おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

同じ「セーラー服」でもこれだけ違う!学生服メーカーが地方ごとの特色を解説

 ブレザーとともに、中学校や高校の女子制服で定番となっているセーラー服。フィクションの世界でも、学生の象徴としてよく登場します。その記号性の高さから、ブレザーに比べバリエーションが少ないように見えるセーラー服ですが、実は地方ごとにデザインの傾向が違うんです。学生服メーカーがその違いをTwitterで解説しました。

  •  地方ごとに異なるセーラー服のデザイン傾向について、ツイッターにイラスト付きで投稿したのは、株式会社明石スクールユニフォームカンパニー公式Twitterアカウント。多くの学生服メーカーが集まり「学生服の街」として知られる岡山県倉敷市で、昭和初期から学生服を作り続けている会社です。主力ブランド「富士ヨット学生服」は特に有名。

     いわゆる「学ラン」と呼ばれる詰襟学生服やセーラー服は、軍服をもとにしてデザインされています。詰襟は海軍士官の黒い冬用制服、そしてセーラー服は水兵(セーラー)の着用する服にスカートを合わせたもの。

     詰襟はディティールが少ない分、あまり地方によって違いは見られません。しかしセーラー服は、その特徴である大きな襟(セーラーカラー)の大きさや形に、地方ごとに様々な形があるのです。

     たとえば、東京を中心とする関東地方(関東襟)では、襟の幅は肩幅より狭く、胸前に降りてくるラインも曲線的。また、左右の襟が交わる襟下はバストラインより高い位置にあることが多いといいます。大きく開いた胸元をカバーする胸当ては、あったりなかったりと学校によって違います。

    「関東襟」のセーラー服(株式会社明石スクールユニフォームカンパニー提供)

     同じように、胸前に降りてくるラインが曲線的な札幌周辺(札幌襟)では、襟の幅は肩幅いっぱいまであり、襟下はかなり浅い傾向にあります。胸元が大きく開かないためか、胸当てはついていないようです。

    「札幌襟」のセーラー服(株式会社明石スクールユニフォームカンパニー提供)

     関西地方の学校に多く見られるタイプ(関西襟)は、肩幅まであるセーラーカラーが直線的なラインで胸元に降りていき、バストラインより少し低い位置に襟下がきます。胸元の開口部が大きいため、胸当ては必須アイテム。

    「関西襟」のセーラー服(株式会社明石スクールユニフォームカンパニー提供)

     最も特徴的なディティールなのが、名古屋周辺の学校で見られるタイプ(名古屋襟)。肩幅まである広い襟が直線的に降りていき、襟下は関西よりさらに低い位置(みぞおち付近)なので、深いV字が特徴。胸当てがなければ下着が完全に見えてしまうので、胸当ては必須です。

    「名古屋襟」のセーラー服(株式会社明石スクールユニフォームカンパニー提供)

     名古屋のセーラー服は、ちょっと上の世代の方ならばNHK名古屋放送局制作のテレビドラマ「中学生日記」でお馴染みかもしれません。名古屋の中学校では、この深いV字襟のセーラー服に小判型の名札を縫い付けるというのが定番のスタイルです。

     このような地方ごとの違い、普段は育った地域の制服しか目にすることがないため、一般の人は気づかないかもしれません。全国の学生服を手がけるメーカーならではの視点ですね。

     なぜ、このような地域ごとの違いが生まれたのか。Twitterの投稿では「恐らく、その土地の洋品店が昔から作っていたセーラー服を、当社を含む制服メーカーがパターン作成の際に参考にしたため当時の型がそのまま引き継がれ、現在まで地域によって似た傾向が出てきているのではないかと推測しています」と語られています。

     セーラー服が女学生の制服として採用された当時、服装は一斉に変わったわけではなく、旧来の袴姿から徐々に移行していきました。もちろん制服メーカーも存在せず、仕立て屋さんか、洋裁をやっている人に頼んで作ってもらうのが一般的。細かいデザインの規定もなく、かなり大まかな基準で「生徒それぞれのセーラー服」が学校を彩っていたのではないでしょうか。

     株式会社明石スクールユニフォームカンパニーのTwitter担当者さんに話をうかがうと「学生服業界に関わって、私自身が驚いたのが理由の1つです」と解説ツイートのきっかけを語ってくれました。なお、イラストは別のTwitter担当者さんが描いたもので、学生服文化が大好きで入社したという学生服愛のかたまりのような方なんだとか。

     担当者さんが驚いた、学生服の奥深さについてもうかがうと「入社以来、学生服業界に関わっていますが、生産の工程、学生服の種類・歴史・流通など1つとっても、今でも驚くことも多いです。今回の件も、セーラー服と一口に言っても様々な種類があることを以前知って、いつか発信したいと思っていました」とのこと。

     一見同じように見えるセーラー服ですが「襟の形・色、ラインの種類、首元の深さ、胸当ての有無、袖口の形状などなど……知れば知るほど深いんです。ずっと変わっていないと思われがちな制服ですが、実は様々な文化や歴史背景の影響を受けてきたものだなと感じています」との言葉も聞かれました。

     2022年1月に放送が予定されているテレビアニメ「明日ちゃんのセーラー服」のように、フィクションの世界では人気のセーラー服ですが、現実の世界では伝統校を除き、徐々に数を減らしています。この作品でも、実は学校の制服がセーラー服から変わっているという設定で、お母さんは事情を知らず、自身の後輩となる娘に当時と同じセーラー服を手作りして、主人公の明日小路にプレゼントしたもの。

