じめじめ体にまとわりつく猛暑。並大抵の対策では落ち着く気配がありません。この夏、いかに涼を感じるか……たとえば想像を超える灼熱サウナでととのえば、身の回りのあらゆる猛暑が涼しく感じるのでは?
東京・浅草橋で開催された「限界突破」サウナイベントを体験してきました。
■ 「完全招待制」のイベント
今回訪れたのは、JR総武線・都営浅草線の浅草橋駅前にある男性専用サウナ「Sancty(サンクティ)」。一般的なサウナに比べて高い温度のドライサウナをはじめ、滝行気分を味わえるシャワー、氷点下の冷気でととのえる冷却室など、洗練された設備で人気を集めています。
そんなSanctyで不定期に開催されているのが、「限界突破イベント」と銘打たれたイベント。「完全招待制」のもと、通常でも120度というハードコアな室温をさらに上げて、みんなで「限界の向こう側」を体験します。
イベントの舞台となるサウナ室の入り口では、荒々しい鉄筋の窓格子が取り付けられた漆黒の鉄扉がただならぬ雰囲気を醸しています。
ちなみに一般的なサウナの温度帯は、75~90度ほど。すでにこの時点で顔を赤らめるには十分ですが、今回はそこへ来て120度超え。水が沸騰する温度すら超えた室温の空間は、どんな眺めなのでしょうか。
今回特別に許可をいただき、撮影機材にも十分な配慮を行ったうえで「取材」を敢行。施設からいただいたお水をしっかり飲み、体調を整えて挑みます。
なお、筆者は「熱波師」としても活動をしています。このためサウナについては一般の方よりも知識と慣れがあり、「絶対に無理をしない」ことを守っています。加えて今回のイベントは、「完全招待制」であることから分かるとおり、一般の方にはむいていません。あくまで、記事を通じて120度超えのサウナをのぞき見て貰えたらと思います。無理はダメ、絶対ダメ。
■ 滞在時間は3分が限界!? 一挙手一投足が物理的に熱い124度の灼熱サウナ
4畳ほどのサウナ室に入るやいなや、自分の息がピリ辛になるのを感じます。足元には保護用にマットが敷かれていますが、そのマットがすでにホットプレートかというほどに熱い。うっかり座り込んだら瞬時に焼き土下座が完成してしまいそうです。
通路を挟んで左右には20名ほどが座れる上下2段の席があり、その奥にはマグマのごとく真っ赤に灯ったサウナストーンとヒーターが。一般家庭の空気清浄機くらいのコンパクトな見た目からは想像もつかないほどの熱波が放たれています。
気になる温度を見ると、124度! 水が沸騰する温度を超えています。果たしてこの中に何分滞在できるのか……。
普通のカメラだとシャッターが溶けて焼き付いてしまうおそれがあるため、スマートフォンを使って撮影します。それでも危険な温度にすぐ達してしまうので、冷やしたタオルと乾いたタオルを二重巻きにし、熱が伝わらないようにします。
滞在から1分経ったところで、すでに身体の表面はチリチリと焼けるような感覚。少しでも体を動かすだけで、突き刺すような灼熱感が襲います。結果、じっとしているのが一番ラクと判断。同室の人々も前かがみに身体を丸め、一言も発しません。
顔はゆでダコのようになり、毛穴という毛穴から汗が。ため息でもつこうものなら、その風圧で炎のような熱さを感じます。自分の息が炎に感じるなんて、まさにドラゴンになった気分。無表情すら貫くのが難しく、つねに顔が歪みます。
そのままじっと耐え忍ぶこと、しばらく。もう5分くらい入っているかな……と思って壁の時計を見ると、まだわずか2分しか経っていません。ここまで来ると、日常の悩みごとなんてカケラのごとし。なんとか生き抜かねば、という生存本能で脳が支配されます。
やがて体表の熱は痛みに変わり、もう限界……! 壁の時計を見るとようやく3分経ったところですが、これ以上はさすがにムリ!砂漠の砂のごとく熱を持ったサウナマットを「熱ッ! 熱ッ!」と火渡りの気分で駆け抜けます。
サウナ室のドアに手をかけましたが、ここで木のドアノブではなく、カンカンに熱を持った鉄扉の部分に触ってしまい、「熱ア!!」と思わず絶叫。あわててタオルを握りしめ、タオルでノブを押すようにして飛び出しました。
■ 灼熱がそのまま幸福に変わる「滝シャワー」と「-6度の冷却室」
Sanctyの素晴らしいところは、サウナ室のドアを開けるとすぐ真向かいにクールダウンゾーンが設けられているところ。滝シャワーと室温-6度の冷却室の2つで、灼熱の身体をリセットすることができます。
