おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

NASA 未開封だったアポロ17号の月面サンプルをついに開封

update:

 人類初の有人月探査計画だったアメリカのアポロ計画。6回の月面探査で数多くのサンプルを地球に持ち帰ってきましたが、中には未開封のものも。再び月を目指すアルテミス計画を前に、そのうちの1つが2019年11月5日(現地時間)研究者によって開封されました。

  •  開封されたサンプルは、1972年12月7日に打ち上げられたアポロ17号のもの。アポロ計画唯一のサターンVロケット夜間打ち上げで、しかも月着陸船パイロットのハリソン・シュミット氏は、アポロ計画に参加した宇宙飛行士の中で唯一の地質学者という、非常に学術的な期待をかけられたミッションでした。


     アポロ17号が着陸したのは、月のタウルス・リットロウ渓谷。アポロ14号と15号が着陸した「雨の海」から十分離れており、雨の海を形成した巨大隕石の衝突による影響を受けていない、より古い時代の岩石や土壌のサンプルを持ち帰ることが目的でした。また、宇宙放射線が生物に与える影響を調べるため、5匹のマウスも司令船に載せて月への往復を行っています。

     アポロ17号のコマンダー、ユージン・サーナン宇宙飛行士とハリソン・シュミット宇宙飛行士は、月面で3回、計22時間3分57秒の船外活動を行い、月面車でのべ30km以上を走破しました。採集したサンプルはアポロ計画最多の約110kg。これと合わせ、月面での船外活動時間、月周回の回数も有人での最長・最多記録となっています。



     アメリカが再び有人で月を目指すアルテミス計画を前に、今回初めて開封されたのは、サンプル番号「73001」と「73002」というもの。サーナン宇宙飛行士が月面をボーリング調査した際に採取した、約60cm分の地層サンプルです。


     このサンプルが選ばれたのは、アルテミス計画において、どのような形でサンプルを採取したらいいのか、という方法を検討するため。特にこのサンプルは、タウルス・リットロウ渓谷で起きた地滑りの様子を解き明かす手がかりになる可能性があります。大気のない星で地滑りが起きると、どのようなものになるのかを地層の成り立ちから推測するというわけです。

     地球帰還以降、真空パックされて保管されてきた「73001」と「73002」のうち、まず73002が11月5日にテキサス州ヒューストンのジョンソン宇宙センターで開封され、テキサス・オースチン大学のX線CT装置で内部の3Dモデルが生成されました。

     NASAが公開した画像では、1974年に撮影された73002のX線画像と、今回作成されたX線CT画像が上下に並べて示されていますが、1974年撮影時にはボンヤリとしか写らなかった内部の土壌サンプルが、今回は粒状まで鮮明に描写されています。45年間の技術革新を象徴するかのようです。

     開封されたサンプル73002は、酸化などの反応が起こらないよう、乾燥した純粋窒素が満たされた容器に移され、中身が取り出されました。これを4分の1インチ(6.35mm)ごとに分け、内容物を詳しく分析していきます。

     これを担当するNASAのチャリス・クライシャー教授は「私はアポロ計画の話を聞いて育ち、それを追いかけるように宇宙に関するキャリアを積み重ねてきました。今ここで、次世代の月計画に貢献する研究ができる機会に恵まれています。このサンプル開封の一員になれて、非常な名誉であるとともに、責任の重さを感じています。私たちは歴史そのものに触れているわけですから」と、今回の研究に携わる気持ちを語っています。

     サンプル73002に続いて、2020年の初め頃にはサンプル73001も開封される予定。アポロ以来およそ半世紀の時を経て、ようやく開封されたサンプルは、研究者にどんな発見をもたらしてくれるのでしょうか。

     ちなみにNASAによると、月面車導入で行動範囲が増えたアポロ15号〜17号はサンプル採集量が非常に多く、今回開封されるアポロ17号のサンプル73001、73002以外にも、まだたくさんの未開封サンプルがあるとのこと。これらは今回のように、技術が発達した未来に詳しく調査できるよう保管されているのだとか。

     アポロの遺産と、2024年以降にもたらされるアルテミス計画でのサンプル。現代の研究者だけでなく、未来の研究者にも提供され、月の謎を解き明かす材料となっていきます。

    <出典・引用>
    NASA プレスリリース
    Image:NASA

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • アポロちゃんファンに朗報 「アポロ」発売55周年で初のぬいぐるみ化
    商品・物販, 経済

    アポロちゃんファンに朗報 「アポロ」発売55周年で初のぬいぐるみ化

  • サンマルクカフェ、明治「アポロ」とのコラボメニュー発売
    商品・物販, 経済

    サンマルクカフェ、明治「アポロ」とのコラボメニュー発売

  • 画像提供:木林きききさん(@hageourzee)
    社会, 経済

    宇宙に飛ばして撮影 ブラックモンブランのパッケージには様々な想いが!

  • 「地球の歩き方」と漫画「宇宙兄弟」がコラボ!物語の舞台をめぐりながら地球や宇宙をトラベル
    商品・物販, 経済

    「地球の歩き方」と漫画「宇宙兄弟」がコラボ!物語の舞台をめぐりながら地球や宇宙を…

  • 2700円であなたも月の土地オーナーに?分譲中の月の土地を1エーカー買ってみた
    宇宙・航空

    2700円であなたも月の土地オーナーに?分譲中の月の土地を1エーカー買ってみた

  • 窓の外に地球が見える!宇宙旅行気分が味わえる丸窓液晶ディスプレイに注目
    インターネット, びっくり・驚き

    窓の外に地球が見える!宇宙旅行気分が味わえる丸窓液晶ディスプレイに注目

  • 定番チョコ菓子「アポロ」の反抗期?気合いでツンツンに尖ってくんで夜露死苦
    インターネット, おもしろ

    定番チョコ菓子「アポロ」の反抗期?気合いでツンツンに尖ってくんで夜露死苦

  • 変形型月面ロボット「SORA-Q」
    商品・物販, 経済

    変形型月面ロボット「SORA-Q」を玩具で再現 「宇宙兄弟」モデルも

  • 新しい月面用宇宙服「AxEMU」(画像:アクシオム・スペース)
    宇宙・航空

    NASAの新しい月面用宇宙服お披露目 民間企業が開発

  • JAXA山川理事長らが出席した記者会見の様子(JAXA公式YouTubeチャンネルよりスクリーンショット)
    宇宙・航空

    H3ロケット試験機1号機の「指令破壊」何があった?

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 例のあの和菓子、都道府県別の呼び方
    社会, 雑学

    全国で呼び名はどう違う?「今川焼」が19エリア制覇 ニチレイが“勢力図”を公開

  • 楽天モバイル、シニア向けに「オレオレ詐欺対策保険」を無料提供開始
    企業・サービス, 経済

    楽天モバイル、シニア向けに「オレオレ詐欺対策保険」を無料提供開始

  • Francfrancの「ビッグマックスープジャー」入り マクドナルド福袋2026が抽選受付スタート
    商品・物販, 経済

    Francfrancの「ビッグマックスープジャー」入り マクドナルド福袋2026…

  • チャコットが初の「ポケモン」コレクション発売へ 2026年1月23日スタート
    ゲーム, ホビー・グッズ

    チャコットが初の「ポケモン」コレクション発売へ 2026年1月23日スタート

  • 静岡新球団で何が起きているのか ハヤテ223とくふうHDがネーミングライツ巡り対立
    企業・サービス, 経済

    静岡新球団で何が起きているのか ハヤテ223とくふうHDがネーミングライツ巡り対…

  • カルビー「超薄切り」シリーズに冬限定“しあわせバタ~”登場 12月8日発売
    商品・物販, 経済

    カルビー「超薄切り」シリーズに冬限定“しあわせバタ~”登場 12月8日発売

  • トピックス

    1. 運営者の終活で老舗CGIサイトが終了へ 1995年開設「CGI RESCUE」、2026年3月に幕

      運営者の終活で老舗CGIサイトが終了へ 1995年開設「CGI RESCUE」、2026年3月に幕

      1995年から続く老舗CGI配布サイト「CGI RESCUE」が2026年3月末での終了を発表しまし…
    2. 違和感満載のサイケな銭湯でほっこり入浴 蒲田で開催「脳汁銭湯」体験レポート

      違和感満載のサイケな銭湯でほっこり入浴 蒲田で開催「脳汁銭湯」体験レポート

      旧き良き銭湯が異次元の入浴空間に変身するイベント「脳汁銭湯」が、11月26日から12月7日まで東京・…
    3. この涙は懐かしさ……なのか? 展示「あの職員室」で特大感情を揺さぶられたレポート

      この涙は懐かしさ……なのか? 展示「あの職員室」で特大感情を揺さぶられたレポート

      学生時代、入りたくても入れない「聖域」のような場所だった職員室。その風景を再現し、自由に探索できる展…

    編集部おすすめ

    1. 例のあの和菓子、都道府県別の呼び方

      全国で呼び名はどう違う?「今川焼」が19エリア制覇 ニチレイが“勢力図”を公開

      全国で呼び名が分かれる“中に具材を入れて焼いた円形の厚焼き和菓子”について、株式会社ニチレイフーズが47都道府県別に最も多く使われている呼称…
    2. セブン×ちいかわ「鬼辛カレー」を実食!全身が真っ赤に染まるのも納得の辛さ

      セブン×ちいかわ「鬼辛カレー」を実食!全身が真っ赤に染まるのも納得の辛さ

      セブン‐イレブンで12月2日から始まった「ちいかわと冬をたのしんじゃお!」キャンペーンで、作中に登場した「鬼辛カレー」が発売中。原作で話題の…
    3. 楽天モバイル、シニア向けに「オレオレ詐欺対策保険」を無料提供開始

      楽天モバイル、シニア向けに「オレオレ詐欺対策保険」を無料提供開始

      楽天モバイルと楽天損害保険は12月1日、「最強シニアプログラム」を強化し、オプションパック「15分かけ放題&安心パック」加入者を対象とした「…
    4. 静岡新球団で何が起きているのか ハヤテ223とくふうHDがネーミングライツ巡り対立

      静岡新球団で何が起きているのか ハヤテ223とくふうHDがネーミングライツ巡り対立

      静岡県を拠点とし、プロ野球ウエスタン・リーグに参加している新球団「くふうハヤテベンチャーズ静岡」を巡り、ネーミングライツ契約を含む資本業務提…
    5. 事業者向け「ASKUL」Web注文、12月第1週に再開 “明日来る”配送は当面遅れる見込み

      事業者向け「ASKUL」Web注文、12月第1週に再開 “明日来る”配送は当面遅れる見込み

      アスクル株式会社は11月28日、10月19日に発生したランサムウェア攻撃によるシステム障害の復旧状況について第11報を公表しました。 事業所…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト