「うちの本棚」、今回は佐藤まさあき作品でも異色の女性主人公『銀猫』を取り上げます。『影男』や『堕靡泥の星』とは違う、女性主人公だから描けた佐藤まさあきのもうひとつの顔が垣間見れる作品です。
『影男』シリーズや『堕靡泥の星』といった作品で知られる通り、佐藤まさあきといえば男性主人公の作品が圧倒的に多いが、唯一の例外と言っていいのがこの『銀猫』である。
とはいえ自らを「銀の猫」と称する主人公・理沙は、スパイ組織で訓練を受けた後、組織を抜けて殺し屋となっているので、設定的には他の佐藤作品の主人公たちとあまり変わらないともいえる。
ただ、佐藤自身があとがきでも述べているように、男性主人公では描けなかったストーリーやキャラクターの心情といったものが描かれているのは確かだろう。
実際、女性主人公だからと感じられるストーリー展開も多く、同じ殺し屋として影男を当てていたらまったく違う結末になるだろうと思わせる。
また連載時読み切りのエピソードとして描かれていた点でも他の佐藤作品とは一線を画するのではないだろうか。
佐藤の作品では、松森 正や川崎三枝子といったアシスタントが女性キャラクターを担当していた。この作品の発表当時はすでに松森も独立していていたはずなのだが、松森カラーは女性キャラクターにその後も残っていて、本作では松森の『木曜日のリカ』を参考にしているのではないかと思われるフシがある。
特にカバーイラスト、口絵は明らかに『木曜日のリカ』のイメージだ。
女性が主人公であることからファンション面でも気をつかっていたようで、理沙の服装をシーンごとに変えていたりする。とはいえそのファッション感覚も松森の女性キャラクターに似ていたりするのだが(笑)。
第1話から殺し屋として登場する理沙だが、第4話でスパイ組織の一員として訓練された過去が語られる。どうやらスパイ時代のエピソードも[女スパイ編]として上梓されることになっていたようなのだが、残念ながら確認できていない(また本作は『セックスハンター』のタイトルで佐藤プロから再刊行されていたと記憶する)。
タイトルも印象的だし、読み切り連作でストーリーもまとまっているのだが、『影男』『堕靡泥の星』の影に隠れてしまって佐藤作品としてはあまり語られることがないのは非常に残念な作品といえる。[女スパイ編]が描かれていたのなら、ぜひ完全版として併せて再刊行してもらいたい作品だ。
書 名/銀猫[女殺し屋編] 著者名/佐藤まさあき 収録作品/銀猫・第1章~第10章 発行所/芸文社 初版発行日/昭和49年12月12日 シリーズ名/芸文コミックス(No.39) |
■ライター紹介
【猫目ユウ】
フリーライター。ライターズ集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。