1987年に販売開始されたポテトチップス「わさビーフ」を製造する「山芳製菓」といえば、東京都板橋区に本社を置き、2023年で創業70年を迎える老舗菓子メーカーです。
埼玉県春日部市にも事務所があり、どちらかといえば首都圏に所縁のある企業ですが、実は兵庫県朝来市に製造工場が存在します。さらにそこには、全世界のわさビーフファンが歓喜する「楽園」があります。
2023年1月某日。所用で朝来市内を車で運転中だった筆者。周囲は山・川・田な国道312号を走行している中、ふと見慣れぬ建物を目にします。
「こんなところにコンビニあったっけ?」外観は緑を基調としていますが、白と青がないのでファミリーマートではないようです。ん、なんか書いてるな、なになに「わさビーフのヤマヨシ直売所」とな……ってええええええ!?
なんとそこにあったのは、山芳製菓の直営店舗。なんでこんなところに……とは実のところ思ってはいません。何故かというと、それは近くにある建物が理由です。
実はこの国道312号線沿いには、山芳製菓関西工場が存在し、兵庫で生まれ育った筆者は以前より存じていました。もっとも、最初にそれを知ったのはほんの数年前の話で、当時はかなりびっくらこいたのは秘密です。
ただ、「兵庫っ子」だからこそ感じる驚きが別にありました。それは朝来という立地にあります。
この町は兵庫県でも北中部に位置しますが、人口は約3万人。150万人を超える県庁所在地の神戸市の50分の1程度です。
一方、朝来が属する「但馬」は、東京都の総面積に匹敵し、兵庫県全体の4分の1を占める広大な一帯。温泉街も存在し、夏は海水浴、冬はスキーが人気な観光地です。
「のどか」を具現化した地は、筆者(姫路)のような播州もんや、神戸などの阪神民とは気質もまるで別物。元々兵庫は5つの国から構成されたこともあり、かつてヨーロッパに存在した国を捩った「ヒョーゴスラビア」なんて俗称があるくらい、とにかくバラバラ。まあそれが、この地のおもろいところでもありますがね。
失礼、脱線しました。そういうわけで、いくら目と鼻の先に工場があるとはいえ、「わざわざこんなところで……」と感じたわけですが、このまま立ち去るのも興がそがれるというもの。
そして、2020年に初登場した際は大きな話題となった、わさビーフ公式キャラクター「わさぎゅ~」もデカデカとお出迎えしてくれているのです。折角なのでと訪問してみました。
■ 「出来立てわさビーフ」にビックリ!ほやほや半端ない
店内に入ってみると、そこには会社のショーケースをそのまま設置したような「展示コーナー」がありました。看板であるわさビーフは多めにスペースを取られています。「直売所」なのでどれも売り物です。
個人的にわさビーフといえば、牛のキャラクターモチーフの「わさっち」が相当に強いですが、かつてはそれを全面に出したパッケージもあったようです。時間を経て、徐々に“定位置”に移り、そしてバトンタッチしたのですね。ちなみに2023年は発売から35周年のメモリアルイヤーです。
そして、「地の利」を生かした「出来立てわさビーフ」の販売もなされていました。今回筆者が来店したのは2023年1月14日なのですが、直前製造のものが並べられていました。
実際どんなもんだろうと、2日前の1月12日製造「わさビーフ」を購入。帰宅して食べてみたのですが、これがもう別物でびっくり。「揚げ物」なポテトチップスですが、食感がふんわりしていたのです。パリっとした普段のそれとは異なる逸品に、かなりの衝撃を受けたことを文面ですがご報告いたします。ほやほや半端ないって!
■ なぜかあった「揚げ出し豆腐」
他にも山芳製菓が販売展開している種々のポテトチップスが置かれている中、それとは明らかに「異質」なものが陳列されていることに気づきます。
「なんやこれ……『大豆工房』?」
筆者が立ち止まった先にあったのは、どういうわけか「揚げ出し豆腐」。1パック200円(税込)で販売されていました。わさビーフのロゴがあるので、関連商品のようです。おや、その横にもロゴがありますね……「さとの雪」?実はこれ、徳島県に本社を置く大豆加工品メーカー・さとの雪食品株式会社が製造し、タレは山芳製菓監修の「わさビーフ風味」というコラボ品。
さとの雪といえば、スーパーでも多くの大豆加工品を納入しており、筆者も予め8個分にカットされた「鍋八」を愛用しています。
そしてここもまた、朝来に縁がある企業。これまた国道312号線沿いに、子会社である「大豆工房株式会社」の製造工場があります。そこでは、油揚げや厚揚げが主力製品で、その流れからきているようですね。
根っからの豆腐好きな筆者は、このご近所コラボに興味津々。出来立てわさビーフとともに購入することにしました。
余談ですが、朝来市は冬はかなりの積雪地帯になります。南部の海沿いにある神戸や姫路などで勘違いされがちですが、広大な兵庫は豪雪地帯も存在するほど、様々な自然の表情を有しています。本稿に興味を持ち、冬シーズンに来訪しようと考えられている方は、必ず冬用タイヤの着用をお願いいたします。
■ タレになってもわさビーフはうまかった
改めてパッケージを見てみると、とにかく目を引くわさビーフのロゴ。全体でももっともスペースを割いているほどですが、逆に言えばそれだけユーザーに伝えたい訴求ポイントともいえます。とはいえ、この商品はあくまでさとの雪が販売展開している「揚げ出し豆腐」に、山芳製菓のわさビーフをタイアップさせたものです。
そろそろ実食といきましょう。どうやらレンジ調理(500W:枠1分40秒)でイケるようです。この商品に限らずですが、最近は豆腐系の商品はラインナップの充実とともに、加熱は電子レンジでオッケーというものが増えましたね。ありがたい話です。フィルムをはがし、タレを取り出し、そのままトレーでレンチン。
温まったところで、タレを開封し溝部分に投入。独特のわさびの香りがツーンとしますね。これは期待できそうです。早速いただきましょうモグモグ。
こりゃあうまい!一口で「わさビーフ味や!」と分かるタレが実にいいですね。再現性の高さもですが、純然なソースとしてもハイクオリティです。筆者は長く食品関連の仕事に就いていたため実感しているのですが、「ソースで再現」というのは、製造工程のブレも大きいので、思っている以上にハードルが高いものです。本品にしても、かなりの試行錯誤があったはずです。2社の企業努力が伝わってきますね。
しかしこのタレはうまい。ホンマ遜色ないわ……って、あれれ~?こんなところにわさビーフがあるぞ~?折角なので……タレをつけてパクリ。
「お客様!!困ります!!あーっ!!」と叫ばれそうな組み合わせを実行してみた筆者。結果はというと……これはちょっとくどいかな。でも、サラダなどには合いそう。ドレッシングとしても、かなりのポテンシャルがありそうです。
というわけで、あっという間に完食。「おかず」「おつまみ」双方で意見が分かれそうな揚げ出し豆腐ですが、筆者個人としては本製品に関しては後者により可能性を感じました。
■ なぜ朝来だったのか
「身近なところに『ネタ』は転がっている」という、ライターの仕事を如実にあらわしたような本稿ですが、「そもそも何でここ(朝来)に工場があるんやろう?」という疑問を以前より抱いていた筆者。折角の機会なので、山芳製菓に聞いてみることにしました。
取材に応じてくれたお客様相談室の担当者によると、元々同社はお膝元である埼玉県にも工場がありましたが老朽化により閉鎖。現在は関西工場に集約しつつ、東日本エリアの不足分は、社外の生産工場に製造を委託しているとのことです。
そして、なぜ兵庫県朝来市だったのかというと、それは同地には新鮮な「水」が豊富にあったから。ポテトチップスは生産に大量の水が必要な事情もあり、そこから選定にいたったとのことです。
その話を聞いたとき、筆者はある企業が頭に浮かびました。それは水と小麦で作られ、サクサクした食感が特徴的な焼き菓子の「ぽんせん」を製造販売する「マルサ製菓」。同社もまた兵庫県朝来市にあり、そして国道312号線沿いに本社と製造工場があります。つまり、ヤマヨシとさとの雪は目と鼻の先にあるご近所さん。
ちなみにマルサ製菓は元々大阪府で創業。その後同じく豊かな水を求めて、今から30年以上前の1991年に移転しました。
自然豊かな朝来という地に、ルーツの異なるメーカーが1本の国道沿いに同じ理由で工場を構え、多くのファンに愛されるお菓子を製造し続けている。中々に趣深い話ではないでしょうか。
そんな朝来への地域貢献に繋げたいという想いから併設したのが、今回訪れた「直売所」でした。
残念ながら、筆者が今回食した揚げ出し豆腐は、一部報道によると近畿圏・四国・愛知県のスーパー、そして直売所でのみ販売。そして3月末で終売とのことです。
しかしそう遠くない未来、また朝来を盛り上げるような商品が登場する。私はそんな気がしてなりません。ごちそうさまでした。
全世界のわさビーフファンが泣いて喜ぶ夢の楽園が爆誕してた。 pic.twitter.com/6WR5XBz9si
— ハイブリッド・うさちゃん🐇 (@mjeynk37) January 14, 2023
<取材協力>
山芳製菓株式会社
(向山純平)