「うちの本棚」、今回紹介いたしますのは、石川球太の『原人ビビ』。原始少年の成長を描いた名作です。

『原人ビビ』という作品があることを知ったのは、サンコミックスの巻末に掲載されていた「刊行リスト」で、だった。石川球太という漫画家については、たとえば「少年チャンピオン」での『ウル』などで、動物を扱った作品を得意としているという程度の知識しかなく、あまり作品自体読んではいなかったのだが、この『原人ビビ』は読んでみたい作品だった。

とはいえ、刊行リストにタイトルが掲載されていることが、近所の書店の店頭でその本が入手できるということではないのは、当時もいまも同じことで、実物をみたことはなく、入手方法もわからないまま、漠然と「読んでみたい」という思いだけがあったころだ。その後、書店に注文することを覚え、この『原人ビビ』を含めてサンコミックスを多数注文した(いま考えれば無謀なことだが、書店のおやじさんがいい人で、取り寄せた本を少しずつ売ってくれた)。しかし、『原人ビビ』はすでに在庫がなく、読むことはできなかった。

さらに月日が経って、漫画専門古書店などで見かける『原人ビビ』は、簡単に購入できる金額ではなく、「いつか読みたい作品」になっていった。
そして、ようやくパンローリングから全2巻で刊行され、ようやく読むことができた。
 
ストーリーは、古代、原人の集落に肌の白い子供が産まれる。体毛も薄く、「白い子」として悪い兆候だとして、長老のおばばににらまれてしまう。そんな中でも集落のかしらに気に入られ、成長していくのであるが、この序盤の展開は、その後に描かれた石森章太郎の『原始少年リュウ』や桑田次郎の『ミュータント伝・第1部』と印象がだぶる。もちろん『原人ビビ』のほうがさきに描かれているのだから、アイデアとしてこちらが先行しているのは言うまでもないのだが…。もっとも時代的に早すぎたのか、ビビがほかの子供たちと違うという点はそれほど前面には出てこなくなる。

石川球太といえば動物だろう。本作でも多数の動物が登場しているが、なんといっても「白いマンモス」とそのライバル関係にある「片キバマンモス」がストーリーの全体を通じて登場してくる。また後半ではサーベルタイガーの子供をビビが育て、パートナーとして行動するようになる。また狩りの場面なども迫力がある。

石川球太の絵は、手塚系統だとおもうが、そこに劇画的な要素が加わり、とくに白土三平の影響がみえるような気がする。

初出で見る限りかっきり1年の連載になるようだが、ビビの成長を暗示させながらのラストは、作者の中での構想がまだまだあったのではないかという印象を受ける。

パンローリング版では巻末に連載時の扉絵も収録されているので、ぜひご一読を。

初出/少年サンデー(1966年・31号~1967年31号)
書誌/朝日ソノラマ・サンコミックス(全3巻)、パンローリング・マンガショップシリーズ(全2巻)

■ライター紹介
【猫目ユウ】

ミニコミ誌「TOWER」に関わりながらライターデビュー。主にアダルト系雑誌を中心にコラムやレビューを執筆。「GON!」「シーメール白書」「レディースコミック 微熱」では連載コーナーも担当。著書に『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』など。