「うちの本棚」、今回は河あきらの『わすれな草』です。これまで以上に複雑なストーリー構成を持ち込んできた前後編作品。昼メロ的にこれでもかと主人公を痛めつける河あきら演出が冴えています。
それまで1回読みきりの作品がほとんどだった河あきらの、前後編作品。基本的な流れはこれまで同様、家庭内に問題のある主人公が新たな出会いによって生きがいを見いだすというものだが、ここに幼いときに生き別れた兄という設定を加味することでさらに複雑な物語を構成している。
主人公の少女が思いを寄せる男性は、これまで河あきら作品に登場してきたキャラクターには珍しい、家庭環境にも恵まれた青年だが、再会した兄は、家庭環境に問題があり不良と呼ばれていたりする。
人との出会いが主人公なり、登場人物の生き方を大きく変えるというのはドラマ作りの基本ではあるが、河あきらの作品においてそれはドラスティックな変革をもたらすという点で読みごたえがある。しかしながら登場人物たちが置かれている環境がいずれの作品でも似てしまっているというのは否めないところで、家族間の不和や貧困など「あ、またそういうことなのね」という印象は各作品の冒頭で感じずにはいられない。もちろんだからといって作品そのものが陳腐であることではなく、主人公の思いや新しく見いだした生きがいに向かっていく姿勢は感動をともなって読者に訴えてくる。
本作においては、生き別れの兄妹という、ドロドロさせようと思えばいくらでもできるはずの設定を、あえて抑えて描いている点で河あきららしさを感じずにいられない。もちろんそこには作品が発表された時代や媒体も影響しているとは思うが、すでに同時期には一条ゆかりや里中満智子がドロドロした内容の作品を発表していたことを考えれば、これは河あきらの個性だったと評価していいだろう。
初出/集英社・別冊マーガレット(昭和50年3月号、4月号)
書誌/集英社・マーガレットコミックス(1976年3月20日初版発行/併録・おみまいなあに?、5つのゆびの歌、鬼蛇山の謎)
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)