おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

調剤薬局は最後の砦 薬のミスから命を守る薬剤師の仕事とは

 病医院にかかったとき、薬を処方してもらうともらえるのが、処方箋。しかし、医師も人の子。ちょっとしたミスや禁忌をうっかり処方箋に書いてしまうこともあります。

 それを最終チェックして、安全に患者さんに薬を渡すのが薬剤師の仕事。いわば医療における「最後の砦」です。その薬剤師に無理を吹っ掛ける患者の家族が実際におり、その様子を描いた漫画に、医療者側からも患者側からも様々な声が上がっています。

  •  「保険調剤薬局でこのような場面になる事は実際にあります。 待たせてしまう事もありますが健康被害の回避のためにもご協力お願いします。 そしてドクター側も診療中お忙しいとは思いますが処方箋の問い合わせには応じてください」と、実際にあった内容をベースに、2コマの漫画でその様子を描いたのは、自身も保険調剤薬局で薬剤師として勤務しているのあさん。

     その漫画の内容とは……。調剤薬局にて薬剤師に詰め寄る患者の家族。「祖母の薬です、体調悪いので早く出してください!いつもの薬で分かっているので早くしてください!」結構な権幕です。

     しかし、家族が持ってきた処方箋には、前回の処方歴とは違った内容が記載されています。前回の処方は、高血圧、高脂血症、めまい、糖尿病用のインスリンなど計12種類。それが、今回持参してきた処方箋の内容はほとんど違う内容で、種類も17種に増えている状態。しかも、糖尿病用のインスリンは前回よりも倍量になっています。

     あまりの違いぶりに、処方箋を発行した病院に電話をかけて処方内容が前回と違い過ぎることについてどうしてなのかを確認するも、電話先では医師に代わってくれる気配もなく「あー、そのままで!!」と。そして「医者もそのままでいいって言ってんだから早く出してよ!」と詰め寄る家族。

    ■ 処方箋の間違いを見抜くのも薬剤師の仕事 全ては命を守るため

     この後、どうなってしまったのか……。色々な事が考えられます。インスリンが倍量で処方されることは、通常の糖尿病治療ではほとんどないと言えます。診察日ごとに血液検査と検尿を行い、血液検査の値でインスリン量を微調整していくのが一般的ですが、いきなり倍量のインスリンを打ってしまうと、ひどい低血糖を起こし、命にかかわる恐れもあります。

     この場合、責任が問われるのは、医師だけではありません。処方箋どおりでと指示を受けた薬剤師も、処方箋の内容がおかしいと把握していたにも関わらずそのまま薬を渡してしまったことで責任を問われることになります。

     何より、処方の間違いで一番重大な危機にさらされるのは、患者本人。その患者の健康と命を守るため、処方された薬が本当にその患者に適切であるのか、間違った量を出されていないか、飲み合わせによる重大な副作用が起こりえないかをチェックし、時には「疑義照会」という、医師への確認の連絡も行うのが薬剤師の仕事の一つです。

     医師は、この病気にはこの薬を使えばよい、という知識を持っています。しかし、「この薬」と、他にも患者さんが持っている病気に対する「あの薬」が、一緒に飲んでも大丈夫かどうかまで、全部把握しきれていないことも多くあります。薬剤師は、そういった情報を網羅しており、医師が処方した薬の中で、適切な量と組み合わせ、用法となっているかどうかを確認する義務があります。

     処方箋を持って薬局に行くと、「今日は○○の症状ですか?どのような具合ですか?」と聞かれることが多いと思います。薬剤師は、分業している医師とカルテの共有をしていないので、薬剤師は患者本人から現状を聞き取って、適切な処方であるかどうかを確認する必要もあります。

     病医院では電子カルテを導入しているところも増えてきましたが、個人情報のセキュリティ面やカルテの仕様の違いなどで、どの病院でも受診歴を共通してみるシステムはできていないのが現状。薬局も同様に、たくさんいる患者の一人ひとりの、あちこちの病院の受診歴や既往歴を把握することは現状難しい状態です。

     しかし、患者側からしたら、そういったことまで理解が及んでいないことも多く、有無を言わさずせかす人、圧力をかけてくる人も多くいるということが、薬局で働いている多くの人から愚痴として出てくることもあります。

    ■ ただ薬を処方箋通りに詰めるだけではないのが薬剤師のお仕事

     筆者は、クリニックの看護師として、また一患者として、調剤薬局のお世話になることがよくあります。今はクリニックの仕事からは外れましたが、クリニックに併設されている薬局であれば、そのクリニックでよく処方される薬と、めったに出ない薬があるので在庫を調整して置いてあるのです。が、たまにあまり出ない薬などがまとめて処方されることがあると、在庫がないので足りない分は取り寄せ、という形になることも経験しています。

     調剤薬局は、基本的には全国の処方箋を受け付けることができますが、薬の種類は膨大で、後発品(ジェネリック)薬が増えた昨今、先発品の薬だけという指定にしてしまうと、在庫の持ち合わせが足りない状態も発生してしまいます。そんな状態に陥らないためにも、患者自身が在庫不足で長く待たされることにならないためにも、後発品薬を適切に選ぶのも薬剤師の仕事の一つでもあります。

     ただ薬を処方箋通りに詰めるだけではないのが、薬剤師のお仕事。多くの薬が処方された患者に、朝・昼・夕とその時ごとにまとめる必要性がありそうな人には、こうした「一包化」を勧めることもあります。指先が上手く使えずシートから上手く出せない患者や、認知症などでどの薬をどれだけ飲めばいいか分からなくなる人など、薬局に処方箋を持ってきた人に応じて調剤することもあります。

     調子が良くない時は、早く薬を手に入れて飲みたいという気持ちは確かにあると思います。しかし、薬剤師の仕事は患者を守るための最後の砦。質問を受けたら落ち着いて答え、心の余裕を持って薬を受け取りたいですね。

    <記事化協力>
    のあさん(@KISUKA389)

    (梓川みいな/正看護師)

    あわせて読みたい関連記事
  • セルフケアに積極的な新社会人はワークライフバランス重視の“二刀流”!?第一三共ヘルスケアの調査で明らかに
    社会, 経済

    セルフケアに積極的な新社会人はワークライフバランス重視の“二刀流”!?第一三共ヘ…

  • 日本人の0.5%!珍しい「Rhマイナス」血液型のXユーザーが献血を続けるワケ
    インターネット, びっくり・驚き

    日本人の0.5%!珍しい「Rhマイナス」血液型のXユーザーが献血を続けるワケ

  • HPVワクチンのキャッチアップ接種、期間が延長されているの知ってた?
    社会, 経済

    HPVワクチンのキャッチアップ接種、期間が延長されているの知ってた?

  • 井上咲楽さん公式Xより
    エンタメ, 芸能人

    女優・井上咲楽、気づくと右目が緑色に!心配の声が上がるも「大丈夫なやつです」

  • Geroさん公式X(@Gero2525)より引用
    エンタメ, 芸能人

    Geroさん、尿路結石再発も「ビッグサンダーマウンテン療法」に異論

  • (写真左から)江崎グリコ株式会社 健康イノベーション事業本部 商品開発部の池田紀子さん、日本料理店「和敬」店主の竹村竜二さん、江崎グリコ株式会社 執行役員の木村幸生さん
    企業・サービス, 経済

