おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【宙にあこがれて】第20回 雪道ドライブと宇宙の共通点

【宙にあこがれて】第20回 雪道ドライブと宇宙の共通点こんにちは、咲村珠樹です。立春を迎えつつも、厳しい寒さが続いてます。しかも数年ぶりの大雪。普段雪の少ないところも、かなり降って大変なことになってますね。雪道での交通事故も増加傾向だそうです。

雪道ドライブの鉄則といえば、急発進・急ハンドル・急ブレーキなど「急」のつく運転をしない、ということ。万事余裕を持って「ゆっくり」と運転することが大事ですね。……ところでこれ、実は宇宙空間でも同じことが言えるのです。


  • 国際宇宙ステーションに「きぼう」など実験モジュールや、補給船「こうのとり」をロボットアームで取り付ける際、作業に数時間かけるなど、やけにゆっくり動かしているのをご存知でしょうか。

    宇宙は「無重量状態」であることはご存知かと思いますが、これによって重い物体も軽い力で動かすことができます。ところがこれが落とし穴。重量がない為に摩擦もほとんどありませんし、船外活動にいたっては空気抵抗もほぼゼロです。一度動かすと、慣性の法則に従ってずっと動きっぱなしになります。

    しかも、動かす為に力を加えると、加え続けた時間の分だけ、物体はどんどん加速していきます。速度は、物体に加えた力(加速度)とその持続時間で積算されていくので、軽い力でも加え続けることで、最終的にすごい速度になります。小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」のメインエンジンであるイオンロケット「μ10」は、わずか数グラムの推力しかありませんが、空気抵抗が無視できるほど小さい宇宙空間では、その数グラムの推力でも運転し続ける(力を加え続ける)ことによって、地球の引力圏を抜け出す秒速11kmを超える速度を最終的に得ることができた訳です。

    ところで、無重量状態でも物体の持つ質量は変わらず存在します。重量というのは、質量と加速度を掛け合わせた値のこと。ですから、運動する物体には、無重量状態といえど(運動する進行方向に)重量が存在するんですね。……という訳で、動いている物体を進行方向とは別の方向に動かそうとする際に、無重量状態の宇宙空間でも重量が生まれ、動かそうとする側にはそれに抗する力が必要になるのです。これは、進行方向の真正面から力を加え、物体の運動を止めようとする時、最大の力が必要になります。

    と、ちょっと苦手な物理学の話をしたところで、ロボットアームの話に戻ります。

    実験モジュールや「こうのとり」など、大きな(質量も大きい)物体をロボットアームで動かし、国際宇宙ステーションに設置する時、質量と動かし方(加速度)によって、ロボットアームにはかなりの重量負荷がかかるのです。小さな力でも加え続けることで、速い速度で移動させることはできますが、逆に止める時も同じだけの力(加えられた力の総量)が必要になります。短い距離(時間)で止めようとすると、それだけ大きな力がロボットアームにかかり、最悪アームが破損します。

    春と秋の2回行われるJAXA筑波宇宙センターの特別公開では、工学(ロボット)系の展示の中で、かつて宇宙飛行士の土井隆雄さんが行った「人工衛星を素手でキャッチ」と同じように、人工衛星の捕獲を体験できるシミュレータが展示され、この「動かすのはいいけど、止めるのが大変」という感覚を体験することができます。子供がおもしろがって思いっきり動かすんですが、いざ止める段になると、自分が動かす際に使った力の総量を「一括払い」されて、動く「人工衛星」に振り回されてしまう姿が印象的でした。実際に体験した感想ですが、一気に止めたい心を抑えて、ゆっくりゆっくり、いわば力の「分割払い」をするような感覚で操作しないと、思った場所で止めることはできませんでしたね。

    人工衛星捕獲シミュレータ

    なので、ロボットアームの操作に関しては「ゆっくり動かし、ゆっくり止める」という、雪道ドライブのコツと全く同じことが重要になるのでした。これによって作業は数時間にも及び、その間操作する飛行士はつきっきりですから、かなりの集中力と忍耐力が必要です。せっかちな人、おおざっぱな人には向かない作業ですね……ということは、宇宙飛行士の中でもロボットアームの操作を得意とする若田光一さんは、特に集中力が持続でき、忍耐強いということでしょうか? 操作では小さなモニターしか使えませんから、それで全体の状況を把握できる能力も必要ですし……アメリカ・ロシア以外の宇宙飛行士として初めて、国際宇宙ステーション長期滞在クルーのコマンダーに選抜されたのも、そういう部分が素養として考慮されたのかもしれませんね。

    (文・写真:咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 12月1日から道交法が改正 事業所における運転前のアルコールチェックが義務化
    インターネット, 社会・物議

    対象事業所の白ナンバー「社用車」運転者にもアルコール検知器でチェック義務化

  • 撮影:おたくま経済新聞
    ライフ, 雑学

    高速道路を走るときのペースメーカー車 人気があるのはどの車?

  • 坂道発止でのスリップを避け、坂下に停車して信号待ちをする軽トラック(カンチャンさん提供)
    インターネット, 社会・物議

    雪での坂道発進はスリップに注意! 坂下で待つ軽トラが「分かってる」

  • ドライブ中の飲み物
    企業・サービス, 経済

    「ドライブ中の飲み物」についてのアンケート2位の「缶コーヒー」をおさえて「お茶」…

  • 強引な車に出会った時は「あいつ漏れそうなんだ」と思うようにするアンガーマネジメント(きよまろさん提供)
    インターネット, 社会・物議

    強引な運転する人は「お漏らし寸前」と思え 運転中のアンガーマネジメント

  • イベント・キャンペーン, 経済

    「カラダ点検チャレンジ」で安全運転!ボルボがTikTokで啓発

  • インターネット, おもしろ

    夜間走行の安全性を高める「反射ベスト」の意外な効果が話題

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 民放連、アニメ作品の“そっくり映像”出回り懸念 生成AIに声明
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    民放連、アニメ作品の“そっくり映像”出回り懸念 生成AIに声明

  • 欧州連合の旗(写真ACより)
    インターネット, 社会・物議

    EU、ネット上での児童性被害対策を強化 日本企業にも影響広がる可能性

  • ホロアースNPCに「事件に関係した実在人物想起」と指摘 運営が謝罪し削除対応
    ゲーム, ニュース・話題

    ホロアースNPCに「事件に関係した実在人物想起」と指摘 運営が謝罪し削除対応

  • ロッテ「雪見だいふく」が立体パズル化 メガハウスが11月下旬に新商品
    商品・物販, 経済

    ロッテ「雪見だいふく」が立体パズル化 メガハウスが11月下旬に新商品

  • 100tハンマー
    アニメ/マンガ, イベント・キャンペーン

    伝説のコンビを追体験 40周年「シティーハンター大原画展」上野で12月28日まで…

  • 韓国発の人気激辛「ブルダック」がじゃがりこに 1年4か月かけた再現度に注目
    商品・物販, 経済

    韓国発の人気激辛「ブルダック」がじゃがりこに 1年4か月かけた再現度に注目

  • トピックス

    1. 違和感満載のサイケな銭湯でほっこり入浴 蒲田で開催「脳汁銭湯」体験レポート

      違和感満載のサイケな銭湯でほっこり入浴 蒲田で開催「脳汁銭湯」体験レポート

      旧き良き銭湯が異次元の入浴空間に変身するイベント「脳汁銭湯」が、11月26日から12月7日まで東京・…
    2. この涙は懐かしさ……なのか? 展示「あの職員室」で特大感情を揺さぶられたレポート

      この涙は懐かしさ……なのか? 展示「あの職員室」で特大感情を揺さぶられたレポート

      学生時代、入りたくても入れない「聖域」のような場所だった職員室。その風景を再現し、自由に探索できる展…
    3. フォロワー1万人超の“焼き芋アカ”が美容アカに SNSで繰り返される「アカウントロンダリング」の構造

      フォロワー1万人超の“焼き芋アカ”が美容アカに SNSで繰り返される「アカウントロンダリング」の構造

      SNS上には今日も、「○○が当たる!」といったプレゼント告知があふれています。いまや日常の景色と言っ…

    編集部おすすめ

    1. 誤表記

      もちづきさん、カロリーを低く表記し謝罪 読者に“チェック”呼びかけ

      漫画「ドカ食いダイスキ! もちづきさん」公式Xが11月27日夜に更新し、作品の一部でカロリーを実際よりも低く表記していたと謝罪しました。当該…
    2. ホロアースNPCに「事件に関係した実在人物想起」と指摘 運営が謝罪し削除対応

      ホロアースNPCに「事件に関係した実在人物想起」と指摘 運営が謝罪し削除対応

      バーチャルタレント事務所「ホロライブプロダクション」を展開するカバー株式会社は公式Xにて11月25日、同社のバーチャル空間プロジェクト「ホロ…
    3. 善意の通報が“誤報”に変わるAI時代 女川町のクマ騒動が示した危険性

      善意の通報が“誤報”に変わるAI時代 女川町のクマ騒動が示した危険性

      宮城県女川町が11月26日、公式Xで発信した「クマ出没情報」が、後に「生成AIによるフェイク画像」に基づく誤通報だったことが判明。通報者自身…
    4. エビの代わりに「パイの実」投入!ロッテ公式が送るエビチリアレンジに目を疑う

      エビの代わりに「パイの実」投入!ロッテ公式が送るエビチリアレンジに目を疑う

      ロッテは自社商品の各ブランドサイトで、アレンジレシピを公開しています。その中に「パイの実」をエビチリソースと卵で炒め合わせた「チリ玉パイの実…
    5. 100tハンマー

      伝説のコンビを追体験 40周年「シティーハンター大原画展」上野で12月28日まで開催

      「シティーハンター」連載開始40周年を記念した原画展「シティーハンター大原画展~FOREVER, CITY HUNTER!!~」が、11月2…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト