イカは軟体動物で、本来ならば骨は存在しないもの。でも、もし骨があったとしたら、こんな骨格なのかもしれない……というほど精巧な「イカの骨格標本」がTwitterに投稿され、話題となっています。作者に作品の詳細をうかがってみました。

 何も知らない人に見せたら「へぇ、イカってこういう骨格なのね」と信じ込んでしまいそうなリアルな骨格標本。これはグラスアート作家、増永元さんの作品「烏賊ノ骨」です。全長約30cmと、ほぼ実物のイカと同じ大きさ。

全長30cmとほぼ実物のイカと同じ大きさ(増永元さん提供)

 増永さんに話をうかがうと、この作品は普段のグラスアートではなく、3Dプリンタを使って4月に完成した作品とのこと。ちょうど2021年10月上旬にTwitterで「#骨の展覧会」というハッシュタグが注目を集め、これにあわせて再度投稿したものだそうです。

 モデルになったイカは、スルメイカやヤリイカといったツツイカ目のイカ。脚には手の指のような関節があり、エンペラと呼ばれるヒレ状の部分にも同じような構造の骨があります。

脚には指のような関節が(増永元さん提供)

 内臓が入っている外套膜の部分は、まるでカメの甲羅のような形。これについて増永さんは「イカの骨という無いはずのものをリアルに表現しようと考えて、一番イカの形と相性が良い海生の脊椎動物を探していたら、ウミガメに行きつきました」と語ってくれました。

 ウミガメは時に深く潜ることもあり、その甲羅は内臓を水圧から守るための構造になっています。外套膜の下にカメの甲羅のような骨格があるのは、いかにも「ありそう」な感じですが、増永さんはさらにひと捻り。

 この甲羅の骨格、モデルとなっているのは「白亜紀に存在した巨大なウミガメ、アーケロンの骨格を変形させて作りました。進化形態学的にリアリティを出すために、最小限の形状変化だけでイカの形にしています」と増永さん。

古代の巨大ウミガメから外套膜の骨格を発想(増永元さん提供)

 アーケロン(アルケロンとも)は白亜紀後期の約7500万年前に存在し、発掘された化石から推測される大きさは全長約4m、全幅約5mと、現在知られている中では最大のウミガメ。その甲羅は現在のウミガメのようなものではなく、肋骨を革状の皮膚や角質の板で覆った柔らかな構造なので、イカの外套膜に当てはめやすいといえます。

 頭の部分もアーケロンをもとに、イカの口(カラストンビ)から鳥類の頭骨を参考にしてイカらしく変形させたといいます。よく見ると、鼻の穴らしき部分もありますね。ここからロウトへとつながるのでしょうか。

3Dプリンタで出力したパーツ(増永元さん提供)
出力されたパーツ(増永元さん提供)

 まだまだ3Dプリントに関しては初心者、という増永さん。「3Dモデリングはアプリの使い方を調べながらの作業で、造形に1か月以上かかってしまいました」と試行錯誤を重ねながら、パーツごとの出力、表面処理、組み立てから彩色までトータルで2か月ほどで完成したといいます。

本物の骨と並べても遜色ないイカの骨格標本(増永元さん提供)

 ほかの動物の骨と一緒に並べると、まるで「かつて骨が存在した頃の古代イカ」という感じに見えてしまうイカの骨格標本。リアルなだけに、間違って覚えてしまう人が出てきそうですね。

<記事化協力>
増永元さん(@masunaga_gen)

(咲村珠樹)