おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】第四十一回 巨人獣/石川球太

update:

「うちの本棚」第四十一回は動物作品の大家が描いた異色の社会派SFを取り上げます。

石川球太といえば『牙王』や『ウル』といった動物をテーマにした作品を得意とする漫画家として知られていて、ボク自身もそのように認識していたりするのだが、実際には石川の動物テーマの作品よりは、本作や『原人ビビ』の方が印象が強い。


  • 動物を得意としているというのはそれだけデッサン力もあるということで、特に本作では巨人とはいえ「人」が主人公なのでそのデッサン力が遺憾なく発揮されていると言っていいだろう。

    本作は、アパートでひとり暮らしをしていた青年が、ある日突然理由もわからず巨人になってしまうというところから始まり、ひとりの巨人を巡って社会が大混乱していくさまを描いていく、ちょっと、いやかなり社会派の作品。

    自らの意思とは無関係に巨人になってしまった主人公の思いや苦しみを描くと思えば、その巨人を巡ってのマスコミや警察、そして政治の混乱や興味本位の行動など、ピリッと社会風刺も効いている名作である。

    70年といえば講談社の「少年マガジン」も、大学生の読者が現れ劇画を中心に高い年齢層の読者を意識した作品が発表されていた時期。「少年キング」でもそういった漫画界の時流に乗った企画だったのだろう。作品の内容的には、いまであれば青年マンガ誌に掲載されていておかしくないものである。

    とはいえ、連載当時も、最初の単行本が刊行されたときも、それほど話題になったとか注目されたという印象はなく、太田出版で再刊行されたことからもわかるように「カルト作品」として知られているといっていい。

    すでに連載からかなりの年月が経ってしまっているにもかかわらず、いま読んでも本作の面白さや社会風刺の視点は色あせてはいない。まだ未読という方にはぜひお読みいただきたいと思う。

    人が人としてどうあるべきか、いつの時代でも変わることのない思いを本作は見事に描き出していた。
     
    ちなみに、太田出版の単行本では「少年キング」連載以前に「まんが王(秋田書店)」1969年11月号に掲載された本作のオリジナル作品を、著者によって本作に組み込む形で完全版としている。

    初出/少年キング(少年画報社)1970年10号~32号
    書誌/汐文社(全2巻)
       太田出版(全1巻)
       ダイソー(全2巻)

    ■ライター紹介
    【猫目ユウ】

    ミニコミ誌「TOWER」に関わりながらライターデビュー。主にアダルト系雑誌を中心にコラムやレビューを執筆。「GON!」「シーメール白書」「レディースコミック 微熱」では連載コーナーも担当。著書に『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』など。 

    あわせて読みたい関連記事
  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第六十九回 ゴジラVSキングギドラ決戦史/石川球太、堀江卓、古城武…

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第二十四回 原人ビビ/石川球太

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 運営者の終活で老舗CGIサイトが終了へ 1995年開設「CGI RESCUE」、2026年3月に幕

      運営者の終活で老舗CGIサイトが終了へ 1995年開設「CGI RESCUE」、2026年3月に幕

      1995年から続く老舗CGI配布サイト「CGI RESCUE」が2026年3月末での終了を発表しまし…
    2. 違和感満載のサイケな銭湯でほっこり入浴 蒲田で開催「脳汁銭湯」体験レポート

      違和感満載のサイケな銭湯でほっこり入浴 蒲田で開催「脳汁銭湯」体験レポート

      旧き良き銭湯が異次元の入浴空間に変身するイベント「脳汁銭湯」が、11月26日から12月7日まで東京・…
    3. この涙は懐かしさ……なのか? 展示「あの職員室」で特大感情を揺さぶられたレポート

      この涙は懐かしさ……なのか? 展示「あの職員室」で特大感情を揺さぶられたレポート

      学生時代、入りたくても入れない「聖域」のような場所だった職員室。その風景を再現し、自由に探索できる展…

    編集部おすすめ

    1. 例のあの和菓子、都道府県別の呼び方

      全国で呼び名はどう違う?「今川焼」が19エリア制覇 ニチレイが“勢力図”を公開

      全国で呼び名が分かれる“中に具材を入れて焼いた円形の厚焼き和菓子”について、株式会社ニチレイフーズが47都道府県別に最も多く使われている呼称…
    2. セブン×ちいかわ「鬼辛カレー」を実食!全身が真っ赤に染まるのも納得の辛さ

      セブン×ちいかわ「鬼辛カレー」を実食!全身が真っ赤に染まるのも納得の辛さ

      セブン‐イレブンで12月2日から始まった「ちいかわと冬をたのしんじゃお!」キャンペーンで、作中に登場した「鬼辛カレー」が発売中。原作で話題の…
    3. 楽天モバイル、シニア向けに「オレオレ詐欺対策保険」を無料提供開始

      楽天モバイル、シニア向けに「オレオレ詐欺対策保険」を無料提供開始

      楽天モバイルと楽天損害保険は12月1日、「最強シニアプログラム」を強化し、オプションパック「15分かけ放題&安心パック」加入者を対象とした「…
    4. 静岡新球団で何が起きているのか ハヤテ223とくふうHDがネーミングライツ巡り対立

      静岡新球団で何が起きているのか ハヤテ223とくふうHDがネーミングライツ巡り対立

      静岡県を拠点とし、プロ野球ウエスタン・リーグに参加している新球団「くふうハヤテベンチャーズ静岡」を巡り、ネーミングライツ契約を含む資本業務提…
    5. 事業者向け「ASKUL」Web注文、12月第1週に再開 “明日来る”配送は当面遅れる見込み

      事業者向け「ASKUL」Web注文、12月第1週に再開 “明日来る”配送は当面遅れる見込み

      アスクル株式会社は11月28日、10月19日に発生したランサムウェア攻撃によるシステム障害の復旧状況について第11報を公表しました。 事業所…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト