今回の「うちの本棚」は、番外編として11月15日から公開される映画『TATSUMI』をご紹介いたします。
「劇画」の命名者としても知られる辰巳ヨシヒロの自伝的作品『劇画漂流』を中心に、5本の短編作品を織りまぜた、辰巳ヨシヒロの魅力を満喫できるアニメーション映画です。
本作はシンガポールで作られた日本語のアニメーション作品。原作は辰巳ヨシヒロの自伝的な作品『劇画漂流』と5本の短編作品で、辰巳の自伝に5本の短編作品を挿入するという構成。
とにかく驚かされるのは辰巳の画がそのまま動いているということ。へんにアニメ用にキャラクターを変更したりすることなく、辰巳劇画の画風をそのまま使っているところに感心する。最初は作品の画面をそのまま撮影した大島 渚監督の『忍者武芸帳』スタイルの映画かと思ったのだが、そうではなかった。セリフに合わせて登場人物の口が動くことは少なく、その点では劇画作品を見ている感覚も残している。それでいて汗が流れたり、表情が変化したりとアニメーションであることも忘れない演出がされている。しかもそれが日本国内ではなく、海外で作られているのだから2度びっくりといったところだ。
辰巳ヨシヒロは関西出身の劇画家であり、「劇画」という言葉を作った人物。もともとは関西の貸本漫画作家であったが、同郷の仲間たちとこれまでの漫画とは違うもの(児童向け作品ではなく大人も楽しめるシリアスな作品といった方がいいか)を目指し、「漫画」に変わる名称として「劇画」を考案。仲間たちと共に「劇画工房」を結成する(さいとう・たかをも参加していた)。
やがて貸本自体が衰退し、辰巳ヨシヒロも雑誌へと活躍の場を広げていく。本映画に取り上げられた5本の短編もそんな時期の作品だ。
正直な話し漫画が好きだ、漫画を読んでいるという人の間でも辰巳ヨシヒロという名前や作品はあまり知られていないのではないかという気がする。「劇画」の創始者ということもそれほど一般的には知られていないだろう。
本映画のチラシには「日本だけ知らない」というコピーが入っている。まさにその通りだろう。ある程度の漫画マニアあるいは貸本漫画を読んでいた世代でないと辰巳ヨシヒロという名前や作品はなじみがないのは事実だと思う。
だからこそ、本映画は多くの人に観てもらいたい。漫画・劇画好きな人はもちろんのこと、あまり興味がないという人にこそ観てほしいと思う。取り上げられた5本の短編作品が、日本の劇画の底力のようなものを感じさせてくれるだろう。
本作品は2014年11月15日より「角川シネマ新宿」ほかでロードショー公開されます。
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原作である『劇画漂流』に関しては本連載の第6回で取り上げたので省略いたします。その他、映画で取り上げられた5本の短編について、短くご紹介しておきましょう。
『いとしのモンキー』『男一発』『グッドバイ』は小学館漫画文庫から刊行された『鳥葬~異色ロマン傑作集1~(昭和51年6月20日初版発行)』に収録されています。
また以上の3作は青林工藝社刊行の『大発見(2002年11月25日初版発行)』に再録され、『はいってます』もここに収録されています。
そして、エリック・クー監督が最初に使うことを決めていたという『地獄』は、青林工藝社刊行の作品集2冊目『大発掘』の冒頭に収録されています。ヒロシマを題材にした作品だけに海外での注目度も高かったのかもしれません。
映画をキッカケに辰巳作品も広く読まれることを願っています。
監督/エリック・クー
キャスト/別所哲也(声の出演/ナレーションほか6役)、辰巳ヨシヒロ
2011年/96分/シンガポール
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)