「うちの本棚」、今回は70年代の少女マンガの中でも異色の作品を描いていた、河あきらの『わたり鳥は北へ』をご紹介いたします。思春期の少女の夢見る思いとシビアな現実を作品の中に折り込んだ、河あきら初期の代表作です。
河あきらといえば『いらかの波』が代表作となるだろうか。掲載誌の読者層に合わせて思春期の少女を主人公に、社会派的な内容の作品を多く描いていた作家という印象を持っている。とくに『いらかの波』以前の作品には読者の心をえぐるような内容のものが多く、中高生世代の人には読んでほしい作品が多い。
ここで取り上げた『わたり鳥は北へ』という作品もそんなもののひとつで、救いのない作品といってしまえばそれまでだが、長く印象に残る作品であることは間違いない。
教師の父、PTA役員の母、成績優秀な姉という家族の中で息苦しい生活を続けていた主人公の高校1年生のあさみは、偶然知り合った同世代の次郎によって、生活が変わるのではないかと感じ、次郎の誘いに乗って彼の故郷である岩手に行こうと決意する。しかし旅費のないふたりは、あさみの家族に狂言誘拐をしかけ現金を手に入れようとするのだが、あさみの父が警察に通報したことで、ふたりの逃避行が始まる。
作品冒頭のあさみの生活や閉塞した状況に自分を重ねる読者もいるだろうし、逃避行中の冒険的な展開を楽しむ読者もいるだろう。しかし作者はリアルな状況も忘れておらず、ラストに向かってふたりを追い詰めていくのだ。さりげなく伏線を散りばめている点も作家としての力量を感じる。
デビューは「別冊マーガレット」1969年4月号の『サチコの小犬』ということになっているが、それ以前に「COM」でも作品が入選している。
現在では本作および河あきらの作品の多くは容易に読める状況ではないだろう。70年代後半の少女マンガの中でも異色をはなっていた河あきら作品が再び評価され、再刊されるような状況が来ることを願っている。
初出/別冊マーガレット(昭和49年・11月号)
書誌/集英社・マーガレットコミックス(1975年10月20日初版発行)
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)