宮崎駿さんの「風の谷のナウシカ」を原作とした新作歌舞伎が、東京・新橋演舞場の12月公演で上演されています。その初日にナウシカの青い服をイメージし、帯にメーヴェが飛ぶ和装で観劇した方がいます。Twitterで話題となったご本人にお話をうかがいました。
宮崎駿さんの原作(全7巻)を7幕の歌舞伎に再構成し、昼・夜にわたる通し狂言として完全上演する新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」。人気俳優であり、シェイクスピア作品(NINAGAWA十二夜)など、歌舞伎の可能性を広げる意欲的な新作に取り組んでいる音羽屋の御曹司、尾上菊之助さんが、原作者の宮崎さんを口説き落として実現させたということもあり、発表時から大きな話題となりました。
その初日を前に、当日着ていく装いをTwitterに投稿したのは、着物を海外向けにECサイトで販売しているという銀座和叶(わかの)お太鼓スラリンさん(@wakanoakiko)。初日のチケットが運良く取れたのとのことで、帯に飛翔するメーヴェのシルエットをあしらった和装で観劇する、と写真入りでツイートしました。
「新作歌舞伎 風の谷のナウシカ」を
いよいよ明日観劇!初演の初日を運良く取れたので、
メーヴェ飛ばして行ってきます!#風の谷のナウシカ #ナウシカ歌舞伎 #歌舞伎 #kabuki #着物 #キモノ #kimono pic.twitter.com/sEocmKoTM1— 和叶(わかの)お太鼓スラリン@着物 (@wakanoakiko) December 5, 2019
ご本人にうかがうと、この帯はTシャツから作られているそうです。2010年8月に茨城県の国営ひたち海浜公園で開催された夏フェス「ROCK IN JAPAN FES. 2010」で、スタジオジブリとのコラボで販売された公式グッズのTシャツ(胸元にメーヴェで飛翔するナウシカのシルエットをあしらったもの)を元に、色味を合わせた雲の部分を「切嵌(きりばめ)」という手法で継ぎ足し作られています。切嵌は室町末期から安土桃山時代にかけて、当時渡来した高価な布地を使い、パッチワークのようにつなぎ合わせて小袖などを仕立てる手法として流行した歴史もあります。
この帯は、後ろの結び目部分と締める部分が分かれている「付け帯」という着付けが簡便なものになっており、サイズにかかわらず、きれいに柄の位置を合わせることができるようになっています。前帯の部分を締めたのち、背中側にお太鼓結びの部分を装着。帯締めで固定して完成です。
合わせる着物は、ナウシカの「青き衣」のイメージに近い、王蟲の血で染まった感じを出すため、リサイクルの作家物で、青いぼかし染めのものをチョイス。
帯締めも帯の色味に合わせて、白と青のもの。帯揚げは雲のイメージとともに、淡い青の系統で統一すると全体がぼやけてしまうので、白地に濃い紫の絞染で印象を引き締めています。
ほかにもゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズのスライムをモチーフにした帯などをお持ちなのですが、これらは全て、公式グッズを元にコーディネートしているとのこと。帯のほとんどは今作と同じくTシャツから作られているそうです。
好きな作品に対し「できる限りオリジナルへの敬意を払ってコーディネートし、『着用させていただいている』という気持ちで着ている」という、銀座和叶お太鼓スラリンさん。気をつけている点として「着物を知らない方にも分かりやすく、私にとっての好きな作品やチームなどへのリスペクトを表現するファンアートとしての着物だと考えて、コーディネートしております」と、丁寧に答えてくださいました。
着物というと、価格が高い、着付けが大変といった感じで、敷居の高さを感じる方も多いと思いますが、たとえば明治~昭和初期に広く流行した「銘仙」というタイプの着物であれば、ポップでモダンな柄もあり、普段着として使われていたので、価格面でもリサイクル品はお手頃価格だったりします。
着物に親しみを持ってもらいたい、というファンアートとしての着物は、歌舞伎を伝統的なものに留めず、新たな人に興味を持ってもらいたい、という、菊之助さんが新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」にかける想いとも共鳴しているように感じます。
公演中の不慮の事故で負傷し、12月8日夜の部を休演することになった菊之助さんは、12月9日から公演に復帰しています。チケットは当日券が若干枚数を先着順で販売されるほか、2020年2月には全国の映画館でディレイビューイングが行われるとのこと。舞台、もしくはスクリーンで堪能してみたいものです。
<記事化協力>
銀座和叶(わかの)お太鼓スラリンさん(@wakanoakiko)
(咲村珠樹)