X(Twitter)のトレンドでよくみかける、「トレンドワードに便乗した謎の美女アカウント」。
「わ~こわい~みんな気をつけてね。詳しくはプロフ♥ #地震」など、その時トレンド入りしているワードとともに投稿。胸元などアップした写真が添えられるまでがセットです。
トレンドに便乗して人の目に触れることを狙ったものだと思われますが、みなさん気になっていますよね?彼女たちは一体何が目的なのかって。だってあまりにも数が多いですから。
大体の結末は予想することができましたが、一応確かめるべく接触してみました。
それでは結果を見ていきましょう。
■ 出会いはXのトレンドワード
今回紹介する女性との出会いは、その日Xにあったあるトレンドワード。適当なトレンドワードをのぞいてみると……いました、いました。沢山のトレンド便乗投稿者たちが。
なかでもあからさまに胸を強調しているアカウントを選択。この手の甘い誘惑系の投稿の場合はほとんどが「ロマンス詐欺」。結果は「出会い系サイト・アプリ」へと誘導されるか「金銭をたかられるか」の2パターンです。結果がわかりきっているので、個人的にはほぼやる気ゼロで挑みましたが、事態は意外な展開へ。
まずはXのDMでコンタクトを取ります。すると、すぐさま「LINE」へと誘導させられます。この辺の流れは、他の潜入調査と全く同じ流れ。SNSを入り口にしたものは、Xに限らずFacebookからでも必ず「LINE」へと誘導されます。
おそらく「LINE」のほうが、直接コンタクトも取れるし、個人情報を取得しやすいと言う狙いがあるからだと思われます。
■ LINEで他愛もない話をする
LINEでのやり取りは、あからさまな「出会い系の女」ということでもなく、割と普通。まずは、お互いのプロフィールを教え、自分の名前は「偽名」を伝えます。
一方、今回の相手「ayaka」さんは、年齢は34歳で、エステサロンを経営していると自称。また、父親が台湾人、母親が日本人のハーフで、言葉はカタコトになっていました。
余談ですが、過去に潜入して接触した別の相手からも、「台湾人と日本人のハーフ」という設定はよくでてきました。この手の詐欺業界では鉄板の設定なのかもしれません。
そして会話の内容はというと、「今日はラーメンを食べた」「レストランに行った」など、わりと普通のやり取り。特段何かを、けしかけてくる様子もありません。数日間はこうしたやりとりばかりですが、積極的に自分の日常を送ってくる点がうさんくさいポイントです。
ただし、人によってはこうしたやりとりが日々つづけば「本当にこの女性がガチで出会い目的でやり取りをしてくれているのではないか」と、錯覚すら覚えることでしょう。もちろんこれは「ロマンス詐欺」の常套手段です。
加えて、返信も早く、長文がサラッと送られてきます。翻訳ソフトを使っているのか、テンプレを使っているのか。恐らくどちらかでしょう。
こうした他愛もないやりとりを続けていると、「心理クイズ」のようなものを出されるという一幕も。ここはノリノリで「その通りです!」とこたえてキャッキャしておきました。
この辺のやりとりを踏まえると、「Bot」などのプログラムや「AI」などではなく、ちゃんと「人」とやりとりをしている感覚があるので、「ayaka」さんという人物が実在するかは不明ですが、「中にだれか人はいる」のでしょう。相手が女性とは限りませんが。
■ 福袋にハマっている話を聞く
やりとりを開始して、3~4日経過したところで、気になる報告が増えてきました。
仕事内容の投稿とともに、しきりに「趣味」の話が多くなってきます。その趣味は「ガチャ」と「福袋」。
「福袋」といっても結構高額なもので、ブランド物が入っている「福袋」です。彼女いわく、最近流行りの「ブラインドボックス」ということですが、やたらとその「ブラインドボックス」の報告が増えてきました。
ただ、その「ブラインドボックス」だけでなく、通常の投稿も交えているため、特段それを薦めるわけでもありません。こちらとしては、世間話として聞き流すのみ。
しかし徐々に「ブラインドボックス」の話題が増加。「ブラインドボックス」で得た景品を「転売」して利益が出たなどの報告もし始め、にわかにきな臭くなってきました。おやおや~。
「ayaka」さんは、この「ブラインドボックス」を私にやってほしいのかもしれません。私が参加することで、もしかすると何割か彼女に入ってくるのかも?やけに利益についてにおわせてきます。
色々疑問は湧いてきますが、相手が本当に実在しているのか確認すべく本人の詳細を聞くことにしました。
■ どこで働いているのか聞いてみた
まず「ayaka」さんは、どこでネイルサロンを経営しているのかを質問。
すると「どこで働いているのですか?」と質問を投げても「交流会に参加し、自分の視野を広げている」「多くのことを学ぶことができる」など、自己研鑽系の投稿をして返すだけで会話にならなくなりました。なんで?
少しこちらもキレて「答えられないんですね」と突っぱねると、「一度に何人もの女性とLINEしてるのですか?」となぜか逆ギレ。意味がわかりません。
しかしその後、なんとネイルサロンの名前をようやく教えてくれました。
試しにその店の名前を検索すると、ネイルサロン自体はたしかに実在していました。
なんだ、本当に「ayaka」さん実在しているんじゃないか!と思うことなかれ。言うのはタダです。実際に「ayaka」さんが働いているとは限りません。
■ 狙いは何なのか
さて、ここまでのやり取りで2週間ぐらいが経過しました。その間筆者は、他の詐欺師たちとも同時進行でやりとり。「ayaka」さんはレスポンスが早いものの、話がすすまない。平行して、Facebookでみかけた著名人を騙る2つのアカウントとやりとりしつつ、「ワタシイウコトダイジョブ」という不安しかない口説き台詞で投資をすすめる怪しいアカウントとも電話やメールでやりとりしていました。
そして「ayaka」さんとのやりとりはというと、仕事の話・趣味の話・ブラインドボックスの話を一方的にされるばかり。しかし次第に目的も見えてきました。「ブラインドボックス」では手に入れた戦利品を転売していると語り始めます。しかも儲かることをやけにアピール。
はは~ん、この辺の儲かり話で相手を釣って、「ブラインドボックス」をやらせる気だな?
ただ、その後もしばらく「ブラインドボックス」への誘導(サイト等への誘導)はなく、いつもの会話が続きます。
誘惑するなら、もう早くしてほしい、これはほぼ生殺し状態。
■ こちらが痺れをきらし、そっけない態度を取ると急展開
もうこのまま続けるのは苦痛だ、さっさと誘導するならしてほしい。ということでちょっと作戦を変え、こちら側がそっけない態度をとるようにしてみました。
具体的には今まではしっかり日本語で返信していましたが、以降は「OK」とか「Ryokai」とか適当な返事をしたり「絵文字」「スタンプ」などで返信を済ませてみることに。
こうすることで相手は、このままでは愛想を尽かされると危機感を抱き、急いで目的に誘導するのではないか?と言う計画です。
すると、こちらの狙い通り、「ayaka」さんは、ついに本性を表しました。
これまでの会話の中に度々登場していた、怪しげなサイトへの誘導を図ったのです。また、サイトへの登録及び、紹介者のIDのようなものを入力してほしいと頼まれました。
しかも、私(偽名)の名前もなぜか※※さんになっていました。この点気になったので、過去のやりとりをみなおすと一部に同じ「※※さん」という表記を見つけることができました。ははーん。これはプログラムされたものか、もしかするとテンプレか。
そして誘導先のサイトを調べてみると、セキュリティ会社のサイトでは「フィッシングサイト」として警告。こんなところに、「携帯電話番号」「メールアドレス」など個人情報を入れるのは絶対に危険です。もちろん今回も入力していません。
結論ですが「ayaka」さんの狙いは、この「ブラインドボックス」のサイトに登録させることだったようです。最終目的は個人情報を抜くことか、サイトで実際にブラインドボックスをやらせるための「サクラ」だったのかも。
今回はこれ以上深追いせず、大体の狙いがわかったところで終了とします。
■ 相手にメリットは有るのだろうか
約3週間もかけて、「ブラインドボックス」のサイトへと誘導されましたが、これ本当に勧誘側にメリットはあるのでしょうか。
ここまで時間をかけて誘導させるだけというのは、非常にコスパが悪すぎます。そもそも論、入り口だってXのトレンドワードなわけですから。引っかかる人の方がごく少数でしょう。なんだかなぁ。
とはいえ、ふざけてこの手の「詐欺」にのるのは危険。大きなトラブルに巻き込まれるので絶対に真似はしないでください。
※画像の一部には編集部でモザイク処理をほどこしています。
(たまちゃん)
■ 【追記】届いたご意見について
10月11日14時28分に本稿を公開いたしましたところ、15時28分に問い合わせ窓口より次の意見を頂戴いたしました。
匿名でのご意見かつ、こうした詐欺に関わる記事へのご意見の一部については、かねてより公開回答とさせていただいております。よって、このご意見についても公開にて回答いたします。
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【10月11日15時28分受信:匿名の方より】
https://otakuma.net/archives/2023101105.html
上記の記事ですが、仮に詐欺だとしても個人のやり取りを相手に無断でそのまま掲載するのは、非常識かと思います。
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編集部では「市民の知る権利」のために力を尽くすことを使命としており、特に「公共の利益」に繋がることを重視しております。
今回はその考えのもと、近ごろSNSでよくみかける不審なアカウントについて調査を実施。結果として不審な行動が多くみうけられたため、注意を知らせる目的で記事にいたしました。
伝える課程においては、「真実を伝える目的」および「証拠」として、LINEでのやりとりなどに一部モザイク処理をほどこすかたちで掲載いたしました。掲載にあたっては個人が特定される可能性のあるものはできる限り伏せておりますが、ハンドルネームについては偽名である可能性が高いと考えられ、あえて伏せておりません。既に被害に遭われている方が気づくきっかけになればと残している部分です。
また、「仮に詐欺だとしても」とございますが、誘導されたのはフィッシングサイトでした。仮に、ではなく詐欺の可能性が限りなく高いものです。
私どもの使命は多くの人に真実を伝えること、そして被害を未然に防ぐこと、被害に気づいてもらうこと。今後も記事を通じ、皆様のお役にたてるよう努めて参ります。
なお、以前より問い合わせを通じて「詐欺側」らしき方よりよくご意見を頂戴いたします。編集部ではそうした方々に対して、水面下での対応は一切行いません。全て公開回答で対応いたしますこと改めてお伝えいたします。我々は圧力、脅迫には一切屈しません。
(おたくま経済新聞 編集長 宮崎美和子)