ロシアの国営企業集団ロステックは、ロシアのグレンジークで開催された水上航空シンポジウム「Hydroaviasalon」で、世界中で発生する山火事に対して素早く国際貢献できるよう、消防飛行艇Be-200の飛行隊を常設することを提案しました。これの実現には、国営企業の財産を商業利用可能とする法改正も必要になるとしています。

 ロシア南部の黒海に面したグレンジークで、2年に1回開催されている国際的な水上航空のシンポジウム「Hydroaviasalon」。水上機の技術的革新や、水上機の活用法に関して様々な発表があるほか、実機の展示や商談も行われます。

 新型コロナウイルス禍という状況により、シンポジウムのみに規模を縮小して開催された2020年の「Hydroaviasalon」。消防飛行艇の国際貢献が議題となったセッションで、ロステックのゼネラルディレクター、セルゲイ・チェメゾフ氏から国際貢献目的の消防飛行隊設立が提案されました。

 水のある場所に着水し、素早く空中消火が可能な消防飛行艇は、山火事や大規模火災で大きなメリットがあります。しかし、いつ起こるか分からない大規模火災のため、高価な消防飛行艇を導入し、維持し続けるのは大きな負担。

 現状、消防飛行艇はロシアやイタリアなど、限られた国しか保有しておらず、ほかの国は山火事が発生した時に援護を要請するか、山火事シーズンだけパイロットや整備士などスタッフごとリースする形になっています。しかし、ただでさえ消防飛行艇とスタッフの数は少なく、全ての要望に応じられる状態にありません。

 この消防飛行隊は、ロステック傘下のUACが製造するベリエフBe-200飛行艇で構成されます。機材はロシア非常事態省(連邦民間防衛問題・非常事態・自然災害復旧省)からの退役機とし、非常事態省の機材を定期的に更新することでまかないます。

 これにより、Be-200は継続的に発注されることになり、製造コストも削減できます。近い将来、ロシア緊急事態省は初期型のBe-200を6機世代交代させる計画で、この際退役する6機を国内外の大規模火災に対応する消防飛行隊の機材として活用しよう、という訳です。

 ロステックのチェメゾフ氏は「山火事の被害が深刻な国々の多くは消防機を保有していませんが、シーズンに入るごとにロシアに対し、消防機の派遣を要請しています。しかし、消防機はロシア国内の山火事に対処することが優先されるため、常に派遣できる訳ではありません」と語り、国際貢献専門の消防飛行隊が必要だという見方を示しています。

 しかしこの実現には、Be-200がロシアの国営企業が保有する機材であることがネックになります。チェメゾフ氏は国営企業が保有する航空機を商業目的で使用できるよう、法改正が実現の前提になると語っています。

 2020年6月から、ロシアはトルコ政府の要請で消防飛行艇Be-200を派遣し、トルコ国内の山火事消火活動に従事していきました。消火のため出動した飛行時間は約500時間におよび、火災の延焼を防いでいます。

 トルコ派遣の実現には両国政府の協力が欠かせませんでしたが、どうしても外交交渉が関わるだけに、迅速な意思決定ができないのが難点。ロステックとしては、この手続きを簡素化し、必要な時に素早く消防飛行艇を派遣できるようにするというものです。

 国営企業が関わるだけに、ロシアの法改正が必要になる飛行艇による消防飛行隊ですが、このような枠組みができれば、助かる国々も多いと予想されます。日本の新明和US-2も消防機転用の風洞試験が実施されたことがあり、このような形で需要を喚起する方法もあるのかもしれません。

<出典・引用>
ロステック ニュースリリース
Image:UAC

(咲村珠樹)