おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

社長のなりすましVS社長 自分宛に届いた「ニセ社長詐欺」の手口を調査

 年明け以降、全国で被害が相次いでいる、「ニセ社長詐欺」。

 社長の名前を名乗るメールが突然届き、文面には「至急、LINEでグループを作成してほしい」といった指示が書かれていることから始まります。

  •  指示通りにLINEグループを作成すると、「経理担当者をグループに誘うよう」指示され、「支払金がある」として、指定された口座への入金を指示されるのが典型的な流れです。

     実在する上司名や業務内容を巧みに織り交ぜる手口のため、不審に思わないまま誤って送金してしまう被害が、いま全国各地で確認され連日被害が報道されています。

     実は筆者はライターであると同時に、実家の家業で代表者となっています。ほぼ一人親方のような形態で運営しているためか、今回の詐欺メールは、なんと「自分の名前」で「自分宛」に届きました。

     今回はその機会を逆手に取り、どのような手口が使われているのかを確認するため、あえて騙されたふりをして、相手の反応を探ってみることにします。

    文章はテキストではなく、画像として添付

    ■ 届いた1通の怪しげなメール

     今回送られてきたのは、次のようなメールです。

    差出人:自分
    名前:自分

     という、何とも奇妙な表示です。

     メールの送信者名は簡単に偽装できるものですが、文面には筆者が代表となっている実家の会社名まで正確に記載されており、事前に一定の情報を収集したうえで送られていることがうかがえました。

     一見すると、それなりに作り込まれているようにも見えますが、メールの内容自体は実に怪しく……。

    「同僚の皆様へ
    業務上、新しいLINEグループを作成させていただきたいと考えております。
    新しいグループ名は会社名をご使用ください。現時点では他のメンバーを招待しないでください。
    グループ作成後、グループのQRコードをこちらのメールアドレスまでお送りください。
    グループへの参加後、スムーズな手続きのため、他のメンバーと調整させていただきます。」

     送られてきたのは、このような内容でした。しかも驚いたことに、文章はテキストではなく、画像として添付されていたのです。

     内容を読むと、LINEグループを作成させたうえで、QRコードをメールで送るよう求めています。この時点で不自然さはありますが、「業務」だと考えれば素直に受け止めてしまう人はいてもおかしくありません。

     では、実際にLINEグループを作成し、怪しげな相手を追加すると何が起きるのか。この先、さらにやり取りを進めてみることにしました。

    ■ とりあえずコンタクトを取ってみる

     指示通り、LINEグループのQRコードを送り、その反応を見てみることにしました。

     しばらくすると、「自分(筆者)」を名乗るLINEアカウントからコンタクトが届きました。業務連絡を装った内容ですが、「社長である自分」になりすました相手が、「自分宛」に連絡をしてきているという、何とも間の抜けた構図です。

    最初の会話

     これまで詐欺潜入記事を通じて様々な「なりすまし」と向き合ってきましたが、まさか「自分のなりすまし」と対峙する日が来るとは思ってもいませんでした。人生、何が起きるかわからないものです。

     ひとまずここは警戒を怠らず、しばらく相手の動きを観察してみることにします。

    ■ 経理担当を追加するように指示

     届いたLINEの内容を確認してみると、どうやら「急ぎの案件がある」として、経理担当をLINEグループに追加するよう求めてきました。

    経理をグループに追加するよう指示された

     理由を尋ねると、「至急で送金が必要な件がある。先に立て替えて相手方に振り込んでおいてくれ。後で私が君の口座に戻す」といった内容です。

    送金に関する指示

     ……ずいぶん偉そうな物言いです。少なくとも、筆者は普段こんな言い方はしません。

     話の流れは唐突で、正直なところ意味がよくわかりませんが、例えばワンマン経営の会社で、社長の名前を名乗るメールが一般社員のもとに届いたとしたら、驚いて対応してしまう可能性はやはり十分にあります。

     しかし、残念ながら今回は、その「社長本人」が受け取っている側です。

     自分になりすました相手と、自分がやり取りをするという、意味不明でカオスな状況が続きます。

    指定された口座

    ■ 指定の口座に100万円を振り込めという

     相手の依頼内容は、指定された口座に100万円を振り込んでほしい、というものでした。さらに、振り込みが完了した証拠として、振込明細の写真をアップロードするよう求めてきます。

    振り込み完了したら画像をアップするよう求めてきた

     実際に振り込んで確認してみたい気持ちもなくはありませんが、送金した瞬間に「ドロン」されたら洒落になりません。

     とはいえ次の展開がどうなるのかは知りたい……。そこで今回は、過去に取得していた振込伝票の個人情報部分にモザイクをかけ、それを送ってみることにしました。

    ■ 別の振込伝票を送ってみる

     古い伝票を用意している最中も相手からは、「振り込みは完了したか」「今やっている作業を止めて、すぐに振り込め」と、執拗な催促が続きます。

    早く振り込むよう催促が届く

     ようやく準備が整いモザイクだらけの振込伝票を送信してみた結果……。

     さすがに気づかれるだろう……なんて考えていると、予想通りの展開が待っていました。

    送信して反応を見てみる

    ■ やっぱりドロンされる

     相手は「先方に確認してもらいます」とだけ言い残し、そのまま筆者のアカウントはグループから削除されてしまったのです。

     やはりな、という感想しかありません。

    グループから削除された

     なお、筆者が遭遇したこのケースは、連日報道されている手口とほぼ一致しています。実際にやりとりを振り返ってみると違和感は多く、少しでも立ち止まって確認していれば、防げたケースも少なくないのではと感じました。

    筆者の名を騙る詐欺師のアカウント

    ■ 別の詐欺メールを確認してみたら、まさかの自分のLINEアイコン

     実はこの詐欺メールは一通だけではなく、複数届いていました。念のため、ほかのメールについてもコンタクトを取り、相手とやりとりしてみることに。

     するとその中の一つに、表示名だけでなく、LINEのアイコンまで筆者本人と同じものを使用しているアカウントを発見。ちなみに、先に接触したアカウントは、名前こそ一致していたもののアイコンは全く別の写真が使われていました。

    アイコンまで筆者と同じものを使用

     それにしても、ここまで徹底してなりすましを行うとは……。相手が詐欺師であることを差し引いても、ある意味では感心してしまいます。よく調べたな。

    二人目の筆者のなりすましと接触

    ■ 内容は「口座番号を教えてほしい」というもの

     このケースでも、経理をLINEグループに招待するよう求められる点までは共通していましたが、その後の流れは異なっていました。

     相手からの指示は「本日、入金予定がある」「会社の口座番号をLINEで共有してほしい」というものでした。

    気づいたのか急にアイコンが変わる

     前回は「指定した口座にお金を振り込んでほしい」、今回は「入金があるから口座情報を教えてほしい」と、指示内容は正反対になっています。

     しかし、ここで注意しなければならないのは、こちらが教えた口座が、どのような目的で使われるのか一切わからない点です。たとえ業務連絡を装っていたとしても、社内の正式な手続きを経ない形で、口座情報を安易に伝えてはいけません。

     実際、先ほどの「100万円を振り込め」というケースでも、指定されていたのは個人名義の口座でした。このような手口では、教えた口座が何らかの犯罪に利用される可能性が否定できません。

    ■ すぐにドロンされる

     今回は、相手もこちらも同じ名前、同じアイコンという状況だったため、やり取りの途中で不審に思われたのでしょう。相手は一度アイコンを変更しましたが、その後本人だと察したのか、ほどなくして音信不通になりました。

    やりとりの最中、退会していった

    ■ 名前はどこから入手したのか

     では、相手はどのようにして、筆者の名前や所属している企業名を入手したのでしょうか。この点が、もっとも気になるところです。

     実は、こうした情報を集めること自体は、それほど難しいことではありません。企業が公式ホームページを公開していれば、代表者名や会社のメールアドレスが掲載されているケースは珍しくなく、これらは誰でも確認できてしまいます。

     実際、筆者の名前や情報は実家のホームページに掲載されています。詐欺に使う側からすれば、公開情報を拾い集めるだけで十分なのです。

     そして、LINEアイコンの一致については恐らく、一時携帯番号を公開していた事があるからかと思われます。その情報を用いて、LINEの番号検索でアカウントを調べたのでしょう。裏を返せば、こうした情報を無防備にホームページ上へ掲載しておくことが、どれほどのリスクを伴うかが分かります。

     筆者の場合は、こうして詐欺潜入を行ったりしているのでそこまで困る事態ではありませんが、一般の方はなるだけネット上に情報を載せないようにしたほうが賢明です。

     少なくとも、怪しい、あるいは見知らぬ相手からの接触については、慎重すぎるくらいでちょうどよく、むやみに関係を持つことは避けるべきでしょう。

    (たまちゃん)

    あわせて読みたい関連記事
  • 楽天モバイル、シニア向けに「オレオレ詐欺対策保険」を無料提供開始
    企業・サービス, 経済

    楽天モバイル、シニア向けに「オレオレ詐欺対策保険」を無料提供開始

  • “警察からの電話”実は偽装 提供番号の悪用で通信会社が謝罪
    社会, 経済

    “警察からの電話”実は偽装 提供番号の悪用で通信会社が謝罪

  • 菊水産業「お菊社長」なりすましに接触 ウザ絡みして目的を探ってみた
    インターネット, おもしろ

    菊水産業「お菊社長」なりすましに接触 ウザ絡みして目的を探ってみた

  • 警告ポップアップで強引に広告誘導 悪質業者が仕掛ける正規サービスを悪用した罠
    インターネット, サービス・テクノロジー

    警告ポップアップで強引に広告誘導 悪質業者が仕掛ける正規サービスを悪用した罠

  • 怪しい電話を意図せず撃退してしまう?黒電話ユーザーの詐欺対応が話題
    インターネット, おもしろ

    怪しい電話を意図せず撃退してしまう?黒電話ユーザーの詐欺対応が話題

  • 「ふくぎょうのおしごと!」既視感満載の怪しい広告が勧めてくる“副業”とは?
    インターネット, 社会・物議

    「ふくぎょうのおしごと!」既視感満載の怪しい広告が勧めてくる“副業”とは?

  • 偽ファッション広告
    インターネット, 社会・物議

    偽ファッション広告がGoogle広告に大量出現 サポート詐欺被害に注意

  • ちょ、まてよ。それ何のドラマだよ!「勇者」出演の偽キムタクとLINEで対峙した一部始終
    インターネット, 社会・物議

    ちょ、まてよ。それ何のドラマだよ!「勇者」出演の偽キムタクとLINEで対峙した一…

  • 偽公式からの当選通知を追跡!行き着いたのは「能登半島応援」を騙る悪質詐欺
    インターネット, 社会・物議

    偽公式からの当選通知を追跡!行き着いたのは「能登半島応援」を騙る悪質詐欺

  • AIで生成されたフェイク動画
    インターネット, 社会・物議

    一瞬本物かと……有名人の顔と声までAIで再現!進化する投資詐欺の実態とは

  • たまちゃんWriter

    記事一覧

    元秒刊SUNDAYライター。炎上ネタからグルメネタまで得意とするも、現編集部(おたくま)では炎上ネタは封印。おだやかに書いております。静岡県浜松市在住です。

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 2026年も大漁!年賀状「隠しデザイン」を本気で探した結果
    季節・行事, 雑学

    2026年も大漁!年賀状「隠しデザイン」を本気で探した結果

  • Gmailを受診している画面
    インターネット, サービス・テクノロジー

    Gmailの仕様変更でPOP受信が終了 自分は対象?POP利用チェック

  • 警告ポップアップで強引に広告誘導 悪質業者が仕掛ける正規サービスを悪用した罠
    インターネット, サービス・テクノロジー

    警告ポップアップで強引に広告誘導 悪質業者が仕掛ける正規サービスを悪用した罠

  • マクドナルド非公認レシピ「改造てりたま」
    グルメ, 作ってみた

    マクドナルド非公認レシピ!夏のてりたま欲を満たす「改造てりたま」を作ってみた

  • LINEの画面って拡大できないの?タイトル画像
    インターネット, サービス・テクノロジー

    ピンチ操作が効かないLINE画面も拡大!iPhoneの隠れ便利機能「ズーム」活用…

  • AIで生成されたフェイク動画
    インターネット, 社会・物議

    一瞬本物かと……有名人の顔と声までAIで再現!進化する投資詐欺の実態とは

  • トピックス

    1. 送金に関する指示

      社長のなりすましVS社長 自分宛に届いた「ニセ社長詐欺」の手口を調査

      年明け以降、全国で被害が相次ぐ「ニセ社長詐欺」。ライターであり家業の代表者でもある筆者の元に、なんと…
    2. 過去イチの偏愛メシ?ドンキの新作「おでんパスタ」に戸惑いが隠せない

      過去イチの偏愛メシ?ドンキの新作「おでんパスタ」に戸惑いが隠せない

      ドン・キホーテが展開している「偏愛メシ」シリーズより、1月12日に新作「おでんパスタ」(税込430円…
    3. 闇バイトやSNSの危険を学ぶ 埼玉県警が子ども向け「サイバーテスト」公開

      闇バイトやSNSの危険を学ぶ 埼玉県警が子ども向け「サイバーテスト」公開

      埼玉県警は1月15日、インターネットの危険性を学べる「サイバーテスト」を公開しました。小学生から高校…

    編集部おすすめ

    1. Artemis II仕様の「搭乗券(Boarding Pass)」

      NASAの月探査計画で「名前だけ宇宙へ」 登録すると搭乗券がもらえる

      NASAが進めている有人月探査計画「Artemis(アルテミス)」の次のミッション「Artemis II」をめぐり、ちょっとワクワクする一般…
    2. U字工事(@Ujikoji_offical)の投稿

      【ほっこり】U字工事の益子さん、川でエビを捕まえご満悦

      お笑いコンビ「U字工事」が1月19日、公式X(旧Twitter)を更新。ロケ先の川で、益子卓郎さんがエビを捕まえた時の様子を公開したところ、…
    3. 生成AI「Grok」を巡りXが安全対策を強化 編集部が体験した監視の実態

      生成AI「Grok」を巡りXが安全対策を強化 編集部が体験した監視の実態

      昨年12月末、画像編集機能を搭載したことで物議をかもした、X(旧Twitter)の生成AI「Grok」。そのGrokをめぐり、Xの公式安全対…
    4. ねるねるねるねアイスバー

      テーレッテレー♪ねるねるねるねがアイスに変身 “あたりつき”40周年記念商品を発売

      クラシエ株式会社(フーズカンパニー)は、発売から40周年を迎えるロングセラー菓子「ねるねるねるね」を記念し、「ねるねるねるねアイスバー」を2…
    5. 福岡市、生活保護をめぐるSNS情報を否定 投稿者の開示請求へ

      福岡市、生活保護をめぐるSNS情報を否定 投稿者の開示請求へ

      福岡市は1月13日、SNS上で拡散されている「福岡市で生活保護を断られた母子3人が亡くなった」とする動画や投稿について、「事実ではありません…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト