セイコーグループ株式会社は、「時の記念日」である6月10日にあわせ、生活者の時間意識を調査した「セイコー時間白書2025」を発表しました。本調査は2017年から毎年実施されており、今回で9回目となります。
今年の白書では、「長寿化による人生100年時代における時間の多様性」と「タイムパフォーマンス(タイパ)とAI活用」に焦点を当て、全国15~69歳の男女1200人を対象に実施したインターネット調査から、現代人の時間感覚と世代間の意識差が浮き彫りとなりました。
■ 人生の見通しと老後観、希望と不安が交差する世代感覚
人生100年時代において、老後をどう捉えるかという問いには、年代ごとの大きな差が見られました。
10代・20代では「特に考えたことはない」が最多だったのに対し、40代からは「考え始めている」が約4割、50代では「準備を始める」が約2割と増えています。
しかし、60代で「準備完了」はわずか1割にとどまり、多くが不完全なまま老後を迎えている現実が明らかになりました。
また、将来への見通しについても、10代が最も楽観的(58.5%)だったのに対し、50代では楽観視が30.0%まで低下。60代になると再び44.0%と復調し、「なんとかなる」と考える姿勢が見えています。
■ 変わる人生観、「自分軸」で生きる時代へ
「自分軸で生きられている」と自覚する人は全体の59.0%。10代では70.5%と最も高く、仕事や私生活が忙しくなる20代では64.0%、仕事での立場や結婚・育児などライフイベントが起きやすい30代では54.0%と続けて低下しています。
ライフスタイルが安定しやすい40代でわずかに58.0%まで復調するも、50代では49.0%と再び半数以下に。そして60代で58.5%まで復調するという、浮き沈みをみせています。
一方で、「ライフイベントで社会規範に縛られる必要はない」とする声は全年代で7割を超え(73.7%)、結婚や出産、定年といったライフイベントの捉え方も変化しています。今後は年齢差にかわりなく「その人なりのライフイベントの迎え方」が増えて行くと予想されています。
なお、「他人の人生が気になる」と答えたのも10代が最多で64.5%。若年層は自己を意識しながらも、他者との比較に敏感である実態が浮かび上がっています。
■ 10代の前向きさとタイパ意識、未来への熱意と課題
特筆すべきは10代のポジティブさです。57.5%が将来の人生を「楽しみ」と答え、70.5%が「年を経るごとに成長し続けたい」と願っています。また、88.0%が「自由に生きていい」と感じており、タイパ重視や効率性志向も高く、1日の予定を分刻みで組む者(30.0%)も珍しくありません。
一方で、75.5%が「将来の時間の使い方に悩みそう」とも回答しており、時間に対する期待と不安が交錯している姿も浮かび上がります。
■ AIとタイパの共存時代、効率化の先にある「人間らしさ」
タイパ意識が社会に浸透しつつある中、タイパを意識して行動する人は60.4%、AI機能を使って時間効率を高めている人は30.3%に上ります。ChatGPTなどの生成AIを活用した経験も3割を超えました。特に10代はAI活用に前向きで、半数近くがAIと「ソロトーク」し、愚痴や恋愛相談も行っています。
ただし、AIによる効率化が進む一方で、「人間にしかできない時間の使い方」への価値も高まりつつあります。AI活用により生まれた時間で、人と人との交流、非効率の中にある味わい深さなど、人間にしかできない体験に有効に使うという見解も自由記述回答の中に多く見られました。
■ 定点観測で見えた「今」の感覚、ばたばたとイライラの2025年
「時間に追われている」と答えた人は64.0%、「1日24時間では足りない」とする人は56.9%と、いずれも昨年よりやや減少。生活を表す言葉では、3年連続で「ばたばた」が1位、心情を表す言葉では「イライラ」と「ぼうっと」が同率1位となりました。
また、自分の1時間の価値は、オンタイムで4780円、オフタイムでは1万2727円と、後者が2.7倍高く評価されました。働く時間よりも、自由な時間にこそ価値が置かれる傾向がより強まっています。
■ 人生100年時代を生きる心構えとは
今回の調査に関して、時間学の専門家・一川誠教授(千葉大学大学院教授)は、「(若い世代は)AIなど新しい技術が登場し社会が大きく変わることも、自分たちにとってはプラスの追い風と捉えている」と語ります。一方で、40代については「将来に対し不安を感じています」、50代についてはさらに「40代より50代の方がより悲観的です」と分析。
また、タイパやAIの活用で生まれたゆとり時間を、「自分がやりたいこと」に使えるようになれば、幸福度も満足感も高くなると指摘しています。
「時間をどう使うか」は、単なる効率の問題ではなく、その人らしい生き方を示します。AIが当たり前の時代だからこそ、自分にとっての「豊かな時間」を見つけていくことが問われているのかもしれません。