おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

2022年にも就航予定! アメリカの航空会社が初めて電動旅客機を発注

 フランスのパリ郊外にあるル・ブルジェ空港で開催中のパリ・エアショウ。今年は電動航空機に関する展示も目立ちます。その中で電動旅客機を開発しているイスラエルの航空機メーカー、エビエーション(Eviation)・エアクラフトが、アメリカの大手リージョナル航空会社(短距離路線を運航する航空会社)ケープ・エアから、世界で初めて電動旅客機を受注したと2019年6月18日(現地時間)に発表しました。2022年にも引き渡しを始める予定だといいます。

  •  イスラエルの航空機メーカー、エビエーション・エアクラフトが開発したのは、乗員2名乗客9名の小型電動旅客機「Alice(アリス)」。両主翼の先端と、V字型の尾翼を持つ胴体後方に各1基、計3基の電動モーター(260kW)とプロペラを装備した3発機で、巡航速度240ノット(時速432km)で航続距離650マイル(約1040km)という、リージョナル(近距離)路線用にデザインされたものです。日本では新幹線があるためあまり馴染みがありませんが、海外では「ミドルマイル」と呼ばれる都市圏同士を結ぶ近距離路線は、リージョナル航空会社が多数存在し、多くの便が運航されている隠れた旅客機市場。ほとんどの場合、大型の軽飛行機などが充当されています。

     この分野に参入する電動旅客機Aliceのセールスポイントは、乗客の快適性と運航コストの安さ。ミドルマイル路線に飛んでいる旅客機のほとんどは、軽飛行機から転用されているために与圧されていませんが、Aliceは与圧キャビンを備え、高い高度まで上昇しても乗客の快適性を損ないません。そして運航コストの面でも、従来の飛行機より最大で70%も低いコストで運航できるといいます。これにより運賃も引き下げることができ、航空会社にとっては、排気ガスを出さないクリーンな飛行機で低価格の運賃、というセールスポイントを生み出します。

     設計に4年の歳月を費やしたというAlice。最初のオペレーター(運航会社)として名乗りを上げたのは、独立系としてはアメリカ最大級のリージョナル航空会社であるケープ・エア(Cape Air)。アメリカ東海岸からカリブ海を中心としたエリアで、92機の機材で1日400便を運航し、年間およそ50万人の旅客が利用しています。

     今回の発注について、ケープ・エアの創業者であるダン・ウルフCEOは「ケープ・エアは、ほかのエアラインとは違います。営利企業であると同時に、社会の動きに対して非常に敏感なのです。7年前、私たちはアメリカ環境保護庁から持続可能性に配慮した企業活動の認定を受けました。そして今日、私たちは世界で最も排出量削減を行う企業となる道筋をつけたのです。Aliceを運航することで、私たちは環境負荷低減の動きに大きなインパクトを与える機会を得ました。我が社の機材にAliceが加わることで、未来への新たな扉を開くことになるでしょう」と、地球環境に配慮する企業活動に、このAliceが欠かせないという認識を示しました。

     ケープ・エアの発注数についてエビエーション・エアクラフトは具体的な数字を発表していませんが、少なくとも2桁の機数だとのこと。Aliceは今年から試験飛行を開始し、2021年の型式認定、そして引き渡しと運航開始は2022年を予定していると発表しています。

    <出典・引用>
    エビエーション・エアクラフト プレスリリース
    Image:Aviation Aircraft/Cape Air

    ※訂正:ケープ・エアの運航便数について「年間400便」と記載していましたが、正しくは「1日400便」で「年間およそ50万人が利用」です。

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • リオデジャネイロの夜景とEVEのeVTOL(Image:Eve Urban Air Mobility Solutions)
    宇宙・航空

    エンブラエル傘下の「空飛ぶクルマ」ラテンアメリカ最大のヘリコプター運航会社より5…

  • NASAハイブリッド電動ターボプロップ旅客機のコンセプトイラスト(Image:NASA)
    宇宙・航空

    NASAが電動旅客機実現に向け動力システム開発企業を募集

  • 宇宙・航空

    ANAがボーイング787を20機追加発注 トータル100機超えへ

  • 企業・サービス, 経済

    台湾の新航空会社「STARLUX(星宇航空)」社長の操縦で運航開始 ラグジュアリ…

  • 宇宙・航空

    エアバスが支援する電動飛行機レース「エアレースE」2020年シーズン参戦の8チー…

  • 宇宙・航空

    ブリティッシュ・エアウェイズ 母娘客室乗務員だけのフライトを実施

  • 宇宙・航空

    ボーイング「空飛ぶタクシー」Coraのアメリカベンチャー企業と提携

  • 宇宙・航空

    チリがロシアBe-200ES飛行艇を追加発注 インドも旅客型に興味

  • 宇宙・航空

    アメリカ海軍の近接防空ミサイルRAMがアップグレード 2019年中に納入予定

  • 宇宙・航空

    エンブラエルがイスラエルIAIと共同で早期警戒機「P600」の開発を発表

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • Web展示「違いを知ることからはじめよう展」
    社会, 経済

    生理やPMSテーマのWeb展示、ツムラが公開 約5000人来場の企画展を再構成

  • 京都アニメーションをかたる偽サイト複数確認 公式が注意喚起
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    京都アニメーションをかたる偽サイト複数確認 公式が注意喚起

  • 博多座、高額転売者の情報開示手続きへ 「看過できない」と強い姿勢
    エンタメ, 舞台

    博多座、高額転売者の情報開示手続きへ 「看過できない」と強い姿勢

  • 雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく
    社会, 経済

    雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

  • 声優とAIの共存を模索 81プロデュースとイレブンラボが業務提携、オリジナルの声を守り多言語展開へ
    アニメ/マンガ, 声優

    声優とAIの共存を模索 81プロデュースとイレブンラボが業務提携、オリジナルの声…

  • Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行
    インターネット, サービス・テクノロジー

    Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

  • トピックス

    1. 「LINEグループ作成」を要求する詐欺メールに注意 海外のサイバー監視が日本向け攻撃を警告

      「LINEグループ作成」を要求する詐欺メールに注意 海外のサイバー監視が日本向け攻撃を警告

      海外のサイバー脅威情報を発信する「Hackmanac」が12月19日、日本国内の複数の組織を標的とし…
    2. 電話対応の様子(NORAD Tracks Santa Newsroom)

      NORAD、サンタ追跡作戦に万全の体制 即時追跡方針を強調

      米国防総省は、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)による重要ミッション「サンタ追跡作戦」を、2025…
    3. Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Googleは12月16日、個人情報がダークウェブ上に流出していないかを確認できる「ダークウェブ レ…

    編集部おすすめ

    1. Netflix映画『10DANCE』

      Netflix「10DANCE」、海外SNSで広がる“困惑と魅了” 「情緒が崩壊した」人も

      Netflixで12月18日に配信が始まった映画「10DANCE」が、海外SNSで大きな反響を呼んでいます。BL作品であることに戸惑いながら…
    2. 「漆黒の指輪」は実在したものの……サン宝石、カプセルトイ「中二病が疼くリング」の“誇大表現”を謝罪

      「漆黒の指輪」は実在したものの……サン宝石、カプセルトイ「中二病が疼くリング」の“誇大表現”を謝罪

      アクセサリーや雑貨の販売で知られる「サン宝石」は12月16日、同社が展開するカプセルトイ「中二病が疼くリング」について、公式サイトおよびSN…
    3. 雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      国土交通省と気象庁は12月16日、雨や洪水などの危険を伝える「防災気象情報」について、2026年(令和8年)の大雨シーズンから新たな運用を始…
    4. コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      夏コミ名物、会場の熱気と参加者の汗が昇華して天井付近に発生するという伝説の現象「コミケ雲」。まさかそれを口にできる日が来るとは、誰が想像した…
    5. Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      情報処理推進機構(IPA)は12月10日、多くのウェブサービスで使われている開発技術に重大な問題が見つかり、国内でも悪用したとみられる攻撃が…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト