ブラジルの航空機メーカー、エンブラエルと、イスラエルの防衛企業IAIは、エンブラエルのビジネスジェット機を母体にした早期警戒(AEW)機、P600の共同開発に合意したと2019年6月18日、フランスのパリ・エアショウで発表しました。エンブラエルが早期警戒機の分野に進出するのは、これが初めてとなります。

 エンブラエルが発表した内容によると、エンブラエルの新型ビジネスジェットであるPraetor 600をベースにし、胴体上面にIAI傘下のELTAが開発した第4世代デジタル・アクティブ・フェーズドアレイ・レーダーを装備したものとなります。このレーダーでは、同時に敵味方識別信号(IFF)受信も行い、より的確に周囲にいる脅威を探知することができるとのこと。エンブラエルは機体の製造と地上での整備・支援サービスを担当し、ELTAがレーダーと電波情報収集(SIGINT)機器を受け持つことになります。型式名称のP600は、ベース機の「Praetor 600」からきています。

 エンブラエルがイスラエルの防衛企業と組んで、早期警戒(AEW)機の分野に進出するのには、各国がこのような偵察および情報収集を行う航空機についての関心を高めていることが背景にあります。これまで早期警戒機といえば、アメリカのE-2CやE-3(AWACS)など、価格的にも高価で大掛かりなものが多く、予算の潤沢な国でしか維持・運用ができないものでした。

 しかし近年は電子系装備のデジタル化が進み、これまでに比較すると安価でそれなりに十分な能力を持った小型のレーダーが開発されました。これにより、従来にはなかった小型の早期警戒機が作りやすい環境が整っています。たとえば、スウェーデンのサーブはボンバルディエのビジネスジェット、グローバル6000に自社の開発したレーダーなどを搭載した早期警戒管制(AEW&C)機「グローバルアイ」を開発。2017年にはUAEからの発注を受け、2019年6月14日にはフィンランドに対しても戦闘機のグリペンとともに導入のオファーをしています。

 ちょうどこのくらいの機体規模は運用コストも低く、多くの国が身の丈にあった早期警戒(AEW)機を持ちやすいといえます。近年は海洋における警戒監視活動の必要性も高まっていますが、まだそれに応えられる機種が豊富でないため、潜在需要からすると大きな市場が開拓できるとエンブラエルは判断したとみられます。

 ベース機となるPraetor 600は、2019年5月にアメリカ連邦航空局(FAA)や欧州航空安全局(EASA)といった主要な機関の型式認証を取得したばかりの最新型。航続距離は7000kmクラスの中型ビジネスジェット機です。レーダーなど重量物が搭載されるので、航続距離については低下が予想されますが、それでも良好な燃費性能を持ち、それは運用コストの低減につながります。

 標準仕様では早期警戒監視(AEW)機能と電波情報収集(SIGINT)、衛星を含むデータリンクなどの機能ですが、これに機能を追加して早期警戒管制(AEW&C)機にすることも容易だといいます。また、自分をミサイルなどの脅威から守る装備もパッケージとして付加されています。

 エンブラエルの防衛部門責任者であるジャクソン・シュナイダー氏は「P600はこのカテゴリーにおいて、素晴らしい性能と柔軟な対応性を発揮することができます。顧客の要望に応じて簡単に装備を変化させることができ、幅広い分野で低コストかつ効果的な任務を行うことができます」と、P600の特長について語っています。

 ビジネスジェットをベースにした、低コストな早期警戒機の潜在需要は大きく、ほかのメーカーも参入する可能性があります。これからこの分野でも熾烈な競争が行われそうです。

<出典・引用>
エンブラエル プレスリリース
Image:Embraer/SAAB

(咲村珠樹)