おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【名作映像案内】第15回 第三次世界大戦 四十一時間の恐怖

update:

映画館 米蘇のボタン戦争を描いた映画といえば昭和35年の第二東映(ニュー東映)映画『第三次世界大戦 四十一時間の恐怖』(特撮監督・矢島信男)、昭和36年の東宝映画『世界大戦争』(特技監督・円谷英二)、昭和49年の東宝映画『ノストラダムスの大予言』(特技監督・中野昭慶)等がありますが、今回は『第三次世界大戦 四十一時間の恐怖』をご紹介します。

  • 【関連:第14回 大学生の就職難を描いた映画】

    映画館

     配役は、若かりし日の梅宮辰夫、三田佳子らの他、米統合参謀本部議長がジョージ・ファーネス、英軍人がアンドリュー・ヒューズ。ヒューズはオーストラリア人ですが、昭和40年の『大冒険』ではドイツ人・ヒットラー役、昭和44年の『日本海大海戦』ではロシア人・ロジェストウェンスキー役でしたね。

     本作が公開された昭和35年といえば、岸信介内閣が日米安全保障条約を改定した年であり、劇中に登場した新聞記事にも、安保改定関連の記事が載っていました。

     映画の前半では、高校生3人がボートに乗って日本を脱出し、アフリカを目指します。その理由について、高校生は「日本には基地があるから基地が攻撃される」と述べ、核攻撃から逃れるためだと言っていました。ここで言う基地とは、高校生は明言していないものの、明らかに米軍基地のことを言っています。この高校生の台詞は、クライマックスとリンクしています。

     ところで話はちょっと逸れますが、昭和29年にアメリカがマーシャル諸島のビキニ環礁で水爆実験を実施したのをきっかけに昭和30年に製作された映画『生きものの記録』では、三船敏郎演じる老人が、核戦争から逃れるためにブラジルに移住しようとしていました。核戦争から逃れるために日本から脱出しようとするという点は、共通していると言えます。

     さて、映画の方は、韓国の京城(←劇中のラジオアナウンサーがそう言っている)附近で米軍機が原因不明の爆発を遂げたことをきっかけにして資本主義国と社会主義国の緊張が高まります。事件を北朝鮮の仕業として非難する米韓に対し、北鮮(←劇中のラジオアナウンサーがそう言っている)は、「事件はアメリカ及び韓国にあるアメリカの傀儡政権による陰謀である」との声明を発表(北朝鮮なら実際にそういうことを言いそうだな)。『世界大戦争』でも、朝鮮半島が火種として登場していましたね。

     国際連合安全保障理事会では戦争回避のための話し合いが行われますが、今度は米空母が欧州で原因不明の爆発を起こしたことで益々緊張が高まり、映画のクライマックスでは遂にアメリカとソ連の戦争が勃発します。横田基地から出撃した米軍機がソ連を空襲したことで、ソ連は「日本の米軍基地を出発した米軍機が我が国を攻撃したから、日本の米軍基地に核ミサイルを撃ち込む」という声明を発表し、東京に核ミサイルを撃ち込みます。時を同じくして米蘇双方が核ミサイルの応酬を繰り広げ、モスクワ、サンフランシスコ(←なぜ作り手はサンフランシスコを選んだのだろう?)が灰燼に帰します。

     こう見ると、この映画のストーリーは、日本に米軍基地があるから米蘇の核戦争に巻き込まれるという論調が基調となっており、特に前半の台詞は日本政府(=岸信介内閣)に対する批判がストレートに表れていました。現実の世界で安保改定に反対した人々が主張していた意見を、そのまま一方的に映画化したような印象を受けます。ただ、日本政府に対する批判のみならず、戦争に向かって突き進む国際社会への絶望感も表れていました。

     最後に、映像面の特徴を指摘しておきます。本作では、国際情勢の推移は全てラジオから流れる音声で伝えられていました。『世界大戦争』では、円谷英二による特撮で潜水艦や戦闘機や戦車等が描かれていましたが、本作では米軍機の爆発も米空母の爆発も全く映像では描かれませんでした。国際情勢の変化をラジオ音声のみで伝えることによって、日本の庶民から遠く離れた場所でどんどん事態が進展し、今後どうなるか分からない、なすすべもないという恐怖感を醸し出すことに成功していました。

     それまで特撮映像を全く登場させなかった本作ですが、米軍機の編隊が飛行する場面とラストの核爆発の場面で特撮映像が登場。特撮シーンでは、合成シーン(群衆と米軍機の合成と、群衆ときのこ雲の合成)が非常に巧かった。とは言うものの、むしろ特撮よりも本篇の方に気合いが入っていました。核ミサイルを撃ち込まれて廃墟となった東京の場面なんか壮絶でしたよ。
     私の結論としては、本作は、政治的な面もありましたが、パニック映画としては入魂の出来だったと思います。

    (文:コートク)

    ※写真はイメージです。

    あわせて読みたい関連記事
  • 戦後80年「知覧特攻平和会館」リニューアルプロジェクトページ(2024年11月21日時点)
    企業・サービス, 経済

    「知覧特攻平和会館」がクラウドファンディングで支援募る 設備リニューアルへ向け2…

  • 「ウクライナのレシピ帳」
    企業・サービス, 経済

    クックパッドが「ウクライナのレシピ帳」発売 ウクライナ紛争の被害者を支援

  • 出撃前の航空機搭乗員。後方は一式戦三型(知覧特攻平和会館 所蔵)
    社会, 経済

    息子として、兄として、父として「特攻隊員が遺した言葉」 東京で「知覧特攻平和会館…

  • 爆サイ.com「NO WAR(戦争反対)」キャンペーン中のTOP画面
    インターネット, サービス・テクノロジー

    口コミ掲示板「爆サイ」が新カテゴリー「戦争と平和」開設 「NO WAR(戦争反対…

  • 60分の動画を1.5倍速で観たら何分で終わる? 深水英一郎
    エンタメ, 音楽・映像

    動画は倍速派のせっかちさん向け情報 「動画の倍速視聴とその使いこなし方」(深水英…

  • アンティーク着物から見つかった九一式戦闘機「愛国38号」の写真(戻橋さん提供)
    インターネット, びっくり・驚き

    アンティーク着物から1枚の古写真 陸軍九一式戦闘機「愛国38号」

  • 空襲の傷あとを残す「旧日立航空機変電所」
    宇宙・航空

    空襲の傷あと残る「旧日立航空機変電所」 保存に向けたふるさと納税も募集中

  • 実家から見つかった十四年式拳銃(でみすけさん提供)
    宇宙・航空

    実家で旧日本軍の拳銃発見 警察に届け出た結果「やっぱこれか」

  • エンタメ, 芸能人

    映画版「太陽の子」公開決定に三浦春馬ファン歓喜 感謝の言葉溢れる

  • 宇宙・航空

    ロシア「独ソ戦」開始の日に戦没者追悼式を各地で開催

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 北海道産のチーズを2種類使った秋冬限定フレーバー「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」
    商品・物販, 経済

    北海道産チーズのW使い!「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」がこの秋登場

  • クリスプ のりしおバター味
    商品・物販, 経済

    カルビー、「クリスプ のりしおバター味」発売 レアな“ホシ型クリスプ”も登場

  • 特別災害対策本部車(国土交通省)
    社会, 経済

    消防車も自衛隊車もNERVも! 防災車両がずらり「ぼうさいモーターショー2025…

  • ウィキペディアのページビュー
    インターネット, サービス・テクノロジー

    AI時代でウィキペディア苦境 人間の閲覧数8%減、財団が警鐘

  • ChatGPTが“全年齢対応AI”を卒業? アルトマン氏が語った「成人向けエロティカ解禁」方針
    インターネット, サービス・テクノロジー

    ChatGPTが“全年齢対応AI”を卒業? アルトマン氏が語った「成人向けエロテ…

  • ガンホー「ケリ姫スイーツ」2026年1月末に終了 2012年配信開始から13年
    ゲーム, ニュース・話題

    ガンホー「ケリ姫スイーツ」2026年1月末に終了 2012年配信開始から13年

  • トピックス

    1. 目指せ去勢マスター!「繁殖」テーマのローグライクゲーム爆誕

      目指せ去勢マスター!「繁殖」テーマのローグライクゲーム爆誕

      海外の映画やゲームが日本向けにローカライズされる際、タイトルも和訳されることもしばしばですが、「あま…
    2. 実家の一室をレトロゲームショップ風に改造 本物の什器も揃えた昭和男児の夢空間

      実家の一室をレトロゲームショップ風に改造 本物の什器も揃えた昭和男児の夢空間

      一歩足を踏み入れると、そこはまるで平成初期のゲームショップ。ショーケースにはファミコンソフトがずらり…
    3. ケーキの上は只今工事中!3歳のわが子に作った「工事現場ケーキ」が楽しそう

      ケーキの上は只今工事中!3歳のわが子に作った「工事現場ケーキ」が楽しそう

      「はたらくくるま」が好きな人に刺さること間違いなしな「工事現場ケーキ」がXで話題です。説明がなければ…

    編集部おすすめ

    1. 職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      株式会社チョコレイト(CHOCOLATE Inc.)は、あの頃入りたくても入れなかった職員室を体験できる展示企画「あの職員室」を、11月15…
    2. カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      2025年10月23日22時より配信されたNintendo公式番組「カービィのエアライダー Direct 2」にて、ゲームクリエイター・桜井…
    3. 「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      ANYCOLOR株式会社は10月22日、所属ライバーである甲斐田晴さんをめぐる極めて悪質な誹謗中傷・荒らし行為への対応結果を、加害者側の意識…
    4. 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開40周年 タイムサーキット型時計が登場

      「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開40周年 タイムサーキット型時計が登場

      株式会社Gakken(学研ホールディングスグループ)は、同作の映画公開40周年を記念して、劇中の「タイムサーキット」を再現した時計「バック・…
    5. 電気通信大学が注意喚起 京王線の車内広告に何者かが不審なQRコード“貼り付け”か

      電気通信大学が注意喚起 京王線の車内広告に何者かが不審なQRコード“貼り付け”か

      電気通信大学が10月21日朝、公式Xアカウントに声明を掲載。「京王線車内の本学の広告にQRコードは記載しておりません」と述べ、車内広告にQR…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト