「うちの本棚」、今回は幻とも言われた怪獣映画のコミカライズ作品を復刻刊行した『ゴジラVSキングギドラ決戦史』です。なかなか単行本にまとめられることのなかった怪獣映画のコミカライズ作品をふたたび読むことができると、マニア、ファンのあいだで話題となりました。

本書は東宝特撮怪獣映画「ゴジラVSシリーズ」、『ゴジラVSキングギドラ』の公開に合わせて刊行された、「昭和ゴジラシリーズ」のコミカライズ作品集である。


テーマとなっている「VSキングギドラ」にちなみ、キングギドラ登場作品から3タイトルを収録している。カバーイラストは開田裕治。

現在では映画が公開されたあとはDVD等の映像ソフトとして販売やレンタルがされるので、自宅で何度でも繰り返し映像を楽しめる環境になっているが、「昭和ゴジラ」の時代はビデオデッキ自体が普及する以前であり、映画のソフトはごく短く編集された8ミリくらいのものだった。したがって映画館での公開が終わったあとは夏休み等にテレビで放映されるのを期待するか、雑誌や単行本の特集やグラビア記事、コミカライズ作品で代用するという状況だった。また、多くのコミカライズ作品は雑誌掲載のまま単行本化されることもなかったので、初出当初に入手できなかったらそのまま読むことも難しい状況になっていた。そんな中で復刻刊行された本書の意義は大きいものなのだ。

収録された3作品の作者それぞれを見てみると、石川球太は『怪獣王子』で特撮テレビドラマのコミカライズを経験しているし、堀江 卓はソノシートに付属するブックレットで特撮作品のコミックやイラストを手がけている。また古城武司も『ウルトラQ』『バロム1』といった特撮テレビドラマのコミカライズを担当していて、それぞれが本作が初めて特撮作品を手がけるということではないのがわかる。

発表年代順に収録され、最初にくる『地球最大の決戦』がメインとなっているが、これは初出が別冊でもあり、またページ数も100ページを越えるボリュームで読みごたえもある。『怪獣総進撃』がそのシートを主体としたムックに掲載されたものだったため、かなりアレンジして内容を短くまとめられているが、実際のフィルムでは活躍できなかったバラゴンやバランが、コミカライズ版では暴れてくれている。『ゴジラ対ガイガン』は映画のストーリーを忠実に再現してくれていてよくまとまっているのだが、実際のフィルムではゴジラとアンギラスがフキダシで会話をしたり、ガイガンの攻撃に流血したりというそれまでのシリーズには見られなかったシーンがあったのだが、コミカライズ版には反映されなかったのは少し残念である。もっとも本書の「まえがき」でも担当漫画家はシナリオとスチール数点だけを史料として、完成フィルムを観てから描くことはなかったということなのでいたしかたないだろう。

現在ではDVDやBlu-ray Discで映画を手軽に見ることができるのでコミカライズ作品を手に取るのはリアルタイムで読んでいた世代か漫画マニアくらいなのかもしれないが、なかなか単行本にまとまることのない映画作品のコミカライズ作品がこのような形で刊行されたことは評価しておきたいと思う。ただし現在ではこれも入手困難なものになってしまっているのは寂しい限りだ。
 

書 名/ゴジラVSキングギドラ決戦史
著者名/石川球太、堀江 卓、古城武司
収録作品/三大怪獣地球最大の決戦(「少年ブック」1965年1月号付録)
       怪獣総進撃(「怪獣総進撃」(朝日ソノラマのソノシートブック)1968年8月)
       地球攻撃命令ゴジラ対ガイガン(「別冊少年チャンピオン」1972年4月号)
発行所/竹書房
初版発行日/1992年1月16日
シリーズ名/BAMBOO COMICS


【文:猫目ユウ】
フリーライター。ライターズ集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。