おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】第百十一回 わすれな草/河あきら

【うちの本棚】第百十一回 わすれな草/河あきら「うちの本棚」、今回は河あきらの『わすれな草』です。これまで以上に複雑なストーリー構成を持ち込んできた前後編作品。昼メロ的にこれでもかと主人公を痛めつける河あきら演出が冴えています。


  • それまで1回読みきりの作品がほとんどだった河あきらの、前後編作品。基本的な流れはこれまで同様、家庭内に問題のある主人公が新たな出会いによって生きがいを見いだすというものだが、ここに幼いときに生き別れた兄という設定を加味することでさらに複雑な物語を構成している。

    主人公の少女が思いを寄せる男性は、これまで河あきら作品に登場してきたキャラクターには珍しい、家庭環境にも恵まれた青年だが、再会した兄は、家庭環境に問題があり不良と呼ばれていたりする。

    人との出会いが主人公なり、登場人物の生き方を大きく変えるというのはドラマ作りの基本ではあるが、河あきらの作品においてそれはドラスティックな変革をもたらすという点で読みごたえがある。しかしながら登場人物たちが置かれている環境がいずれの作品でも似てしまっているというのは否めないところで、家族間の不和や貧困など「あ、またそういうことなのね」という印象は各作品の冒頭で感じずにはいられない。もちろんだからといって作品そのものが陳腐であることではなく、主人公の思いや新しく見いだした生きがいに向かっていく姿勢は感動をともなって読者に訴えてくる。

    本作においては、生き別れの兄妹という、ドロドロさせようと思えばいくらでもできるはずの設定を、あえて抑えて描いている点で河あきららしさを感じずにいられない。もちろんそこには作品が発表された時代や媒体も影響しているとは思うが、すでに同時期には一条ゆかりや里中満智子がドロドロした内容の作品を発表していたことを考えれば、これは河あきらの個性だったと評価していいだろう。

    初出/集英社・別冊マーガレット(昭和50年3月号、4月号)
    書誌/集英社・マーガレットコミックス(1976年3月20日初版発行/併録・おみまいなあに?、5つのゆびの歌、鬼蛇山の謎)

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • 【うちの本棚】第百十四回 山河あり/河あきら
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十四回 山河あり/河あきら

  • 【うちの本棚】第百十三回 あなたは笑うよ/河あきら
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十三回 あなたは笑うよ/河あきら

  • 【うちの本棚】第百十二回 さびたナイフ/河あきら
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十二回 さびたナイフ/河あきら

  • 【うちの本棚】第百十回 木枯らし泣いた朝/河あきら
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百十回 木枯らし泣いた朝/河あきら

  • 【うちの本棚】第百九回 赤き血のしるし/河あきら
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百九回 赤き血のしるし/河あきら

  • 【うちの本棚】第百八回 わたり鳥は北へ/河あきら
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百八回 わたり鳥は北へ/河あきら

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. ガシャポンの魅力&世界観を全身で体感!「ガシャポンに超夢中展2025」内覧会レポ

      ガシャポンの魅力&世界観を全身で体感!「ガシャポンに超夢中展2025」内覧会レポ

      10月31日から11月2日までの3日間、池袋・サンシャインシティにて「ガシャポンに超夢中展2025」…
    2. 缶コーヒーの「#マーク」に隠された意味 コカ・コーラ社に聞いた“色が変わる理由”

      缶コーヒーの「#マーク」に隠された意味 コカ・コーラ社に聞いた“色が変わる理由”

      徐々に寒さが増し、そろそろ温かい飲み物が恋しくなってくる季節。近ごろSNS上で、「ホットコーヒー缶に…
    3. イーロン・マスク氏、Xの不具合を報告 「フォローしている人の投稿が少ない」原因はバグだった

      イーロン・マスク氏、Xの不具合を報告 「フォローしている人の投稿が少ない」原因はバグだった

      SNS「X(旧Twitter)」のオーナーであるイーロン・マスク氏が、日本時間10月27日深夜、自身…

    編集部おすすめ

    1. 集英社、生成AIによる権利侵害へ厳正対応を表明 Sora2公開後の「類似映像大量発生」を受け

      集英社、生成AIによる権利侵害へ厳正対応を表明 Sora2公開後の「類似映像大量発生」を受け

      集英社は10月31日、生成AIを利用した権利侵害への対応について声明を発表しました。今秋、OpenAI社の生成AIサービス「Sora2」が公…
    2. 菊水産業「お菊社長」なりすましに接触 ウザ絡みして目的を探ってみた

      菊水産業「お菊社長」なりすましに接触 ウザ絡みして目的を探ってみた

      10月14日、国産つまようじ製造を手掛ける「菊水産業株式会社」の公式Xアカウントが、同社代表取締役・末延秋恵さんのなりすましアカウントが出現…
    3. 職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      株式会社チョコレイト(CHOCOLATE Inc.)は、あの頃入りたくても入れなかった職員室を体験できる展示企画「あの職員室」を、11月15…
    4. カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      2025年10月23日22時より配信されたNintendo公式番組「カービィのエアライダー Direct 2」にて、ゲームクリエイター・桜井…
    5. 「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      ANYCOLOR株式会社は10月22日、所属ライバーである甲斐田晴さんをめぐる極めて悪質な誹謗中傷・荒らし行為への対応結果を、加害者側の意識…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト