「オーパーツ」とは作られた時代に合わない高い技術や知識で作られた「場違いな工芸品」を指す言葉とされていますが、一方で存在理由が解明されていない謎の遺跡や遺物に対して使用されることもあります。
そんなオーパーツの一つかも……!と、古代史ファンやオカルトファンらをざわつかせる遺物が、2006年に和歌山県和歌山市にある大古墳群「岩橋千塚(いわせせんづか)古墳群」の「大日山35号墳」で発見されました。出土したのは、一つで二つの顔を持つ「両面人物埴輪」(重要文化財)。
この「両面人物埴輪」が、東京国立博物館で3月4日まで開催中の特集「和歌山の埴輪―岩橋千塚と紀伊の古墳文化―」(平成館 考古展示室)で展示されています。
■中二病がうずく存在
特集「和歌山の埴輪―岩橋千塚と紀伊の古墳文化―」は、和歌山県立紀伊風土記の丘から岩橋千塚古墳群の作品を借りて展示しているもの。岩橋千塚古墳群は紀ノ川流域に4世紀末から7世紀後半にかけ造られた大古墳群。総数約850基の古墳が分布し国の特別史跡に指定されています。
その中にある「大日山35号墳」は県内最大級の前方後円墳。6世紀前半のものと考えられており、全長は105メートルと巨大。2006年に行われた発掘調査では、東西の造出から埴輪郡が良好な状態で発見されました。しかし、発見された埴輪の中には他に例のない「翼を広げた鳥形埴輪」(重要文化財)に、弓を入れる道具を模した「ころく形埴輪」(重要文化財)といった貴重な埴輪が含まれていました。
何より人々を驚かせたのが「両面人物埴輪」の発見。背中あわせに二つの顔をもつその埴輪も、大日山35号墳でしか見つかっていません。
片方の顔は穏やかにも見え、なんだか楽しげ。でも鼻を隔てて左右に矢印が描かれ口が裂けています。そしてもう片方の面は真顔にも苦悶にも、怒っているようにも見える表情。
出土したのは顔部分のみで、職掌(職業)は不明。体が発見されれば、服装などから多少なりとわかるのですが残念なことに見つかっておらず、正体は謎のまま。このため「謎の埴輪」とも呼ばれ「オーパーツではないか?」「中二病がうずく……」と、様々な人の想像をかきたてているのです。
■飛騨のダークヒーロー「両面宿儺」?
裏表の両面で、人の裏表を表す存在ではないかという説もあれば、日本書紀・仁徳天皇65年に登場する飛騨国の両面宿儺(りょうめんすくな)がモチーフじゃないか?という説もあります。
両面宿儺は日本書紀によると飛騨国(岐阜県飛騨地方)にいた宿儺(すくな)という人。しかし、その人物は体は一つでも、二つの顔を持っていました。面は各々相背いてうなじは無く、手足については各有り。足に膝は有るがひかがみ(膝の裏のくぼんだところ)とかかとは無し。つまり見た目は、二人の人が背中合わせにくっついちゃってる状態。このため剣を左右の腰に携え、四つの手で弓矢を並用して使うことができ、しかも力は強く、動きは俊敏。とにかくめっぽう強かったのだとか。文字通り、一人で二人分の働きができたようです。(岩波文庫「日本書紀(二)」参考にし筆者意訳)
日本書紀の中では、朝廷に従わぬものとして難波根子武振熊(なにわのねこたけふるくま)に誅たれた凶賊という扱いですが、飛騨地方では飛騨の民を守ろうとした「伝説の英雄」として伝わっており、現代でも大切に崇められています。「異形」に、「英雄」伝説。両面宿儺は今で言うダークヒーロー的存在でもあったようです。
とはいえ、「両面人物埴輪」の正体がなんなのかは今もって明らかとされていません。でも頬に描かれた左右の矢などを見るに……。色々と想像は膨らみますよね。
東京国立博物館で展示される期間は、先に触れたとおり3月4日(日)まで。関東で見ることのできる貴重な機会です。見たい!東京に来てるの今知った!という方はどうぞこの機会お見逃し無く。
<画像クレジット>
重要文化財 両面人物埴輪
和歌山市 大日山35号墳出土 古墳時代・6世紀
和歌山県教育委員会蔵
画像提供はすべて「和歌山県立紀伊風土記の丘」
(宮崎美和子)