日本航空が出資する、国際線中長距離のLCC(格安航空会社)を目指す新規航空会社「ZIPAIR(ジップエア)」の機体塗装デザインと職員の制服発表会が2019年4月11日、都内で開かれました。従来のLCCのイメージとは異なるシックでスタイリッシュなデザインポリシーでありながら、働く環境を考えた機能性を兼ね備えた制服。足元は革靴やパンプスでなく、スニーカーを採用しています。
2020年に東京(成田)とバンコク(スワンナブーム)、ソウル(仁川)を結ぶ2路線で開業予定のZIPAIR(株式会社ZIPAIR Tokyo)。機材は最新のボーイング787-8を使用します。発表会に登壇した西田真吾社長は、ブランド名の「ZIPAIR」について、英語の「ZIP」という言葉が持つ「ビュッと(矢などが)飛ぶ」、または郵便番号を意味する「ZIP-CODE」から、様々な目的地へストレスなく到着するエアラインを目指すとコメントしました。
コーポレートカラーはメインをコストと満足との調和を表す「Harmony Gray(ハーモニー・グレー)」、そしてサブカラーを安全運航・定時運航など高品質なオペレーションを約束する「Trust Green(トラスト・グリーン)」としています。2019年3月8日に国道交通省に対し、航空法第100条に基づく航空運送事業許可申請を行いました。また、発表会が行われた2019年4月11日付で、日本航空を引当先とする第三者割当増資を行い、資本金・資本準備金を合わせて50億円としています。
利用者にとって注目なのが、運航機材であるボーイング787-8の機体デザイン。発表されたデザインは、白を基調として、客室窓周りにコーポレートカラーであるトラスト・グリーンのチートラインが入るもの。その下の前部胴体に「ZIPAIR」のロゴが大きく入ります。垂直安定板にはブランドロゴの「_Z」が大きく描かれますが、ほぼ文字だけというのはエアラインとしては非常に珍しいものです。
ブランドロゴの「Z」の前にあるトラスト・グリーンの「_」は空白を意味するもの。ZIPAIRではこれを「Infinite Blank(無限の空白)」と呼んでいます。究極を意味するアルファベット最後の文字「Z」のその先を目指す、という、顧客サービスを無限に追求し続けるエアラインとしての目標を掲げたもの、と西田社長は説明しました。
まだ中古機材がほとんど出回っていないB787ですが、新造機を調達するのではなく、現在日本航空(JAL)で運用されている機材を2機リースする形で調達するとのこと。機体デザインのモデルプレーンには、日本航空で保有している「JA822J」の登録記号が記されていましたが、この機体と、もう1機別の機体をリースするそうです。座席数は現在日本航空のB787-8で最も多い座席数である186席の1.6倍程度になるとのこと。乗客の快適性や客室乗務員の業務が行いやすいよう、独自にデザインした客室レイアウトに改装し、2019年冬には実機を受領する予定です。
運航乗務員については、まずはB787の機種限定ライセンスを持つパイロットが日本航空から出向し、新規で採用する他機種の限定ライセンスを持つパイロットの教官となって、育成を図るとしています。自社育成のパイロットが増えた時点で、日本航空からの出向パイロットは戻りますが、一部は教官としてZIPAIRに移籍する予定だと西田社長は語っています。当初はパイロット育成にも機材を使用するため、2機がフルで営業運航に投入される機会は多くない、とのことでした。
続いて職員の制服デザインが発表されます。ブランドロゴなど、デザインを通じてZIPAIRのブランディングを行う株式会社SIXのアートディレクター、矢後直規(やご・なおのり)さんの演出で、堀内太郎さん(「TARO HORIUCHI」「th」)デザインの制服がプレゼンテーションされました。ここからはまるで、ファッションのコレクション発表会のよう。
ZIPAIRでは、ライセンスが必要な運航乗務員(パイロットなど)を除き、客室乗務員と地上職員、そして社内での企画など職種を区別しないスタイルを取り入れます。つまりCAとして乗務するときもあれば、地上で旅客案内や搭乗手続きをしたり、また社内で企画などの業務を行ったりするというわけです。これは職種を固定して分業化してしてしまうのではなく、業務に携わる社員が様々な立場で利用客と触れ合うことで生まれた「気づき」を、自分ですぐ反映できるようにするためだといいます。このため、制服はインナーやアウター、ボトムスなどを自由に組み合わせて着こなすことが可能になっています。組み合わせパターンは10種類とのこと。
登場した制服は、黒をベースにしたシックでスタイリッシュなもの。カジュアルな雰囲気が多いLCCの中では異色といえます。しかし見た目のスタイリッシュさだけでなく、働く環境を考慮した、動きやすく、それでいて服のラインが崩れないような工夫が凝らされています。
登壇したアートディレクターの矢後さんとデザイナーの堀内さんは、2018年の夏から会社側と協議を重ね、空港での業務の現場に何度も足を運んで、制服に必要とされるエレメントをリサーチし、デザインに落とし込む作業を続けていたといいます。矢後さんによれば、これまでエアラインの制服は「たたずまい」を意識したものが多かったのではないか、と語り、ZIPAIRではたたずまいの美しさだけでなく、作業着としての側面も重視して堀内さんと検討を重ねたそうです。
たとえば、ワンピースの腰についたポケット。客室乗務員の経験を持つZIPAIRの宍戸祐子さんによれば、様々な注意点を書き込んだ手帳が客室乗務員の業務には欠かせないといい、それらをポケットに詰め込むと、どうしても膨らんでしまって服のラインが崩れてしまうといいます。
そういった点を矢後さんと堀内さんに伝え、ポケットを内側と外側、二重に分けて収納するアイデアでクリアしたとか。そしてよく見ると、何回も出し入れするとクタクタになってしまいがちなポケットの口部分も、ステッチを重ねて強化されているのが分かります。同時に、重ねたステッチが重く見えないよう、ギャザーのようなデザイン処理を行っています。
デザインと機能性の両立を象徴するのが、足元のスニーカーです。通常エアラインの制服といえば、革靴やヒールのあるパンプスが思い浮かびますが、実際の業務では長時間の立ち仕事で足がむくんだり、搭乗客の案内で走ったりすることも。このため、動きやすさを重視してスニーカーを採用したといいます。白と黒の2種類で、アッパーヒールには「Z_」のロゴが入っています。原則として地上勤務の際は白を、客室業務を行う際は黒を履くとのこと。
長時間履いていても足が蒸れないよう、アッパーはメッシュ素材になっています。そして靴ひもが突起などに引っかかることがないよう、結んだ後はベルクロテープでカバーする仕組み。運航乗務員もスニーカーを履くのですが、実際にパイロット達に履いて操縦操作などをシミュレーションしてもらったところ、特にラダーペダルの操作などに支障はなく、逆に乗務前の機外点検で歩き回る際には非常に楽という評価だったといいます。
アジア地域における日本の新たなLCCとして準備を進めるZIPAIR。現在公式サイトを通じて社員を募集しています。まだ国土交通省の審査中のため、正式に「エアライン」と名乗ることはできませんが、どのような空の旅を提供してくれるでしょうか。
取材協力:株式会社ZIPAIR Tokyo
(取材:咲村珠樹)