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発達障がいって診断名はレッテル?大人の心の中の「壁」と早めの診断の大切さ

 目に見えない障がいを持つと、見た目では分からないぶん、様々な憶測や偏見を持たれることが多くあります。発達障がいもそのひとつ。多数派だけが正しいわけではない多様性のある社会で、いつの間にか偏見に染まってしまうこともあります。そんな事に気づかせてくれる、ある体験談を描いた漫画が、当事者たちの心に響いています。

  •  保育園の保護者会での雑談で、父親同士の会話に衝撃を受けたことからその体験談を描いたのは、ツイッターユーザーのきよきよさん。「息子が『発達障がい』を担任から疑われててさぁ」という言葉に耳を奪われます。「最近じゃあちょっとできない事があると障がい者扱いで差別するから困るよ」そんなぼやきを耳にしたきよきよさん。実は、きよきよさんの上のお子さんは3歳の時に「高機能自閉症」と診断されており、その父親たちの会話に「ちょっ……待って!差別!?とんでもない!」と心の中で語ります。というのも、きよきよさんが発達障がいを持つ上のお子さんを育てる中で経験したことがあったから。

     まんがの2本目以降で、きよきよさんは語っていきます。発達障がいが疑われると、つい「うちの子は『個性的』なだけ」「落ち着きがないのは元気な証拠」「言葉が遅いのはシャイなだけ」と、疑われたことに対して反発し、そのことを否定してしまいがちになります。しかし、当事者である子どもからすれば、発達障がいだといち早く分かり、その特性が障がいから来るものと周囲から理解されれば、できないことや分からないことは、責めるべきものではなくなります。そして周囲の大人から、一見「できない」ことが、その子の「特性上難しいこと」として理解され、配慮した「その子ができる形」を提示して接してもらえるならば、無駄に責められることもなくなります。これは大人の側にとっても、無駄に怒りの感情を出さずに済み、精神的な負担も減ることに。世界の見方を変えることで、より穏やかなものにすることができるわけです。

     自分のことに対し「否定される」「叱られる」という状態で育つ子と、自分の特性を「理解してもらえる」「分かるように接して貰える」子と、どちらが得でしょうか、ときよきよさんは問いかけます。自分という存在を否定されず、受け入れて貰えるということは、子どもにとって安心感を与え、自己肯定感や自信を育むことにもつながります。

     目の見えない子に、視覚に頼る点字以外の本を読め、なんていう事はないでしょう。耳の聴こえない子に対して「ちゃんと聴きなさい」とも言わないでしょう。それは発達障がいでも同じだと、きよきよさんは語ります。外見からはなかなか分かりませんが、たとえば「ちょっと待ってて」や「あと少し」といった曖昧な表現が分からない、順序立てて行動することが苦手、こだわりが強い、衝動性が激しいなど、様々な特性があります。「見えない障がい」だからこそ、その子にとって何が困難なのか精査して、その子に合った対策や対応が必要なのです。

     我が子に障がい名がつくと親は先々のことを心配したり、将来のことを悲観したりしますが、心が落ち着いたら「今」に向き合って、専門医や療育機関などに相談してみると良いかもしれません、ときよきよさんはアドバイスしています。そして担任の先生や管理者と話す機会を設けて「特別支援」をお願いしてみてはいかがでしょう、という提案も。我が子の特性と、自宅での対処法を伝え、認識を共有することで、より「みんなにとって過ごしやすい環境」を作ることができるかもしれません。高機能自閉症と診断されたきよきよさんの息子さんは、沢山の支援を受けて、今、大学生になったそうです。発達障がい者であることに変わりはありませんが、受け入れることで開ける道もある……という事を悩めるパパやママに伝えられたらと思います、と漫画は結ばれていました。

     実は筆者も、同じく2人の娘の発達障がいをどう受け入れ、どう接していいか分からなかったひとり。筆者自身、娘たちの事を受けいれてはいても、きちんと理解しているとまでは思えていません。思春期を迎えた今もたびたび娘たちと衝突したり、将来もし自分が世話をできなくなった時はどうなるのか……今から心配しても仕方がないとは分かっていても、やはり気にはなります。

     当の子ども自身にしてみれば「みんなと同じようにできない・分からない」は「自分がそうしたいからやらない・できない」ではなく、「自分でも他の子と同じ様にしようとしていても何故かできない」こと。なので叱られるたび「どうして自分だけこんなに怒られないといけないの?」という気持ちだけが残ってしまいます。それが積み重なっていくと、自己否定感や、他人に対する不信感が強まることに。

     しかし早めに発達障がいであると診断され、自分自身でも「これは自分がみんなと違って、ここが苦手でできないだけなんだ」ということが分かれば、その苦手に対して上手く立ち回る方法を身に付けることもできますし、周囲の人も「ただできない・やらない子」ではなく、そういう苦手や特性があるからこの子には難しい」ということが把握でき、その子に合ったやり方を模索することができます。

     発達障がいといっても、一括りにはできないほど様々なできる・できない・分かる・分からないが存在しています。色のグラデーションのように、「できない・分からない」が強い子、弱い子、様々です。抜きんでてできることがある一方、壊滅的にできないこともあります。なので、その子に合った、オーダーメイドな療育がその子の将来をかたち作っていくのです。

     できることと難しいこと、この見極めだけはつけて、できるところを伸ばし、できないところはどうしたらカバーできるようになるのか。これは家庭だけの問題ではなく、周囲の人々の理解と協力も重要です。障がいを持った人たちを視界から遠ざけ、排除するのではなく、同じ社会を形作る「かけがえのない一員」としてどのように迎え入れるのか。「心のバリアフリー」という言葉もありますが、これからの社会には必ず求められることだと思います。

    <記事化協力>
    きよきよさん(@kiyokiyokingdom)

    (梓川みいな)

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    一般内科、呼吸器科、整形外科、老年科、発達障害などを得意とする。医療・介護福祉等に高反応。雑多なネタも紹介していきます。
    娘二人(ともに発達障害あり)とネコ二匹の母。シングル。

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