     明石スクールユニフォームカンパニーさんでも「セーラー服を新規採用される学校はほぼありません。現在あるセーラー服をブレザーにモデルチェンジされる学校は多いのですが、ブレザーからセーラー服という例はないに等しいです」と、セーラー服の現状を明かしてくれました。上衣の胸元やウエスト部分が浮くため寒さ対策がしにくいのと、女子専用とのイメージが強く、多様性への対応がしにくいことも要素としてあるのかも知れませんね。

     ひょっとしたら将来、セーラー服が学生の象徴ではなくなってしまうかもしれません。しかし、ツイートで示された地域ごとの違いなど、これまで培われてきたセーラー服の歴史と文化は遺産として、何らかの形で残していきたいものです。

    <記事化協力>
    株式会社明石スクールユニフォームカンパニー(@akashi_suc)

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • ゴールデンボンバー、「出席番号ジェネレーター」を発表 新学期が不安な学生にエール?
    エンタメ, 芸能人

    ゴールデンボンバー、「出席番号ジェネレーター」を発表 新学期が不安な学生にエール…

  • N高グループが3校目の「R高等学校」を群馬県桐生市に開校
    社会, 経済

    N高グループが3校目の「R高等学校」を群馬県桐生市に開校 N高グループ校歌を久石…

  • 注目が集まるベネッセの通信制サポート校「Be 高等学院」 説明会で全容が明らかに
    企業・サービス, 経済

    「不登校」ではなく「否登校」が増加 時代の変化に対応するベネッセ通信制サポート校…

  • 吹奏楽部の中学生がいつのまにか足が速くなった理由(画像:イラストAC)
    インターネット, おもしろ

    継続は力なり?!吹奏楽部の中学生がいつのまにか足が速くなった理由に共感多数

  • 3月は卒業の季節
    インターネット, 雑学・コラム

    「卒業アルバム」いる?いらない? デジタル版もある今ドキ事情

  • 学級日誌のページいっぱいに描かれたクラスメイトの似顔絵(菅野湧己さん提供)
    インターネット, おもしろ

    当時の担任も腕前に驚愕 学級日誌に描かれた似顔絵の作者は藝大生

  • 今の小学校には視聴覚室がないらしい 様変わりする教育現場にびっくり
    インターネット, おもしろ

    小学生の疑問「視聴覚室ってなに」にびっくり 様変わりする教育現場

  • 部活の遠征で目立つ行動について語る現役駅員さんのツイート(スクリーンショット)
    インターネット, 社会・物議

    部活の遠征時における児童・生徒の移動 鉄道利用時のマナーを考える

  • PTA業務アウトソーシングサービス
    企業・サービス, 経済

    PTA業務を代行 近畿日本ツーリスト「PTA業務アウトソーシングサービス」開始

  • 画像提供:うさぎさんさん(@tanutanupudding)
    インターネット, 社会・物議

    生徒間のSNSトラブルや夜の保護者対応 中学教師の訴えに賛同の声

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく
    社会, 経済

    雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

  • 声優とAIの共存を模索 81プロデュースとイレブンラボが業務提携、オリジナルの声を守り多言語展開へ
    アニメ/マンガ, 声優

    声優とAIの共存を模索 81プロデュースとイレブンラボが業務提携、オリジナルの声…

  • Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行
    インターネット, サービス・テクノロジー

    Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

  • 駅ホームでの“撮り・録り”が危険に? JR東日本が注意喚起ポスターと動画を展開
    社会, 経済

    駅ホームでの“撮り・録り”が危険に? JR東日本が注意喚起ポスターと動画を展開

  • イベント「清水 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎祭」(清水駅前銀座商店街)
    エンタメ, 映画

    仲村トオルが清水に凱旋 映画「ビー・バップ・ハイスクール」40周年イベント開催

  • アクリルロゴディスプレイSounds PlayStation
    ゲーム, ホビー・グッズ

    あの起動音が再び 「アクリルロゴディスプレイSounds PlayStation…

  • トピックス

    1. Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Googleは12月16日、個人情報がダークウェブ上に流出していないかを確認できる「ダークウェブ レ…
    2. Gmailを受診している画面

      Gmailの仕様変更でPOP受信が終了 自分は対象?POP利用チェック

      Gmailの仕様変更により、外部メールを取り込むPOP受信機能が2026年1月より利用できなくなりま…
    3. イベント「清水 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎祭」(清水駅前銀座商店街)

      仲村トオルが清水に凱旋 映画「ビー・バップ・ハイスクール」40周年イベント開催

      映画「ビー・バップ・ハイスクール」(1985年)の劇場公開40周年を記念したイベント「清水 ビー・バ…

    編集部おすすめ

    1. 雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      国土交通省と気象庁は12月16日、雨や洪水などの危険を伝える「防災気象情報」について、2026年(令和8年)の大雨シーズンから新たな運用を始…
    2. コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      夏コミ名物、会場の熱気と参加者の汗が昇華して天井付近に発生するという伝説の現象「コミケ雲」。まさかそれを口にできる日が来るとは、誰が想像した…
    3. Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      情報処理推進機構(IPA)は12月10日、多くのウェブサービスで使われている開発技術に重大な問題が見つかり、国内でも悪用したとみられる攻撃が…
    4. ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライブ配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」で活動するライバーをサポートしている事務所4社が、所属ライバーの“退所後の活動”を不当にしばっ…
    5. パラマウントのプレスリリース

      まるで三角関係?Netflixと“婚約発表”したワーナーにパラマウントが求婚 関係を分かりやすく解説

      アメリカの映画製作・配給会社であるパラマウントが12月8日、同じくアメリカのメディア企業ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)を1株…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト