おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

エアバス後援のグライダー「Perlan 2」が高度2万3000m超えの世界記録を更新

 2018年9月2日(現地時間)、南米パタゴニア上空で、エアバスが後援するグライダーによる高高度観測プロジェクト「Perlan Project II」において、与圧グライダー「Perlan 2」が自身の持つ記録を更新する、グライダーの飛行高度世界記録、7万6124フィート(約2万3202m)を樹立しました。現在、FAI(世界航空連盟)の記録認定待ちです。

  •  高高度、成層圏における地球の大気とオゾン層の状態を調べ、気象の変化や気候変動についての手がかりを得るために計画された「Perlan」プロジェクト。なぜグライダーを使うかというと、動力を用いる航空機の場合、どうしてもその排気ガスの温度や、成分が計測データに混入する可能性はゼロとは言えません。また、気球も熱気球なら熱を、ヘリウム気球なら内部のヘリウムが漏れ出して観測データに影響を与える可能性があります。外部の環境に影響を与えないため、動力を持たないグライダーが選ばれたのです。

     成層圏まで上昇するため、使用するグライダー「Perlan 2」は、操縦席が与圧された唯一のグライダーとなっています。実用上昇限度は9万フィート(2万7432m)。これはアメリカ軍の偵察機U-2の作戦飛行高度である8万2000フィート(2万5000m)をも上回るもの。通常の旅客機が飛行する高度の2倍以上にあたります。

     自分で動力を持たないグライダーが、どうやって成層圏まで上昇するかというと、パタゴニアのアンデス山脈を偏西風が吹き上がって発生する「山岳波」と呼ばれる気流と、南極に存在する「極渦(ポーラーサイクロン)」によって発生する上昇気流の複合作用を利用します。この上昇気流にうまく乗ることで、機体を成層圏まで導くという訳です。その過程で、地上や人工衛星からでは観測が難しい、この気流の実態も一緒に観測する、という目的もあります。

    Perlan 2滑空のイメージ

    Perlan 2滑空のイメージ

     ジム・ペインさんとモーガン・サンダーロックさんが乗ったグライダー「Perlan 2」は、2018年8月26日、Grob社の高高度観測機G550に牽引されてアルゼンチンのパタゴニア地方にあるエル・カラファテの飛行場を離陸し、高度4万2000フィート(約1万2800m)で切り離されて滑空を開始しました。


     アンデス山脈の山岳波をうまく捕まえて上昇に移り、2017年9月1日に同じ機体・同じパイロットの組み合わせで記録したグライダーの高度記録5万2221フィート(GPS計測値)を突破。6万フィートの大台を超え、最終的に気圧高度6万2000フィート(GPS計測値は6万669フィート)を超えるところまで到達しました。これは、気圧が低下して水の沸点が下がり、体温(摂氏37度)で血液をはじめとする体液が沸騰する高度を表す「アームストロング点(5万9000~6万2000フィート付近)」を超える高度。与圧なしでは到達できない高度でした。

     そして8月28日。同じ高度で牽引機から切り離されたPerlan 2は、上昇気流に乗って上昇開始。ほんの2日前に到達した6万2000フィートを超え、6万5000フィートも突破。気圧高度6万5605フィート(1万9996m)に達しました。この高度に約1分とどまった後、機体は滑空しながら高度を下げ、2時間あまりに渡ったフライトを終えて着陸しました。


     高度記録への挑戦はなおも続きます。9月2日(日本時間3日未明)、パタゴニアを離陸したPerlan 2は再び滑空を開始。これまでより強い、162ノット(秒速83m:時速300km)の上昇気流に乗ってぐんぐん高度を上げ、わずか30分後には高度6万フィートを超えました。ついには7万5000フィート(約2万3000m)を超え、気圧高度7万6124フィート(約2万3202m:GPS高度7万4295フィート/約2万2645m)まで到達しました。こちらの記録もFAIの正式認定待ちです。

     飛ぶごとに高度記録を更新しているPerlan 2。今回の「Perlan Project II」では、9月中旬までフライトが予定されています。風の力だけで高度20km以上まで上昇できるとは驚きですが、このプロジェクトの最終目標は実用最高高度である9万フィート(2万7432m)にできるだけ近づくこと。どこまで高くグライダーが飛翔できるのか、公式サイトや公式Twitterアカウント(@PerlanProject)に注目です。また、フライト中はリアルタイムで様子がわかる「バーチャルコクピット」で、データを確認できるので、興味のある方はご覧になってください。

    Image:Perlan Project

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • フランス国家憲兵隊の特殊部隊とH160(画像:Airbus)
    宇宙・航空

    フランス国家憲兵隊に新ヘリコプターH160 パリ五輪に備え2024年より受領開始…

  • NTTドコモの実験をしたエアバスのソーラー無人機ゼファー(画像:Airbus)
    宇宙・航空

    NTTドコモ エアバスのソーラー無人機を使用しての移動基地局実験に成功

  • 離陸するソーラー無人機ゼファーS(画像:Airbus)
    宇宙・航空

    エアバスのソーラー無人機「ゼファーS」 クラスの高度世界記録を樹立

  • プレアデス・ネオ3号機が撮影したエジプトのピラビッド(Image:Airbus)
    宇宙・航空

    地球観測衛星プレアデス・ネオ3号機 宇宙からとは思えない超高精細画像を公開

  • 空中給油試験中のEC725(H225M)とA400M(Image:DGA)
    宇宙・航空

    エアバスA400M輸送機 ヘリコプター2機への同時空中給油に成功

  • フランス航空宇宙軍のH225M(Image:フランス航空宇宙軍)
    宇宙・航空

    フランス軍 H225M捜索救難ヘリと無人ヘリ試作機を追加発注

  • 富士通が参加する「イケロス(ICELUS)」コンソーシアムのロゴ(Image:Airbus)
    宇宙・航空

    富士通がエアバスらとイギリス陸軍の次世代情報通信システム計画コンペに参加

  • 宇宙・航空

    オールニッポンヘリコプター用H160が初飛行 NHK報道取材に活躍予定

  • 宇宙・航空

    ベルギー空軍A400M輸送機の1号機を受領 ルクセンブルクと共同運用

  • 宇宙・航空

    マリ共和国空軍 2機目のC295輸送機を発注

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 介護未経験者全体の72.9%が将来に向けて「特に何も準備していない」
    社会, 経済

    仕事と介護の両立に不安85% ダスキンが「介護白書2025」で実態調査

  • プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正

  • 美食祭 in 日本橋三越
    TV・ドラマ, エンタメ

    高見沢俊彦の“美しいメシ”100回記念 日本橋三越で初の美食祭

  • なか卯が“ウニの二大メニュー” 雲丹おろしうどんとウニ丼を9月17日から販売
    商品・物販, 経済

    なか卯が“ウニの二大メニュー” 雲丹おろしうどんとウニ丼を9月17日から販売

  • 掃除機「自動お手入れ機能」篇(15秒)
    商品・物販, 経済

    反町隆史、東芝新CMで料理や掃除に挑戦 家庭的な素顔ものぞかせる

  • 音楽劇「謎解きはディナーのあとで」(撮影:阿部章仁)
    エンタメ, 舞台

    上田竜也が毒舌執事に挑む 玉井詩織&橋本良亮と共演「謎解きはディナーのあとで」開…

  • トピックス

    1. 偽ファッション広告

      偽ファッション広告がGoogle広告に大量出現 サポート詐欺被害に注意

      2025年9月上旬からGoogle広告に偽ファッションサイトが急増。数秒で「Windows Defe…
    2. 邪悪なAI搭載「絶対にバズるSNS」で理不尽な炎上を疑似体験→リアルすぎて怖くなった

      邪悪なAI搭載「絶対にバズるSNS」で理不尽な炎上を疑似体験→リアルすぎて怖くなった

      Webコンテンツ「絶対にバズるSNS」が9月15日公開。9月26日公開映画「俺ではない炎上」と連動し…
    3. 26年前のMMORPG「Dark Ages」、YouTuberの挑戦で限界集落から奇跡の再生

      26年前のMMORPG「Dark Ages」、YouTuberの挑戦で限界集落から奇跡の再生

      26年前にリリースされたMMORPG「Dark Ages」をご存じでしょうか。年月とともに人口は減少…

    編集部おすすめ

    1. 英国伝統のうなぎ料理は“水槽の味”?日本にはない「ゼリー寄せ」の衝撃

      英国伝統のうなぎ料理は“水槽の味”?日本にはない「ゼリー寄せ」の衝撃

      日本でうなぎといえば、甘いタレをつけて香ばしく焼き上げた「蒲焼き」が定番のスタイル。白焼きなどもあるにはありますが、うなぎといえばやっぱり蒲…
    2. たこばさんの「糸こんにゃく炒飯」

      えっ…これ糸こんにゃく!?目も舌も騙される“ヘルシー炒飯”を実際に作ってみた

      「糸こんにゃくで作った炒飯が本物そっくりに仕上がる」と聞いたら、信じられるでしょうか。大阪市のたこ焼き店「たこ焼たこば」の店主がSNSに投稿…
    3. 虎ノ門ヒルズの「どこか奇妙な職業体験」が話題 ゴミを拾いながら物語の世界へ没入

      虎ノ門ヒルズの「どこか奇妙な職業体験」が話題 ゴミを拾いながら物語の世界へ没入

      虎ノ門ヒルズで清掃員の仕事を疑似体験しながら、非日常な体験に巻き込まれていく……そんな不思議な没入型体験イベント「どこか奇妙な職業体験 虎ノ…
    4. あれー?どこかなー?伸びしろしかない3歳児の“全力”かくれんぼが手強すぎる!

      あれー?どこかなー?伸びしろしかない3歳児の“全力”かくれんぼが手強すぎる!

      子どもにとってかくれんぼは、ハラハラドキドキのスリリングな遊び。自分だけにしか分からないであろう隠れ場所を見つけて「ここなら大丈夫」「絶対見…
    5. プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正

      プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正

      アニメ映画「映画キミとアイドルプリキュア♪ お待たせ!キミに届けるキラッキライブ!」公式は9月12日、「キミプリ♪ぬりえコンテスト」において…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト