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コミケ中止で苦しむ印刷屋を救え!同人作家の取り組みに「自由帳」のアイデア

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、5月に予定されていたコミックマーケット98は開催中止に。苦境に陥った同人誌印刷業者を救おうと、表紙だけで中身が白紙の同人誌印刷を発注する動きがありますが、その「白紙本」を有効活用するアイデアが話題を呼んでいます。

  •  同人誌の印刷を手掛けているのは、ほとんどが小資本の「町の印刷屋さん」。最近は入稿のオンライン化や、データ入稿に対応した新しい印刷機など大規模な設備投資が必要になった上、同人誌以外の印刷需要は減少し、同人誌、中でも「コミケット」や「コミケ」の略称で知られる年2回のコミックマーケットは、大規模な発注があるため重要な位置を占めています。

     ところが、2020年はオリンピック・パラリンピックで、会場の東京ビッグサイトが報道陣の常駐するメディアセンターとなるため、夏のコミックマーケット(夏コミ)は開催不能に。規模的に近い千葉県の幕張メッセも、レスリングなどの競技会場となっているため使えません。

     大きな設備投資が必要なことに加え、コスト高になる「多品種少量生産」になりがちな同人誌の印刷屋さんは、コミケットの需要がなくなると経営的に大打撃。5月のコミケット98開催中止は、同人誌に代表されるコミュニティと、それを取り巻く経済に大きな影響を与えることになったのです。

     いつもお世話になっている印刷屋さんの苦境を救いたい!と、同人作家の有志が立ち上がり、表紙だけで中身が白紙という「白紙本」の印刷を発注する、という動きが出ています。しかし、これで印刷された「白紙本」が、在庫として発注した作家のもとに残されては、作家に対して金銭的なほか、保管場所の負担を強いることに。

     この問題を解決するアイデアをTwitterに投稿したのが、同じく同人活動を行っている松戸帽子店さん(@matsu_hatter)。同人誌やグッズ作りのほか、pixivで作品を発表してらっしゃいます。

     松戸帽子店さんは2020年3月30日、Twitterに「印刷所を応援したい絵描きたちが、紙だけ選んで真っ白原稿入稿してるの見て思ったんだけど、その本文真っ白な御本は『自由帳』として売って欲しい。好きな絵師さんの表紙絵(過去絵でよし)が付いた真っ白なノート……いいじゃない……」と投稿。

     さらに「使い道は、オタ活の記録や自分の絵を書いたり、同人誌の感想を書いてご本人にお渡ししたり、親しい絵師さんたちとスケブ的なものを描きあったり…… 作る側も、線画だけ載せて塗り絵にしたり、罫線引いてノートにしたり、日記帳みたいな枠だけ印刷したり、色々できると思う!」とも綴り、ある種の同人グッズとして有効活用できないか、というアイデアを披露しています。この一連のツイートは、投稿後9時間ほどで1万3000RT、2万3000いいねと大きな反響を呼びました。

     松戸帽子店さんに、このアイデアについてお話をうかがうと、発端は、印刷会社の「本文が白い原稿の入稿があった」というツイートを見たことだったといいます。その事情を「きっとお世話になった印刷会社様を応援したくて、本当ならお金だけでも払いたいくらいだけどそれはできないから…という優しい気持ちから来ているのだろう」と察し、その作家さんをさらに応援するにはどうしたらいいか、と考えた結果だと語ってくれました。

     この、表紙だけで本文ページが白紙の「自由帳」について、松戸帽子店さんは「応援入稿したくても本文の原稿を新しく描く時間が無い方、そもそも絵や小説が書けない方への提案でもあります」とのこと。

     ただ、気を付けなければいけない点として、松戸帽子店さんは「あくまで『印刷会社を応援したいサークルさんを応援する』ひとつの策であること」、そして「作る際は、もちろん自分で描いたオリジナルのイラスト(二次創作でないもの)を使用すること」が重要だとも語ってくれました。

     もちろん、ジャポニカ学習帳(ショウワノート)やキャンパスノート(コクヨ)など既存の商品、もしくはDEATHNOTE(原作:大場つぐみさん・作画:小畑健さん「DEATH NOTE」)やドリムノート(桂正和さん「ウイングマン」)など、作中のアイテムをパロディして作るものは、基本的に「著作権者に無許可のグッズ製作・販売」となってしまうため、NGです。

     普段、同人誌の印刷でお世話になっている印刷業者に、寄付でなく正規の「売り上げ」としてお金を出す同人作家の厚意と、在庫を抱えることになる作家の気持ちにファンが応える仕組みとして、この「自由帳」のアイデアは秀逸だと思います。

     新型コロナウイルスの感染拡大はまだピークを迎えておらず、コミックマーケットに代表される、同人誌即売会の開催は不可能な状況。ですが、ネット通販を利用して「自由帳」を頒布することで経済を回し、同人コミュニティでの基盤を維持できる可能性を感じさせる取り組みだといえるでしょう。

    <記事化協力>
    松戸帽子店さん(@matsu_hatter)
    ※画像は松戸帽子店さんTwitterのスクリーンショットです。

    (咲村珠樹)

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