今はスマホでメッセージを飛ばせば、すぐに本人と連絡がつく時代。告白も別れ話もメッセで済むようになりましたが、スマホはおろか、携帯電話も一般的でなかった昭和から平成初期にかけては、相手の家に電話をかける必要がありました。本人以外の家族が出た時には変に緊張したり……。そんな時代を振り返ってみましょう。

■「電話」といえば「家電」の時代

 今でこそ「電話する」といった場合には、各自が持つスマホなど携帯電話を指すようになりましたが、個人に携帯電話が普及するきっかけとなったのが、1991年の超小型携帯電話「ムーバ」シリーズの登場と、1993年に携帯電話の加入時に必要だった保証金制度の廃止。それまでは加入時に、4万円あまりの新規加入料と10万円の保証金が必要だったため、限られたセレブの持ち物でした。

携帯電話など移動体通信の変遷(総務省「情報通信白書」令和元年版より)

 さらに端末(電話機)はレンタル。これが現在のような「端末売り切り制」となったのは、アナログからデジタル携帯電話……いわゆる「2G」のサービスがスタートした後の1994年のことでした。

携帯電話基本料金の変遷(総務省「情報通信白書」令和元年版より)

 必然的に、この当時は「電話」といえば家庭にある固定電話(加入電話)か、街中や店先にある公衆電話を指していました。主要駅前には公衆電話ボックスが立ち並び、駅構内にも多数の公衆電話が設置されているのが普通の風景だったのです。

■ 緊張する「お父さんの壁」

 そんな時代ですから、友達や好きな人に電話をするといった時には、当然「家の電話」にかけることになります。運良く相手が出てくれればいいのですが、世の中そううまくはいかないもの。ご家族の誰かが電話をとってしまい、相手に取り次いでもらう……という手続きを経ることが多かったような気がします。

 この時、誰が電話をとって取り次いでくれるか、というのも大きな問題。理解のあるお母さんとかならいいのですが、女の子の家にかけて弟さんがとった場合、取り次ぐ際に「お姉ちゃーん、なんか男の人から電話」なんて大声で言われた日には、肝を冷やしたもんです。

 逆に女の子からかかってきた電話を家族に取り次いでもらい、通話が終わったところで「あの子、どういう子?彼女?」なんて余計な詮索をされる場合だってあります。

 その中でも最難関なのが、かける相手が女の子の場合の「お父さんの壁」でしょう。ただでさえ「大人の男の人」という点で緊張を強いられる上に、先方から「娘とはどういったご関係で?」なんて聞かれると、後ろ暗くはないのに悪いことをしているように気になったりして……。

■ どうやって相手に直接電話をとってもらう?

 家族に電話をとられてしまうリスクを回避するため、当時は様々な手法がありました。電話機のコード(ローゼットと繋がっている方)を長くしておき、自分の部屋に引き込んでしまう、というのは分かりやすい手段ですが、相手が電話してくるタイミングで家族が電話中だと使えません。コードレス電話機が普及すると、この方法が多くなったような気がします。

 電話する時間を決めておく、というのも有効な方法。でも、その時に限ってほかの電話があったりして、時計を見ながら「あぁもう!早く電話切ってくれないとかかってきちゃう!」とハラハラした人も少なくないのでは。

 また、事前にサインを決めておく、という方法もありました。呼び出し音を1回だけ鳴らして、すぐ切ってしまう。そうすることで「電話にすぐ出られますよ」ということを知らせ、落ち着いて電話することができるというものですが、回数が頻繁だと「いたずら電話」と思われかねないというリスクもありました。

■ 寮生活の名物「電話の争奪戦」

 もしかしたら今でもあるかもしれませんが、大学や各種学校で寮生活を送っている場合、当時は各部屋に電話があるという環境ではなく、建物に備え付けられた公衆電話のみ、というケースがほとんどでした。みんなで共有している電話ですから、電話する順番を争うこともしばしば。

 電話の後ろに行列を作り、電話中に後ろから「早くしてー」なんて言われる環境だと、ラブラブな会話はできません。後で冷やかされますしね。また、長電話になるのを防ぐため「電話は○分以内」なんてルールがあったりもしました。

 込み入った話や、人に聞かれたくない話をしたい場合、寮の中ではなく外にある公衆電話で……というのもありました。でも、近い場所のは同じことを考える先客がいたりして、少しずつ遠くの公衆電話に移動していく羽目に。離れ過ぎてしまうと、今度は寮の門限が気になったりするんですよね。

 直接本人にメッセが送れる今となっては、こんな苦労をしなくていいことは進歩といえますが、その反面、あのスリルにも似た「電話の緊張感」というのも懐かしく思えてくる人も多いかも。今は今で、LINEのアカウントを教えてもらうのがハードルになったり、それなりに難しさというのはついて回るのかもしれませんね。

<参考>
総務省 令和元年版「情報通信白書」

(咲村珠樹)