    江崎グリコ、「おいしく減塩」に挑戦 減塩食品の革命を宣言

  • 「カロリAI」で食事の写真を読み込ませた画面。AIが分析して材料や量、カロリーを推定する
    インターネット, サービス・テクノロジー

    カロリー管理続かない人が作った「カロリAI」が話題に 管理をスマート化して“自分…

  • ケガしたときは傷口を水道水で洗う(画像:イラストAC)
    インターネット, 社会・物議

    傷口は海水ではなく水道水で洗って!医師が注意喚起

  • ジョンソン・エンド・ジョンソン「人生100年時代のヘルスリテラシー白書」公開!デジタルツールの活用が都市圏で拡大
    企業・サービス, 経済

    「人生100年時代のヘルスリテラシー白書」公開 デジタルツールの活用が都市圏で拡…

  • ICIによるがん免疫療法のいまとこれから
    企業・サービス, 経済

    がん治療“第4の柱”「免疫チェックポイント阻害薬」製薬会社がセミナー開催

  • 梓川みいな看護師(正看護師有資格者)

    記事一覧

    一般内科、呼吸器科、整形外科、老年科、発達障害などを得意とする。医療・介護福祉等に高反応。雑多なネタも紹介していきます。
    娘二人(ともに発達障害あり)とネコ二匹の母。シングル。

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと
    社会, 雑学

    災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと

  • お餅での事故を防ぐ ここがポイント!(出典:政府広報オンライン)
    社会, 雑学

    お餅での事故を防ぐ 3つのサインと3つのポイント!

  • 巨大イベントへ遠征に行ったらインフルエンザを拾ってきた話(画像:イラストACより)
    ライフ, 雑学

    巨大イベントへ遠征に行ったらインフルエンザを拾ってきた話

  • 【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?
    ライフ, 雑学

    【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?

  • みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?
    ライフ, 雑学

    みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?

  • 【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし
    ライフ, 雑学

    【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし

  • トピックス

    1. 「使わなくなった旧Switch」どうする? Xで注目、“寄贈”という選択肢

      「使わなくなった旧Switch」どうする? Xで注目、“寄贈”という選択肢

      徐々に流通量が増えてきたNintendo Switch2。入手後、もともと持っていたNintendo…
    2. 熊本県天草の海にホイミスライム出現!?目撃情報にSNS騒然

      熊本県天草の海にホイミスライム出現!?目撃情報にSNS騒然

      熊本県天草の海水浴場で、「ドラゴンクエスト」に登場するモンスター「ホイミスライム」が目撃されたとして…
    3. 塩タブと似すぎ?誤食騒動に反響 漫画家の“フェイスマスク誤食”体験

      塩タブと似すぎ?誤食騒動に反響 漫画家の“フェイスマスク誤食”体験

      熱中症対策として広く利用されている塩分タブレット。しかし、見た目が似た商品と誤って口にしてしまうケー…

    編集部おすすめ

    1. 朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      アニメ「鋼の錬金術師」エドワード・エルリック役などで知られる声優・朴璐美さんが、7月27日に自身のX(旧Twitter)を更新。新幹線車内で…
    2. 男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      生理やPMS(月経前症候群)などの不調を我慢せず、自分に合った「もう一つの選択肢」を持てる社会を目指すツムラの取り組み「#OneMoreCh…
    3. 子の夏休み=親は常に戦闘モード “戦士のような母”の後ろ姿が話題に

      子の夏休み=親は常に戦闘モード “戦士のような母”の後ろ姿が話題に

      子どもにとっては待ちに待った夏休み。しかし親にとっては……。我が子が夏休みに突入したある母の後ろ姿が、まるで“戦士”のようだとXで話題を集め…
    4. KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け

      KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け

      株式会社KADOKAWAは7月23日、イラストレーター・がおう氏に関する一連の報道を受け、同氏が関与した複数の出版物について、紙書籍の回収・…
    5. トレーディングカード「Map Design GALLERY CARD/有人離島」

      ゼンリン、日本の「有人離島トレカ」を発売 レア度は“人口”で決まる

      株式会社ゼンリンが7月18日に、日本の「有人離島」をモチーフとしたトレーディングカード「Map Design GALLERY CARD/有人…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト