高齢になると、認知症や体が不自由になる病気などで、要介護状態となることも多くなり、介護施設を利用する高齢者も多くいます。介護施設を利用する人は皆それぞれの歴史を持っています。その介護施設でのお話に、「歴史の宝庫」かも、と納得する人が続出しています。

 「このあいだ地域密着型の特養老人ホームを取材したとき、若いスタッフが『この施設では常磐炭鉱の話をする方が多いんですけどわたしにゃさっぱり分からんので大変です』という話をしていて、もはや炭鉱史を研究するなら老人ホームなのではという気がして、リアルに『介護民俗学』をイメージできた」とツイートしたのは、いわき市役所 地域包括ケア推進課が主体となって運営しているメディア「igoku」の編集・執筆の仕事を担当している、小松理虔さん。

 小松さんは、igokuのコンテンツとなる内容の取材や、福祉事業所のオウンドメディアの運営、社会福祉法人のウェブサイトやパンフレットの制作などを手掛けています。

 その中で、認知症のグループホームに取材で行った時に感じたのが、先のツイート。若いスタッフは、その祖父母以上の年代差がある高齢者たちの話が、背景となる歴史を知らないことでなかなか理解やイメージができない様です。しかし、その時代の生きた記憶を持っているということは、その地域の歴史を知る貴重な手がかりとなり得ます。

 小松さんは、igokuの取材で、いわきの炭鉱についての声に触れ、グループホームでともに食事した高齢者からの体験談などから、その人の歴史を紐解く中で、次に投稿したツイートに「そこから地域の歴史が見えてくるし、その行為が絶妙に『福祉的』な行いになっている」と考察されています。

 その人の生い立ちを知ること、背景を知ることは、その人の持っている歴史と時代背景・地域の背景を知ることにつながっていきます。このツイートにも、「彼ら高齢者の歴史は、『おじいちゃんの昔話』で終わるには勿体なさすぎる」「酒造りが盛んな地域の施設に話を聞きに行ったら、その人が後から結構有名な杜氏だったことがあった」など、各地でその地域の文化や民俗に触れ、大切に思う人が反応しています。

 筆者は名古屋市の南部で数年間、老人施設の看護師を勤めていました。その時やっぱり感じたのが、「戦争の体験の重さ」「その時代に起こった災害の悲惨さ」などでした。当時80代の女性からは、「伊勢湾台風」の時の被害の大きさを物語り、90代の男性からは南方戦線に赴いて帰還するまでの話をよく聞かされたものでした。また、高度経済成長期には公害による気管支ぜんそくの患者も多く、訴訟の先陣を切っていた人も。

 こうした地域の、時代背景に関する生の声を聞くことは、その当時の歴史やそこにつながる文化・民俗学のひとつとなり得えます。こうした歴史の積み重ねがあって、今がある……。戦争体験を忘れない大切さは、その当時の大きな被害や悲惨さを現代に繰り返さないようにするために必要なことです。各地で起こった災害や公害なども、やはり同じ過ちを繰り返さないように語り継いでいく必要があります。

 そして、その大きな出来事のはざまにある、今は行われなくなった伝統行事や、祭りなど、ひっそりと姿を消しつつある当時の文化も、やはり民俗学のひとつとして研究・編さんされていかないと、いずれどこにも記録されないまま消えて行ってしまいます。

 認知症の介護には、その人の過去を紐解くことが介護に大きなヒントをもたらしてくれます。一人一人の歴史の背景を読み取ることで、その人の思いや気持ちに添った介護ができます。そして、その背景から得られる数々のものは、その地域にしかない、消え行く文化や歴史を後世につないでいくことにつながります。その時代の証言者の声を聞き、形として残していくことも大事なのではないでしょうか。

<記事化協力>
小松 理虔さん(@riken_komatsu)

(梓川みいな / 正看護師)