トム・クルーズさん主演の名作映画「トップガン」。日本にアメリカ海軍のエリートパイロット養成機関であるファイター・ウエポンズ・スクール(戦闘機兵器学校)の存在を知らしめ、同時にファッション面でフライトジャケットのブームを起こした作品です。この続編「トップガン2」の撮影が始まったことをトム・クルーズさんがTwitterでほのめかすと、戦闘機を運用する軍の公式アカウントが次々と反応し、途中から「誰がベストなのか」という、まるでミリタリーファンの間で交わされるような展開になりました。
きっかけは、トム・クルーズさんが2018年5月31日にツイートした「#Day1」というハッシュタグのみの文と、パイロットスーツ姿(右肩にトップガン卒業生を示すパッチが付いていることにも注目)のマーベリックがF/A-18Fの方を振り返っている「FEEL THE NEED.(何を欲しているか、肌で感じろ)」という写真の投稿。
#Day1 pic.twitter.com/7jjPL277Es
— Tom Cruise (@TomCruise) May 31, 2018
これに多くのファンが「トップガン2」の撮影が始まった!と色めき立ちました。反応したのは一般のファンだけでなく、軍の公式アカウントも。アメリカ空軍の公式アカウントが引用リツートでまず反応。
「もしマーベリックが本当にスピードが欲しいのなら、我々のF-15Eストライクイーグルに飛び乗ることができるよ。知ってるかい?(F-15Eは)時速1875マイル(3000km)のトップスピードがあるんだ」
If Maverick really had a need for speed, he could hop into one of our F-15E Strike Eagles! #DYK: They have a top speed of 1,875 miles per hour. https://t.co/RQtJoWfGJo
— U.S. Air Force (@usairforce) May 31, 2018
最新のF-22やF-35ではなく、F-15Eにしたのは、最高速度がF-22より若干速いとともに、F-14やF/A-18Fと同じく複座(パイロットと兵装士官の2人乗り)であることを意識したものでしょう。
これにカチンときたのがアメリカ海軍。空軍の「スピードが欲しいのなら」と、「トップガン」での「(もっと)スピードが欲しい」というセリフを意識したものだったので、こちらも「トップガン」のセリフを引用して空軍に反論。
「忘れるなよ坊や、2番目にはポイントなんてつかないんだぜ」
.@usairforce Remember, boys, no points for second place. @flynavy
— U.S. Navy (@USNavy) May 31, 2018
ここから軍同士の誇りをかけた(?)言い争いに発展。空軍が
「F-15はお前さんの言うような『2番目』なんかじゃないぜ。スコアボードを見てみろよ!# undefeated(難攻不落)」
The F-15 knows nothing about this “second place” thing you speak of. Check the scoreboard! #Undefeated https://t.co/tOj6GZ9Ei4
— U.S. Air Force (@usairforce) May 31, 2018
と、F-15が空中戦において撃墜されたのがただ1度(1995年11月22日、航空自衛隊第303飛行隊での訓練中、僚機のミサイル誤射によるもの)だけだということを引用して反論すると、今度はアメリカ海兵隊が「伝家の宝刀」で横槍を入れます。
「空軍さんは空母から発着艦できたっけ?」(現在は削除済み)
空軍パイロットと海軍・海兵隊パイロットが言い争いになるときに、必ず持ち出されるフレーズがこれ。空母の限られたスペースで発着できる技術と度胸を、海軍と海兵隊のパイロットは誇りにしている訳です。
これに対し空軍の反撃は
「タンカーが空にいるのに、何でまた海に降りなきゃいけないんだい?」
Who needs to land on the ocean when you have tankers in the sky! pic.twitter.com/nuMyNH8L2a
— U.S. Air Force (@usairforce) June 1, 2018
と、KC-10から空中給油を受けるF-15とF-16の写真をつけてツイート。しかし、空中給油に関しては空母艦載機も行えるので、これはパイロットの「腕」についてあげつらった海兵隊に対して、空軍が論点ずらしを行なったとも取れそうです。
そんな中、6月1日になってフランス海軍の戦闘機部隊「Chasse Embarquée」公式アカウントが参戦。
「フランス海軍のパイロットは準備万端だよ!」
French Navy Pilot ready ! @USNavy @flynavy @TomCruise @Skydance #FrenchNavy #ChasseEmbarquée #Rafale Marine #avgeek #TopGun2 pic.twitter.com/vWJ5FUmiVT
— Chasse Embarquée (@ChasseEmbarquee) June 1, 2018
と、トム・クルーズさんの写真をネタにして、フランス海軍の戦闘機パイロットがラファールM(ラファールの空母運用型)を振り返って「THE NEED…(欲するものは)」という写真をつけてツイート。アメリカだけの話ではなくなりました。
カナダ空軍のCF-18デモチーム公式アカウントも6月2日に、「トップガン」のセリフを引用してリツート。
「スピードが欲しい!!(…the need for speed!!)」
…the need for speed!! https://t.co/SlDNtxP2Mj
— CF-18 Demo Team (@CF18Demo) June 2, 2018
カナダは「何が最強か」というところからは一線を引いた立場のようです。
このような「最強の戦闘機は」などという論争は、ミリタリーファンや航空ファンの間で時折交わされる定番のネタで、各自が好みの戦闘機を推しまくる……という展開になります。各軍の公式アカウントととしては、それぞれの「誇り」もあるので、おふざけも挟みつつ真剣勝負ですね。日本の公的なアカウントが「公務員だから」「お役所だから」と真面目な運用になってしまい、ちょっと弾けたことをすると抗議の声が寄せられて自粛する……という状況に比べると、このような自由度の高いツイッターアカウントの運用が許されるのは羨ましい限り。
さて最後に、人類で初めて水平飛行で音速を突破した人物として知られる、第二次世界大戦のエースパイロットで、テストパイロットとして数多くの戦闘機に乗ってきたチャック・イェーガー氏が、かつて自身のTwitterに寄せられた「あなたの乗った中で、最高の戦闘機はどれですか?」という質問に答えたツイートをご紹介して、この項を締めたいと思います。イェーガー氏はただ一言。
「任務内容による(Depend on the mission)」
それぞれの機体には適した任務、そしてウイークポイントがあるので、一概に「これが一番」とは決められないということでした。「最強」というものは、実はとてもあいまいな概念なんですね。
(咲村珠樹)