びっくり・驚き

    もしも「食べられるガラス」があったら? リアルな“試作品”を美大生が製作

  • 数式を組むとシーラカンスが浮かび上がる?実在しない「シーラ関数」が話題
    インターネット, おもしろ

    数式を組むとシーラカンスが浮かび上がる?実在しない「シーラ関数」が話題

  • わーおしゃれなTシャツ……かと思いきや?夫が繰り出した斜め上の愛情表現
    インターネット, おもしろ

    わーおしゃれなTシャツ……かと思いきや?夫が繰り出した斜め上の愛情表現

  • アスキーアートは手打ちで作れる!?まさかの方法で生み出される「モナー」
    インターネット, おもしろ

    アスキーアートは手打ちで作れる!?まさかの方法で生み出される「モナー」

  • ジュラシックなフタ押さえ!モササウルスが割り箸をくわえてカップ麺をガード
    インターネット, おもしろ

    ジュラシックなフタ押さえ!モササウルスが割り箸をくわえてカップ麺をガード

  • 傘立てから伸びる黒い手の正体は傘 「一瞬でどこにあるか分かる」
    インターネット, びっくり・驚き

    傘立てから伸びる黒い手の正体は傘 「一瞬でどこにあるか分かる」

  • 雪の上を歩いて描いた地上絵、現れたのは巨大な海の生き物たち
    インターネット, おもしろ

    雪の上を歩いて描いた地上絵、現れたのは巨大な海の生き物たち

  • とても美味しそうなのに……石ころ!?イラストレーターが生み出した執念の焼き鮭
    インターネット, おもしろ

    とても美味しそうなのに……石ころ!イラストレーターが生み出した執念の焼き鮭

  • ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 手荷物検査で係員から声かけ……引っかかったのは「鬼滅の刃」フィギュア!?
    インターネット, びっくり・驚き

    手荷物検査で係員から声かけ……引っかかったのは「鬼滅の刃」フィギュア!?

  • まるでトイトレに付き添う親のよう 飼い主のトイレにお供する猫の愛情表現
    インターネット, おもしろ

    まるでトイトレに付き添う親のよう 飼い主のトイレにお供する猫の愛情表現

  • フライドポテトで、白ごはんを食べる……?ドンキ新作が過去イチ理解できなかった件
    グルメ, 食レポ

    フライドポテトで、白ごはんを食べる……?ドンキ新作が過去イチ理解できなかった件

  • にゃんこ7匹がゲートを強行突破!?家の片隅で起こった“かわいい暴動”
    インターネット, おもしろ

    にゃんこ7匹がゲートを強行突破!?家の片隅で起こった“かわいい暴動”

  • パンテーン80年の研究が明らかにした「髪を修復する力」 新製品発表会レポート
    企業・サービス, 経済

    パンテーン80年の研究が明らかにした「髪を修復する力」 新製品発表会レポート

  • 「本物のハムスターを探せ!」広々とした和室で開催されたクイズが高難易度すぎる
    インターネット, おもしろ

    「本物のハムスターを探せ!」広々とした和室で開催されたクイズが高難易度すぎる

  • トピックス

    1. 「フツーの人」と「デブ」の食意識の違いをイラストで可視化 あなたはどっち?

      「フツーの人」と「デブ」の食意識の違いをイラストで可視化 あなたはどっち?

      「もしかして、フツーの人っておなか空いてる時以外おなか空いてないの?」そんな衝撃の(?)問いかけとと…
    2. コーヒーにごま油……!?かどや公式のちょい足しアレンジを試してみた

      コーヒーにごま油……!?かどや公式のちょい足しアレンジを試してみた

      10月1日は「コーヒーの日」。そんな記念日に合わせて、かどや製油公式Xが提案してきたのは……まさかの…
    3. 「えもじの子(仮)」

      LINEの人気キャラ「えもじの子(仮)」が有料で復活 一部未収録に完全復活を望む声も

      つぶらな瞳ととぼけた表情で人気を集めたLINE絵文字「えもじの子(仮)」の無料配布版が10月1日、有…

    編集部おすすめ

    1. フライドポテトで、白ごはんを食べる……?ドンキ新作が過去イチ理解できなかった件

      フライドポテトで、白ごはんを食べる……?ドンキ新作が過去イチ理解できなかった件

      「みんなの75点より、誰かの120点」を合言葉にドン・キホーテが展開している偏愛メシシリーズ。10月1日に「本当にこの組み合わせが好きな人が…
    2. 将棋倶楽部24、2025年末でサービス終了 27年の歴史に幕

      将棋倶楽部24、2025年末でサービス終了 27年の歴史に幕

      オンライン将棋対局サービス「将棋倶楽部24」が、2025年12月31日をもって終了することが発表された。運営する席主の久米宏氏が10月1日付…
    3. pium、“カスハラ声明”きっかけに炎上 接客批判受け謝罪と改善策

      pium、“カスハラ声明”きっかけに炎上 接客批判受け謝罪と改善策

      アパレルブランド「pium」が9月30日、店舗スタッフの接客に対する多数の指摘や批判を受け、公式Xにて謝罪文を公開しました。併せて再発防止策…
    4. 「ビー・バップ」クラファン始動、清水で“高校与太郎祭”実現へ 返礼に「鉄橋ダイブ」関連も

      「ビー・バップ」クラファン始動、清水で“高校与太郎祭”実現へ 返礼に「鉄橋ダイブ」関連も

      映画「ビー・バップ・ハイスクール」のロケ地として知られる静岡市清水区で、作品ゆかりの企画を集めた大型オフラインイベント「清水 ビー・バップ・…
    5. 第7回京都アニメーションファン感謝イベント『私たちは、いま!! ―京アニのセカイ展―』

      京都アニ「第7回ファン感謝イベント」追加情報を公開 新商品や書籍予約、グッズ二次予約も発表

      株式会社京都アニメーションは、10月25日・26日の2日間で開催予定の「第7回京都アニメーションファン感謝イベント『私たちは、いま!! ―京…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト