「うちの本棚」、第六十四回はあべこうじのもうひとつの一面、ハートフル路線の傑作『のら犬ズック』です。時にポエジーに、時に哀愁をおびた、心の温まる4コマ作品です。
4コマギャグ漫画家としてそれなりの位置を確立し、単に笑わせるだけというよりはお色気ネタを得意とするということで人気も集めていたあべこうじが、当時流行ったハートフル路線に挑戦した作品。
のら犬のズックとあゆみちゃんという少女を中心に展開する4コマ形式のもので、時に詩として成り立つようなモノローグも含まれており、あべこうじの別の一面が見られる。
漫画界的にはわたせせいぞう作品のヒットにより、ハートフル路線のショートショートともいえる作品が多く発表されていた時期だったと思うが、この『のら犬ズック』はその流れに乗ったとはいえ、4コマという形式、そして内容的な部分で、永島慎二の『旅人くん』の路線と言っていいだろう。とくに犬の視点で社会や自然を見つめなおしてみるところは『旅人くん』に共通する感覚といっていい。
時事ネタが含まれる4コマ作品は少し時間が経つと急激に古さを感じてしまうが、ハートフル路線はいま読み返しても通じる温かさや発見があり、ぜひ復刊してもらいたい作品といえるのだけれど…実はこの作品も発行当時1巻の表記があるものの、続巻が刊行された記憶がない。実際あべこうじの単行本は『のり巻家族』や『かぐや草紙』など、1巻のみで終わってしまった単行本がいくつかあって、非常に残念だ。
素朴な温かさを表現したこの『のら犬ズック』だけでも完全版の復刻を望みたい。
書 名/のら犬ズック 著者名/あべこうじ 収録作品/のら犬ズック 発行所/竹書房 初版発行日/1989年1月20日 シリーズ名/バンブーコミックス |
■ライター紹介
【猫目ユウ】
フリーライター。ライターズ集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。