滝シャワーは2メートル近い高さから、水温20度ほどのちょうどいい冷たさの水が降り注ぎます。これには思わず目を閉じて「くぅ~」と声が漏れてしまう心地よさ。さきほどまでの地獄の熱さがみるみるリセットされていきます。
そしてお隣にある、-6度の冷却室。心を落ち着かせる効果があるとされる青色の照明に照らされた室内にはほのかにミントの香りが漂い、まるで森の中にいるような気分です。
身体に蓄えられた熱がもうもうとした湯気にかわるなか、目を閉じて賢者タイム。全身が「涼」で包まれると、不思議と「何も心配いらないな」という気持ちになってきます。こんなに気持ちいい体験ができるなら、あの灼熱空間にもう一度入ってもいいかな……。
そしてクールダウンゾーンから歩くこと数歩。高級扇風機からのそよ風を全身に感じられるととのいゾーンで身体を慣らします。
窓から流れてくる外気はじっとり湿って暑いものの、124度を経験した身にはぬるま湯のようにしか感じません。心頭滅却すれば火もまた涼し……。極端な暑さに極端な熱さをぶつけると、相対的に涼しく感じることを知りました。
■ 124度のサウナで真正面から突風を受ける……! 究極の向こう側が見える熱波
ここでスタッフの方から、サウナ室で熱波サービスを行うとのアナウンスが。チリチリに熱せられた124度のサウナの中で大きなうちわを使って風を起こし、それを浴びることができるといいます。
すっかり灼熱サウナのとりこになってしまった記者。入っている間はあれだけ辛かった熱さも、喉元をすぎるとふたたび体験してみたくなってしまうから不思議なものです。もちろん迷わず参加を希望。数分前に逃げ出してきたサウナ室へふたたび入りました。
先ほどよりも人数が増えたサウナ室。温度は変わらないはずなのに、先程に比べると若干楽に感じます。これは水分をたっぷりと含んだ人体が断熱材の役割をして、身体に届く熱が遮られていることによるもの。高温の中では、こんなふとした違いにも敏感になります。
熱波サービスの冒頭、スタッフさんが取り出したのは「キューゲル」と呼ばれる氷の玉。これをサウナヒーターに乗せて溶かし、サウナ室の空間に蒸気をプラスします。「シュー……」と音を立て、みるみる溶けるキューゲル。湿度上昇とともに、さらに体感温度が上がります。
上半身が隠れるほどの大きなうちわで風を送るスタッフさん。お客さん一人ひとりに回数をたずね、正面に向き合って風を送っていきます。漏れてくる風が肌にふれるだけで、思わず身をよじらせるほどの熱さ。不思議なことに誰も声を上げません。
「3回くらいが限界かな……」と思っていた記者ですが、周囲のお客さんは揃って「10回で」とリクエスト。「10回も!?」と思わずびっくりしていると、「ハハハ」とお客さんから笑い声が。負けん気に火がついて、10回をリクエストしました。
大ナタを振るうようなフォームでうちわを振り下ろすスタッフさん。一振りされるごとに体を切り裂くような熱波がやってきて、思わず「んゔッ」とうめき声が漏れてしまいます。
顔を歪めながらも、なんとか10回を完遂。「おかわりご希望の方~」というスタッフさんの声を背にサウナ室を飛び出し、冷却室に駆け込みました。
あぁ…… これです、これ。まさに緊張と緩和。2時間の体験期間中、4セットを体験して施設を後にしました。
■ 灼熱サウナを経験すると、猛暑すら涼しく感じる!?
施設の外に出て、いつもどおりの猛暑の中へ。でも不思議なことに、まったく辛さを感じません。あれほど汗びっしょりで歩いていたあの暑さはなんだったのか……。体が熱に慣れて、いちだんと猛暑に立ち向かう体にアップデートされた気分になりました。
もちろんこれはサウナに入った直後だからこそで、いわば体が錯覚した状態。今年も厳しい暑さが予想される中では水分補給なクーラーの活用など、対策が欠かせないことは言うまでもありません。
しかし、ほんの束の間でも、この猛暑を「涼しい」と感じられたことは大きな収穫。うだるような暑さには、サウナで「極端な暑さ」に触れて、相対的な体感温度を下げてみるというのも、ひとつの手かもしれません。
サウナを楽しむ際には、しっかりと体調を整えて、水分補給をこまめに。無理をせず楽しむことが重要です。
<取材協力>
浅草橋サウナSancty
(天谷窓大)