うっかり間違いや思わぬアクシデントから生まれた料理は数知れず。しかし、いつもの工程で調理をしていたにも関わらず、ある条件が整ってしまったことで「なんじゃこりゃ!?」なオニオンソースが出来上がってしまったという匿名主婦Mさん(以下、Mさん)のツイートが話題を呼んでいます。
ハンバーグにかけるオニオンソースを作ろうと玉ねぎ、ニンニク、生姜を炒めていたところ「エルコーンみたいな蛍光緑に……なんだこれ怖い……化学反応なの?」と、ケミカル感たっぷりの出来上がりに、かなり動揺を隠せない様子。そのオニオンソースの色をメロン&バニラシャーベットを充てんしたコーンアイス「エルコーン」にたとえるほど、あまりの色の鮮やかさに驚いてしまったようです。
オニオンソースの基本的な材料は「玉ねぎ、にんにく、醤油、酒、みりん」の5つで、その調理方法はというと、玉ねぎとにんにくをフードプロセッサーやおろし器ですりおろした後、酒とみりんを火にかけて醤油を入れてひと煮たちさせて出来上がり! というシンプルなもの。
ところがこの日のMさんは、とても急いでいたようで、おろし器ではなくハンドブレンダ―で“玉ねぎ”と“にんにく”をいつも以上に念入りにペーストしたのだそうです。その後、低温で温めた結果、こちらのケミカルオニオンソースが誕生してしまったとか。
Mさん曰く、こんなことは初めてだったそうで「メガネを外してみたり、電気をつけ直したりしてみたり、鍋の中を何度も見たり……。信じられないと思いました」と、オニオンソースが変色していく様子を見て、最初は自分の目を疑ったとのこと。火を入れるごとに、薄いクリーム色からミントグリーンに変化し、緑より青が強くなり蛍光色に近い色味に変化。「ガリガリ君をもう少し濃くして緑っぽさを足したような感じ」と、もはやこれは未来の食べ物ではないかと思うほど見た目では美味しさを感じられないレベルの色味に!
食べる頃には、さすがに蛍光色も引いたのでは? と思いきや、その後一時間ほど時間を置いたにもかわらず、青色のままだったとか。Mさんもしびれを切らし醤油、みりん、酒、砂糖、少量の酢などで味付けをして食べたとのこと。その味はというと拍子抜けするほど普通だったそうで、食卓には最終的に深緑色になったオニオンソースがかかったハンバーグが並んだ以外は、普通に美味しい食卓だったそうです。
Mさんの旦那さんに真っ青になったオニオンソースの画像を見せたところ「なんでこんなことになるの? なにか混ぜたの?」としきりに不思議がっていたとか。Mさん曰く、今まで基本レシピに忠実に作っていた方で、今回は急いでいたので工程をいくつかすっ飛ばして作ってしまったことが要因なのではとのこと。
この不気味な変色現象、実はレトルトカレーの製造現場でも時折起こるトラブルなんだそうです。レトルトカレー製造大手のハウス食品では、その原因を探って実験を繰り返したところ、偶然「玉ねぎを切ると涙が出る」現象のメカニズム(タマネギの催涙因子生成酵素)も解明してしまい、そこから「切っても涙が出にくい玉ねぎ」を作り出すことにも成功。これをまとめた論文が2002年に世界的科学誌「ネイチャー」に掲載され、さらに2013年のイグ・ノーベル賞まで受賞してしまっています。
この論文によると、変色の原因は変質した油や古くなった材料などが原因ではないということが判明しました。玉ねぎに含まれる辛み成分の元である主要硫黄化合物「PRENCSO」と、ニンニク中の硫黄を含んだ低分子物質「アリイン」、これらを分解する「アリイナーゼ」という酵素と「アミノ酸」の4成分が関与して起きる現象だったそうです。一定量のPRENCSO、アリイン、アミノ酸に、一定の活性を持つアリイナーゼを加えると、常に同じ量の色素が生じるはずだが、その粗精製のアリイナーゼが、ニンニク由来かタマネギ由来かによって生成する色素量に違いが生じ、ニンニク由来の粗精製アリイナーゼを使った時、常に多くの色素が生成されたとのこと。
ちなみにこの実験では、生または加熱した玉ねぎの細かいみじん切り(粉砕物)と生ニンニクの細かいみじん切り(粉砕物)を重量比で5対1~10対1の割合で混ぜた場合、一晩置くと必ず青緑色になり、さらに放置した場所の温度が高いほと色が濃くなることも分かったとか。成分はしぼり汁に溶けているので、しぼり汁を混ぜて放置しても同じような青緑色になってしまうそうです。化学って面白いですね。
このような変色現象を防ぐには、ニンニクを十分に加熱してから、玉ねぎを加えることで解決できるそうです。パスタでニンニクを使う時、低温からゆっくり加熱して油にニンニクの香りを移して……と料理番組でやっていますが、ああやってニンニクをしっかり加熱することで、次に玉ねぎを入れても変な色にならない、という効果もあったんですね。
最後にMさんに料理は好きですか? と伺ったところ「3年前に夫と結婚する前は実家ぐらしで家庭科の知識に毛が生えた程度でしたが、それから料理をするようになりました。人並みの腕前ではありますが、料理をするのは好きです。あと、オニオンソースを作ることになったのは、たまたまケチャップのストックを切らしてて、デミグラスソースを作れるほど無いので急遽オニオンソースにしよう! と思い立つが時間があまり無く……という感じで青色ソースが偶然生まれてしまいました」と、思わぬ珍事だったようですね。
<記事化協力>
匿名主婦Mさん
<参考>
タマネギ研究でのイグノーベル賞受賞について(ハウス食品株式会社)
「タマネギ催涙因子合成酵素の発見とその関連研究」(今井真介/ハウス食品グループ本社 中央研究所)
(黒田芽以)