こんにちは、深水英一郎です。

 近年、ユーザーのエンタメコンテンツの楽しみ方が進化し、良いものを創って知ってもらうだけでは購入されなくなっています。一体どのような変化が起き、どのようなコンテンツが売れるようになってきたのでしょうか。

 今回の「著者著書紹介」では、エンタメコンテンツの裏側で起こっている、地殻変動とも言えるヒットの法則の変化について、たくさんの事例とともに分析した著書「推しエコノミー 『仮想一等地』が変えるエンタメの未来」について、著者の中山淳雄さんに話をききます。

【著者 中山淳雄 プロフィール】

エンタメ社会学者。事業家(エンタメ企業のコンサルを行うRe entertainment創業)と研究者(早稲田博士・慶應・立命館大研究員)、記者(Gamebiz記者)、政策アドバイザー(経産省コンテンツIPプロジェクト主査)を兼任しながら、コンテンツの海外展開をライフワークとする。以前はリクルートスタッフィングから転職し、DeNA・デロイト・バンダイナムコスタジオ・ブシロードで北米、アジア向けのメディアミックスIPプロジェクトを推進&アニメ・ゲーム・スポーツの海外展開を担当してきた。
https://twitter.com/atsuonakayama

▼本日紹介していただく著書▼
「推しエコノミー 『仮想一等地』が変えるエンタメの未来」(中山淳雄著、日経BP)2021/10/14

——よろしくお願いします。今回の著書、どんな内容なのでしょうか?

【中山さん】
 前作「オタク経済圏創世記」がゲーム・アニメ・マンガの成立の歴史と海外化のプロセスをまとめたもので、今回の「推しエコノミー」はそこにコロナによる急激なデジタル化社会化と、実際にゲーム・アニメ・マンガなどのファンやユーザー側がどんな変化にあるのか、ということを書いた内容になります。

——前回の著作「オタク経済圏創世記」と今回の「推しエコノミー」の違いや共通点ってありますか?

【中山さん】
 共通しているのは「ライブコンテンツ化」という語り口です。これまではとにかく良いものを創って知ってもらって購入してもらうという「リーチ型」のマーケティングでした。

 それがいまは一度SNSでもイベントでもファンとの結びつきができた状態から数少ないコアファンがコミュニティをリードしながらちょっとずつ関与度合いを上げていって、結果として購入という行動もその「推し」の表れとして出来上がってくる「リール型」のマーケティングに変わってきている。

 まるで劇場の中を運営するかのように、着席してくれたファンが興味をなくさないように継続的な関係性のなかで、ライブコンテンツとして「運営をしていくこと」が大事になる、ということを語っております。

 その範囲がゲーム・アニメ・マンガだけでなく、テレビや音楽、スポーツまで含んで伝えたことで、かなり多くの業界の方がこの本のファンになっていただいて、とても嬉しいです。

——SNSを見ているとマーケティングの変化が顕著に現れてきていますね。作品のみならずリアルタイムに参加することもコンテンツの楽しみ方となってきています。本書はそういったエンタメコンテンツを取り巻く変化が図表でわかりやすく可視化されていますよね。

【中山さん】
 「内部情報じゃなくても、これだけエンタメビジネスが可視化して分かるんだね!?」というコメントをよくいただきます。

 市場データだけで、どう作品が創られ、どう配分され、キャラクターをとりまく企業群がどうエコシステムをまわしているかをかなり一覧性をもってまとめており、そこは是非注目して読んでいただきたいと思います。

——たくさんの作品を細かく分析しておられ、その分析もわかりやすく「あぁ、こういうことだったんだ」と染み込むように理解できます。

【中山さん】
 アニメ製作委員会の仕組から、ポケモンや鬼滅の刃の収益配分構造、Fortnite・荒野行動・ウマ娘から半沢直樹まで、1つ1つの作品についても、模型をばらすかのように、1つずつ解説していきました。

 エンタメを、消費する作品としてではなく人の手と企業の企図、そしてファンの作品参加によって、手作りで動かされる人智の塊として味わってもらう。それを知っていただくために苦労してデータを可視化していったのですが、わかりやすいというコメントをみて、苦労した甲斐があったと感じています。

——複数の著作をお持ちですが、今回の本「推しエコノミー」までの一連の著作に関連性はあるのでしょうか。

【中山さん】
 仕事を始めてから15年になりました。最初の5年は人材業界(リクルート)でしたが、その後10年はDeNA・バンダイナムコ・ブシロードとずっとエンタメ業界での海外展開をやってきました。

 Deloitteでコンサルもやっていたことがあり、他の業界からみたときのエンタメ業界の特異性や、逆に他の産業の人でも理解できる共通性にずっと注目してきました。その間、何か自分のやってきた最前線のビジネス構造を伝えたいとずっと思ってきたんです。

 ですので、基本的に自分自身がビジネスをまわして、とても面白かった経験・事例が、そのまま執筆動機になっています。

 私が書いた「ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか」(2012)、「The Third Wave of Japanese Games」(2015)など、当初の著作はゲームの話題が中心。それをアニメ・マンガにも敷衍したのが「オタク経済圏創世記」(2019)。そして北米だけでなく中国含めたアジアでのビジネス経験や実際の「推し活」ファンとの交流のなかで、その進化版として書き上げたのが「推しエコノミー」(2021)です。

——このテーマで引き続き書いていく?

【中山さん】
 このテーマでまだまだ深堀りもしていく予定ですが、同時に演出家や映画監督などクリエイターさんたちと接する中で「仕事人としていろいろな業界に接してきた」経験をなにか小説のような形で書けないかなと思うようになりました。

 IT業界、ベンチャー企業、コンサル、商社、官僚に政治家、学者など、自分が実際に入って接してきた事例などをもとに、働く人々がもやもやと憧れや空想など「バイアス」をかけてみている世界に、手ごたえとリアリティをもったストーリーで語っていけないかなと最近は思っています。

——おお! 実際にコンテンツの海外展開に関わってきた中山さんならではの作品になりそうですね。ぜひ実現していただきたいです。昨年は起業もされ、ますますお忙しくなるのでは、と思いますが今後の活動はどうなっていくのでしょう?

【中山さん】
 当面は起業したエンタメ業界のコンサルティング会社Re entertainmentのビジネス7割、教育者・研究者2割、作家・ジャーナリスト1割みたいなイメージでいく予定です。まだ博士課程1年目の学生でもあるんです(早稲田アジア太平洋大学院)。博士論文書いて、たまに教壇にも立ちながら、インプットとして作家やジャーナリストとしての取材も続けつつ、主眼はビジネスとしてエンタメ業界のグローバル化というところに強くコミットしていきたいです。

——研究からビジネス、執筆まで多岐にわたる中山さんのご活躍、今後も非常に楽しみです! 本日はありがとうございました。

(インタビュー了)

インタビューききて・深水英一郎 プロフィール https://nitsuite.jp/fukamie
メルマガプラットフォーム「まぐまぐ」を個人で発案、開発運営し「メルマガの父」と呼ばれる。Web of the Yearで日本一となり3年連続入賞。新しいマーケティング方式を確立したとしてWebクリエーション・アウォード受賞。未来検索ブラジル社元代表を務めニュースサイト「ガジェット通信」を創刊、「ネット流行語大賞」やMCN「ガジェクリ」立ち上げ。シュークリームが大好き。