修悦体(しゅうえつたい)というのをご存知でしょうか。修悦体とは、布テープを使用して文字を表現した書体のことで、考案者である佐藤修悦氏から名前が取られています。丸みがかった独特のフォントが特徴で、SNS上でも度々話題になるのですが、それをクッキーで再現したものが、先日Twitterで話題となりました。

 「新宿駅の修悦体サインクッキー」

 Twitterユーザーのhacoさんが、9月のある日に自身のTwitterに投稿したつぶやき。一体どんなクッキーかというと、そこにはクッキー生地の上に、「新宿駅」「中央東口」「左側通行」「立入禁止」などの文字や、三角コーンや矢印や数字といったものが記されたいわゆる「アイシングクッキー」。

 察しのいい方はお気づきかもしれませんが、このクッキーのモデルとなったのは、JR新宿駅構内にある案内表示。冒頭で紹介した「修悦体」でデザインされたそれらを、投稿者のhacoさんがクッキーで再現したものなんです。

 実はhacoさんは、サイケデリックでキュートなスイーツを制作する「psychedelic sweets spica」として活動されています。そして、駅の矢印や古い建物の写真を撮るのが好きで、ウェブサイトEcoDecoでは秀和レジデンスのコラムを連載。「いいビルの世界 東京ハンサムイースト」(大福書林)にも共同執筆で参加しています。

 こうして集めた駅の気になる矢印や看板の写真をもとに、それらをクッキーで再現。さらに自身のTwitterにて紹介しては、話題となっています。

 そんなhacoさんが、今回作成した「新宿駅の修悦体サインクッキー」も、実際に新宿駅構内にある“オリジナル”と見比べても、物の見事に再現された逸品となっています。

 修悦体との出会いは先述した撮影の中で知ったというhacoさんですが、今回作ったのにはとある理由があったからなんだそう。

 「JR新宿駅の西口と東口を繋ぐ連絡通路が開通したため、今まで活躍していた修悦体の案内表示はどんどん撤去されています。わたしは以前から修悦体の文字が好きで、全て撤去される前に記憶に残したいと思い、クッキーにしてみました」

 と、hacoさんが語るように、JR新宿駅は2020年7月より「東西自由通路」と呼ばれる、改札を通らずに済む連絡通路の共用を開始。これにより、上京初心者殺しの「巨大迷路」とも呼ばれ、利用者を大いに悩ませた「新宿東口」と「新宿西口」の行き来が飛躍的に改善されたわけですが、一方で、これまで往来の際に「目印」として活躍していた「修悦体案内表示」は、お役御免とばかりに次々と撤去されてしまいました。

 そして、実は修悦体は、2003年〜2004年に行われたJR新宿駅の部分改築工事の際、警備員として誘導係を担っていた冒頭の佐藤修悦氏が、当時は「巨大迷路」だったJR新宿駅のせめてもの混雑緩和にと、手元にあったガムテープを用いて「案内表示」として作られたのがきっかけ。JR新宿駅は、修悦体のいわば「原点」ともいえる場所なんです。

 今回の撤去には、修悦体ファンであるhacoさんも大変残念だったそうで、せめてもの思い出にと、既に撤去されてしまった「中央東口」「東口」「階段」のサインも含めて制作。アーモンドパウダーを入れたクッキー生地に、粉砂糖・乾燥卵白・水・アイシングカラー(食用色素)で作ったアイシングで、文字・矢印・三角コーンを表現したというそれは、まさに「psychedelic sweets」と呼ぶにふさわしいものとなっています。


 hacoさんの思いが込められたツイートには、多くの方が反応。1万を超えるいいねと共に、佐藤修悦氏が個展を開く際に、材料となるテープ類を提供している「マクセル公式Twitter」も思わず反応し、大きな反響を呼びました。

<記事化協力>
hacoさん(Twitter:@haco_8_5 / Instagram:spica.__)

(向山純平)