おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】番外編/TATSUMI

 今回の「うちの本棚」は、番外編として11月15日から公開される映画『TATSUMI』をご紹介いたします。

 「劇画」の命名者としても知られる辰巳ヨシヒロの自伝的作品『劇画漂流』を中心に、5本の短編作品を織りまぜた、辰巳ヨシヒロの魅力を満喫できるアニメーション映画です。

  • 【関連:234回 悪い子/樹村みのり】

    TATSUMI

     本作はシンガポールで作られた日本語のアニメーション作品。原作は辰巳ヨシヒロの自伝的な作品『劇画漂流』と5本の短編作品で、辰巳の自伝に5本の短編作品を挿入するという構成。

     とにかく驚かされるのは辰巳の画がそのまま動いているということ。へんにアニメ用にキャラクターを変更したりすることなく、辰巳劇画の画風をそのまま使っているところに感心する。最初は作品の画面をそのまま撮影した大島 渚監督の『忍者武芸帳』スタイルの映画かと思ったのだが、そうではなかった。セリフに合わせて登場人物の口が動くことは少なく、その点では劇画作品を見ている感覚も残している。それでいて汗が流れたり、表情が変化したりとアニメーションであることも忘れない演出がされている。しかもそれが日本国内ではなく、海外で作られているのだから2度びっくりといったところだ。

     辰巳ヨシヒロは関西出身の劇画家であり、「劇画」という言葉を作った人物。もともとは関西の貸本漫画作家であったが、同郷の仲間たちとこれまでの漫画とは違うもの(児童向け作品ではなく大人も楽しめるシリアスな作品といった方がいいか)を目指し、「漫画」に変わる名称として「劇画」を考案。仲間たちと共に「劇画工房」を結成する(さいとう・たかをも参加していた)。
    やがて貸本自体が衰退し、辰巳ヨシヒロも雑誌へと活躍の場を広げていく。本映画に取り上げられた5本の短編もそんな時期の作品だ。

     正直な話し漫画が好きだ、漫画を読んでいるという人の間でも辰巳ヨシヒロという名前や作品はあまり知られていないのではないかという気がする。「劇画」の創始者ということもそれほど一般的には知られていないだろう。

     本映画のチラシには「日本だけ知らない」というコピーが入っている。まさにその通りだろう。ある程度の漫画マニアあるいは貸本漫画を読んでいた世代でないと辰巳ヨシヒロという名前や作品はなじみがないのは事実だと思う。

     だからこそ、本映画は多くの人に観てもらいたい。漫画・劇画好きな人はもちろんのこと、あまり興味がないという人にこそ観てほしいと思う。取り上げられた5本の短編作品が、日本の劇画の底力のようなものを感じさせてくれるだろう。

     本作品は2014年11月15日より「角川シネマ新宿」ほかでロードショー公開されます。

    ********************

     原作である『劇画漂流』に関しては本連載の第6回で取り上げたので省略いたします。その他、映画で取り上げられた5本の短編について、短くご紹介しておきましょう。
    『いとしのモンキー』『男一発』『グッドバイ』は小学館漫画文庫から刊行された『鳥葬~異色ロマン傑作集1~(昭和51年6月20日初版発行)』に収録されています。
     また以上の3作は青林工藝社刊行の『大発見(2002年11月25日初版発行)』に再録され、『はいってます』もここに収録されています。
     そして、エリック・クー監督が最初に使うことを決めていたという『地獄』は、青林工藝社刊行の作品集2冊目『大発掘』の冒頭に収録されています。ヒロシマを題材にした作品だけに海外での注目度も高かったのかもしれません。
     映画をキッカケに辰巳作品も広く読まれることを願っています。

    監督/エリック・クー
    キャスト/別所哲也(声の出演/ナレーションほか6役)、辰巳ヨシヒロ
    2011年/96分/シンガポール

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • うちの本棚
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第六回 劇画漂流/辰巳ヨシヒロ

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 丼にサンマが丸ごと横たわる衝撃 牛角の「秋刀魚ラーメン」実食レポ

      丼にサンマが丸ごと横たわる衝撃 牛角の「秋刀魚ラーメン」実食レポ

      焼き肉チェーンの牛角は9月4日より、サンマを丸ごと一尾のせた「牛角流秋刀魚ラーメン」を販売しています…
    2. 伝説のカンフー映画「酔拳」吹替版、YouTubeで1か月限定無料配信

      伝説のカンフー映画「酔拳」吹替版、YouTubeで1か月限定無料配信

      ジャッキー・チェン主演の名作アクション映画「酔拳(吹替版)」が、Prime Videoの「シネフィル…
    3. 小学生の耳からシャーペン消しゴム 耳鼻科で無事摘出

      小学生の耳からシャーペン消しゴム 耳鼻科で無事摘出

      小学6年生の男児が耳の痛みを訴え受診したところ、耳の奥からシャープペンシルの消しゴムが摘出されました…

    編集部おすすめ

    1. 松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え

      松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え

      エイベックスの松浦勝人会長は9月4日、自身のX(旧Twitter)で新たに「松浦顧問制度 シーズン1」を立ち上げたことを報告した。内容は「月…
    2. 「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる……」Xで飼い主さんにこうつぶやかれたのは、4羽の白文鳥さんたち。添えられた写真には、4羽が棚の上に連なって集まり、まるで連…
    3. 法事でオリジナルTシャツ!?音楽フェスのような斬新な引き出物が話題

      法事で配られた家紋&没年入りTシャツが話題 “フェス感”漂うセンスに爆笑

      法事の引き出物(お返し)といえばお菓子やカタログギフトが王道ではないでしょうか。しかしときには予想だにしない品をもらうこともあるようで……。…
    4. 災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      フィリップ モリス ジャパン(PMJ)が、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)と共同で、避難生活に特化した支援ネットワーク…
    5. 「週刊文春」2025年9月4日号(8月28日発売)

      週刊文春、最新号表紙は「白紙」 48年続いた和田誠さんの表紙絵に幕

      総合週刊誌「週刊文春」は、2025年8月28日発売の9月4日号で48年間にわたり表紙を飾り続けたイラストレーター・和田誠さんの絵を終了し、大…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト