ロシアの首都モスクワで、恒例のミリタリー音楽祭「スパスカヤ・タワー2020」が、8月28日~9月6日の日程で開催されました。この音楽祭はロシアの夏を締めくくるイベントとして親しまれており、2020年は空挺部隊創設90周年、そして第二次世界大戦終結75周年を記念したパフォーマンスが見られ、その様子がYouTubeなどで配信されました。

 ロシアの夏を締めくくるイベント「スパスカヤ・タワー」は、クレムリンにそびえるスパスカヤ塔(救世主の塔)の名を冠し、モスクワの赤の広場を会場に開催される、ロシア最大のミリタリー音楽祭です。日本からも2019年、陸上自衛隊中央音楽隊が初めて参加して演奏を行いました。

 毎年外国の軍音楽隊も招待されてパフォーマンスを披露する「スパスカヤ・タワー」ですが、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大という状況を考慮し、ロシア軍の音楽隊のみが出演し、観客も大きく数を減らしてのものとなりました。とはいえ、もともと規模の大きいロシア軍ですから、その音楽隊だけでもバラエティ豊かです。

 プログラムの最初を飾るのは、モスクワの警備を担当する陸軍第154独立警備連隊(プレオブラジェンスキー連隊)。ロシア連邦軍の儀仗隊も務める部隊が、チェルネツキーの行進曲「祖国へ栄光あれ」や、アニメ「ガールズ&パンツァー」第9話のプラウダ高校が登場するシーンで流れたことでも知られる「ポーリュシカ・ポーレ」などを演奏しました。

 また、ジュニアオーケストラとして、モスクワの第1770学校の生徒たちによる音楽隊も出演。息の合ったマーチングドリルを披露しています。

 2020年は第二次世界大戦終結75年ということもあり、それをモチーフにしたパフォーマンスも。ロシア連邦保安庁音楽隊による、大祖国戦争(独ソ戦)での戦闘機パイロットの戦いを描いた1973年の映画「Only “Old Men” Are Doing Into Battle(戦いに出るのは達人ばかり)」の音楽が演奏される場面では、会場に実物のLa-5戦闘機が現れました。




 ソ連のラヴォーチキン設計局が開発したLa-5はスターリングラード攻防戦を皮切りに、特にクルスクの戦いで活躍した戦闘機。ソ連空軍(赤色空軍)でトップの撃墜数を誇るエースパイロット、イヴァン・コジェドゥープが愛機にしていたことでも知られます。1920年生まれのコジェドゥープは、ちょうど今年で生誕100年を迎えました。





 2020年は、ロシアの空挺部隊誕生90周年という記念の年でもあります。空挺部隊の音楽隊から選抜された合同バンドの演奏とともに、空挺部隊が歌と踊りを披露。



 会場のアリーナを覆いつくす幅26.76m、長さ40.05mという巨大な空挺軍の旗も登場。これは空挺部隊創設90周年を記念したパラシュート降下イベントのために作られたものですが、本当に大きなものです。




 クレムリン乗馬学校のチームは馬を使った「軽乗」と呼ばれる曲乗りを披露。1人が2頭の馬の背中に乗って歩いたり、モスクワコサック合唱団のダンスに合わせて動いたり、見事な腕前を披露しました。



 もちろん、海軍からも中央音楽隊が白い制服で登場。このほかにも、ロシア非常事態省の音楽隊が初出演しています。


 イベントの締めくくりは花火。今年は新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、観客数を大きく絞った分、YouTubeなどオンラインでイベントの様子が配信されました。このため、花火が会場の様子と同じ画面に映るよう、打ち上げる高さを高度140m以内にするという工夫がされたといいます。

 音楽監督を務めたティモフェイ・マヤキン少将は「私たちの音楽祭は世界的にも人気があり、この状況下を考えるとオンライン配信は必要不可欠のものでした。今年は非常にストレスの大きい年となりましたが、世界中から配信に関し、良い反応が返ってきていると聞いて喜ばしく思います。1年をかけて準備を進めてくれた国防省と開催事務局、そして出演者やスタッフのおかげで、この第13回スパスカヤ・タワーが開催できました」と、困難の多かった2020年の開催を総括するコメントを発表しています。

 日本武道館で開催される「自衛隊音楽まつり」に対して、欧米のミリタリー音楽祭は屋外で開催されることも多く、開放的な独特の雰囲気があります。新国立競技場を使ったマーチングフェスティバルが開催されるのも悪くない、と思わせてくれますね。

<出典・引用>
ロシア国防省 ニュースリリース
Image:ロシア国防省

(咲村珠樹)