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第1次南極観測の興奮を再現 南極観測船「宗谷」の出航ジオラマ

 1956年に始まった日本の南極観測。最初の南極観測船となった宗谷は、その数奇な船歴もあってよく知られ、現在は東京にある船の科学館(本館は展示休止中)で保存されています。

 モデラーのシン・マツナガさんは、第1次南極観測隊の出発をモチーフに、東京の晴海埠頭を離れる宗谷の姿をジオラマ化。集まった群衆の表現が、当時の興奮を物語ります。

  •  ジオラマ作者のシン・マツナガさんは小学生時代のガンプラブームで模型作りを始め、中学生以降の中断期を挟んで大人になってからは350分の1スケールの艦船模型を中心に制作しているというモデラー。模型作りを再開して18年、ジオラマ制作歴は6年ほどになるといいます。

    ジオラマ「南へ 〜1956.11.8〜」の全景(シン・マツナガさん提供)

     今回のジオラマ制作のきっかけとなったのは、ハセガワ製の「宗谷」350分の1キット(フルハルモデル)を手にしたことから。もともと特殊な用途の船に関心があったそうで、宗谷について調べていたところ、第1次南極観測隊が出発する際の報道写真やニュース映画に映る見送りの人々の多さに感銘を受けたのだとか。

    ヘリコプター甲板で手を振る乗組員(シン・マツナガさん提供)

     宗谷は旧ソ連からの発注を受けて長崎で起工されましたが、日中戦争の激化により引き渡しが認められなくなり日本の船会社が運航。その後海軍に徴傭されて特務艦として戦争を生き延びたのち、海上保安庁の灯台補給船を経て南極観測船となりました。

     たび重なる用途変更にともなう改修で、それ以降の南極観測船とは違ったディティールを持つ宗谷。350分の1スケールという大きさも、艦船のウォーターラインモデルでポピュラーな700分の1スケールに比べ、細かいディティール表現が可能という点で、マツナガさんにとって魅力なのだそうです。

     また、水面から上の部分だけを再現したウォーターラインモデルではなく、底の部分まで再現したフルハルモデル(「ハル」は「船体」の意味)を使っているのも、こだわりのひとつ。

     「以前から、自分の考えとして、船の船体の曲面は非常に美しいと感じているので、艦船模型を作る時は必ずフルハルで船の本来の姿を見てほしいと考えています。なので、作品を横から見た時に海面上と海中の両方が見えるように意識して作っています」

     宗谷のディティール表現では、金属板によるエッチングパーツを使わず、金属線などで自作しています。その理由については「エッチングだと平面なので、たとえば手摺なども板状になってしまい、自分としては違和感を感じるため、多少オーバースケールになりますが、金属線で自作をしています」とのこと。

    宗谷のディティール(シン・マツナガさん提供)

     船底まであるフルハルモデルを使っていることもあり、ジオラマでは喫水線下の海中も表現。いつも海洋生物を配置しているそうで、今回はウミガメが泳ぐ姿を確認できます。

     「今回の宗谷では、より海中が透けて見えるように、海面に使ったアクリル板への塗装を薄めにしてみました。また、作品手前は薄めに、奥にいくほど色を濃くなるように意識し、海中での色の濃さを表現してみました」

    海中にはウミガメ(シン・マツナガさん提供)

     この1956年11月8日の出航風景を再現したジオラマでは、晴海埠頭に詰めかけた群衆がもうひとつの主役といえる存在。岸壁にいる海上保安庁の職員や観測隊関係者、中継車ややぐらの上にカメラを設置して撮影するテレビ局など、さまざまな動きが見られます。

    テレビ局の中継(シン・マツナガさん提供)

     群衆の雰囲気表現で気をつけた点は「昭和感」とのこと。時代背景を考え、人々の服装や人々の動きなどを考え、ひとつの場面でさまざまな見方ができるようになっています。

     「当時の写真などにも写っていたのですが、見送りのために電柱に登っていたり、ドラム缶の上に乗ったり、積み上げた木材の上に並んだりして見送っている人々がいました。そういった無秩序のような感じが古き良き昭和のように感じ、そういった部分を再現してみました」 

     出発の興奮は、紅白幕で仕切られた出発式の会場だけにとどまりません。会場に入れない一般の人々も、宗谷の出航を一目見ようと積んである材木の上やトラックの荷台、荷役場の屋根に登っています。

    会場外から見守る人々(シン・マツナガさん提供)

     中には電柱によじ登って見ている人の姿も。当時、晴海埠頭には1万人以上が詰め掛けたといいますから、一大イベントであったことがうかがえます。

    電柱によじ登って見ている人の姿も(シン・マツナガさん提供)

     群衆が詰めかけている様子を出すため、人物フィギュアの配置も考え抜かれています。安易に整列させることなく、あえてバラバラに配置して密度にムラを生じさせることにより、人々の動きが想像できるものになりました。

     「今回のジオラマでは全ての人が宗谷に視線を向けているように配置を心がけました。なので、奥の人は少し左に体を向け、手前の人は少し右に体を向けるようにしています。ぱっと見分かりにくいですが、何もない方向に体を向けているのは不自然だと思うので、意識してみました」

    岸壁に集まった群衆の目線は宗谷に注がれている(シン・マツナガさん提供)

     これだけ多くのフィギュアでも、それぞれ考え抜かれて配置され、まさに訳語である「情景模型」となっている作品。マツナガさんに一推しの部分をうかがうと、次のように答えてくれました。

     「宗谷の船首に乗組員が立って見送りに答え、岸壁では海上保安庁の隊員が『帽振れ』で見送っている部分が気に入っています」

     ちょうど船首が接岸していた岸壁の突端部分に、黒い制服を着た海上保安庁の職員が整列して「帽振れ」で見送り、船首では袖章をつけた幹部の乗組員が同じく「帽振れ」で答礼をしています。ここだけは周囲の熱狂とは別に、任務の重みを実感させる雰囲気になっていますね。

    「帽振れ」を交わす岸壁の海上保安庁職員と乗組員(シン・マツナガさん提供)

     この宗谷出航を描いた作品「南へ 〜1956.11.8〜」は、2022年8月に開催された「第11回浜松ジオラマグランプリ」に出品され、最終エントリー56作品のうちから「タミヤ賞」に輝きました。総合得点でも5位に入賞したことに、とても驚いたといいます。

     「実は、この前の大会でも賞をいただいており(筆者註:護衛艦いせ一般公開を題材とした「『いせ』来港」で磯村克郎賞を受賞)、今回は前回以上に他の方の作品のレベルが高かったので、連続受賞は無理だろうと考えていたので、とても驚き、嬉しく思いました」

     これからの作品についてうかがうと、すでに次回作は完成しており、近々別のジオラマコンテストに出品予定とのこと。コンテスト作なので詳細については明らかにしてもらえませんでしたが、これからも350分の1スケールの艦船模型をメインとした作品作りを続けていく、と話してくれました。

     マツナガさんは三重県の模型サークル「伊勢フライングヴィーナス」と「MIEMO」に参加し、活動をしています。サークルの合同展示会などで作品を見る機会もありそうなので、Twitterでの情報発信に気をつけて見ておくと良いかもしれません。

    <記事化協力>
    シン・マツナガさん(@hakurou06r)

    (咲村珠樹)

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