新型コロナウイルス禍の影響で、多くの自治体で2020年以来となった成人式。新成人は思い思いの晴れ着を着て出席していましたが、その中に自分で染めた反物で振袖を仕立て、出席した方がいました。

 自ら染めた振袖の出来栄えに、同じ新成人だけでなく色々な方から褒められた、という鶴居夕さん。どのようにして作られたのか、話をうかがいました。

 着物作りやデザインを学ぶ専門学校生の鶴居さん。学校のカリキュラムの中で振袖を制作できることを知っていたため、前年度に入学した時点からデザインなどの構想をあたためていたといいます。

 2021年4月、振袖用にと友禅の先生が見立てて持ってきてくれた白反(染める前の反物)から、波の地紋があるものをセレクト。具体的に染める反物を手にしたことで、改めてデザインを練り直し「もともと生き物や鳥が好きなのもあって、海鳥の群れを描こうと決めました」と語ります。

波の地紋がある白反(鶴居夕さん提供)
デザイン原案(鶴居夕さん提供)

 波の地紋ということもあり、地色は海の鮮やかな青にすることは決めていた、という鶴居さん。青に映える白い海鳥を探したところ、ベニアジサシが目に留まったとのことで、この鳥を金彩で描く友禅染にしたといいます。

金彩で描いていく(鶴居夕さん提供)
鳥を描き終わった様子(鶴居夕さん提供)

 全体のトーンも青を中心としており、裏地にあたる八掛は、氷染という技法でムラのある仕上がりに。長襦袢も紫がかった濃い紺色に無地染したそうです。

八掛の生地(鶴居夕さん提供)
氷染の様子(鶴居夕さん提供)

 氷染はクシャクシャとまとめて縛った生地に氷を置き、そこに染料をつけ氷の溶けるままに任せて染める技法。にじんだ染め上がりがとても幻想的な印象です。

ムラに染め上がる(鶴居夕さん提供)
表地と合わせた様子(鶴居夕さん提供)

 ほかの授業や作品制作と並行し、少しずつ進めていったという染色作業。12月の初めにようやく染め上がり、同じ専門学校の和裁科に仕立てをお願いしたそうです。

表地を染める(鶴居夕さん提供)
グラデーションで染めていく(鶴居夕さん提供)

 こうして出来上がった振袖。鶴居さんは「相談に乗ってくれた先生方や、ギリギリだったのに素晴らしく仕立ててくれた和裁科の皆さんのおかげで完成できました」と、自分だけの力ではなく、多くの協力のもとに実現したことを強調しています。

染め上がった反物のアップ(鶴居夕さん提供)

 「お母さんからは学生作品だから正直あまり期待していなかったけど、想像以上の出来でよく似合っていると言ってもらえました!」と喜ぶ鶴居さん。同級生にも「これ自分で染めたの」と明かすと、皆びっくりしていたそうです。

 振袖に合わせた帯は、遠方に住むおばあさまが贈ってくれたものとのこと。「まだ直接振袖姿を見せられていないので、新型コロナウイルス禍が収まったら、振袖一式着て祖母に会いに行こうと思います!」鶴居さんは、その時が来るのを待ち遠しい様子です。

<記事化協力>
鶴居夕さん(@Tsurui_yu)

(咲村珠樹)